A requiem to give to you
- The white departure(1/11) -



───……の者…






わ……えに…………よ






……命に………れ…この………






救…………っ……!!






*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇







「────……いっ……」

「! ルーク!?」



お気に入りの剣を手入れしている所に突如として襲ってきた頭痛。ルークは思わず剣を床に落とし、頭を押さえた。そんなルークの苦しげな声に振り向いたタリスは棚を整理していた手を止めて彼の側に行った。



「どうしたの? 大丈夫?」

「……あ、あぁ…………いつもの頭痛だ」



緩く頭を振り、痛みを紛らわせるようにしてそう言うルークに、タリスはいつしか聞いていた記憶障害の後遺症の話を思い出した。



「と言う事は、幻聴も聞こえたの?」

「あぁ。何か、言ってたみてぇだけど……相変わらず何言ってんのかよく聞き取れねぇよ」

「そう……」



一体何なんだっつーのっ、とルークは舌打ちをした。ファブレ公爵やガイ達は失った記憶の断片かも知れないと言っていたが、果たしてどうなのだろうか。ルークの話を聞く限りだと、直接頭に話しかけられているような感じらしい。自分は記憶障害を患った事はないからはっきりとは言えなかったが、もしかしたらそれは誰かが何かをルークに伝えたいのかも知れないとも思った。世界を超えたり、魔法のような事が出来る世の中だ。それくらい出来ても不思議ではない。

だとしたら、それは実は今後に関わる大事な事だったりして………



(って、随分とこの世界に感化されたわねぇ。私も)

「ところでタリス」



頭痛が引いたのか、既にいつもの様子に戻ったルークが話掛けてきた。タリスは思考を中断して「何?」と彼を見ると、ルークは窓の外を指差して言った。



「アレは一体何があったんだ?」



その言葉に彼が指差す窓の外を見やれば、ヒースが練習用の木刀を片手にガイから剣術を教わっていた………筈だったのだが、



「的当てゲームかしらねぇ?」



確かに木刀は持っている。しかしその使用用途が明らかにおかしかった。暫くはあの事件以来身体が軽くなった事で身に付いた素早さと、元々あったバランス力を生かした戦法でガイとチャンバラを繰り広げて居た。しかし今タリス達が見た光景とは、ガイから木刀を奪い取りその眉間に全力で投げ付けている姿だった。物凄いスピードで飛んで行った木刀は見事にガイの眉間にクリーンヒットし、彼はそのままひっくり返って目を回してしまったのだ。



「あんな剣術有りかよ……」

「さぁ?」



世の中には様々なやり方がある。探せばそう言った剣術を使う人くらいいるだろう。そんな事を思っていると、倒れたガイを見ていたヒースが口を開いた。



「やべ、すっぽ抜けた」

「嘘吐け!!」



全力で投げつけてたろ、とルークが突っ込むと、彼はいやいやと首を振った。



「ホントホント、コレが扱い辛いんだよ」



元々やたらと鍛えまくっていた彼だ。あまり知られてはいないが、実は結構力がある。この邸に来てからも重たい物を運ぶ作業を何度かやらされていたが、物を持つ事に関しては特に苦にはなっていないようだった(歩くスピードはともかく)。だからなのだろう。木刀では逆に軽すぎて力がセーブ出来ないのかも知れない。因みに逆に力がありそうで実は結構貧弱なここにはいない某恋人は一度もヒースに腕相撲で勝った事がなかったりする。



(宙とは互角ぐらいだったかしら? いえ、もしかしたらもう超えたかも知れないわねぇ)



どんなに力があっても、所詮は男と女。差が出てくるのも仕方がない事だ。そんな事を思っていると下の方から呻き声が聞こえてきた。



「いっててて……ヒース、投げるならもっと優しく投げてくれよ」



そう言いながら額を抑えたガイが漸く起き上がった。先端の方から思い切り当たっていたから、その手の下はきっと面白いくらいに赤くなってる事だろう。


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