Rondo of madder and the scarlet
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【2/2】


「え、と。お兄さん達は西高の方ですよね?」



話題を変えるように男の子がそう聞いてきた。何だかちょっと気を使わせてしまったようだが、睦がそれに合わせるように頷いた。



「せやで! ようわかったなぁ」

「ええ、とある友人が通っているものですから」

「そうなんだ。君は、東一の中等部の子だよね」



なんだかあまり聞き慣れない言葉に首を傾げていると、男の子ははい、と頷いた。



「ご存知なんですね」

「従姉妹が高等部に通ってるの」



そう言えば、時間的な都合であまり見ないが、宙の制服もまた赤色だった気がする。なら茜が知っていてもおかしくはないだろう。

そんな事を思っていると、男の子は左手にしている腕時計を見てあっと声を出した。



「すみません。僕はこれから用事があるので、これで失礼しますね」

「ええよ、ええよ。こっちが勝手に巻き込んだだけやから」

「大体が睦君のせいだけどね」

「あーちゃんーーーーーっ」



酷いわぁ〜と叫ぶ睦に男の子はもう一度笑うとルークを向いた。



「良ければ今度、ウチの学校に遊びに来てください。歓迎いたしますので」

「あ、ああ。わかった。ぜひ行かせてもらうよ」



そう返すと男の子は嬉しそうな笑顔を浮かべると「約束ですよ」と言ってすぐ側の建物へと入っていった。



「って、ここって………」

「りっくんの住んでるマンションやな」



そう、男の子が入っていったのは本日も絶賛サボリ中な陸也が住んでいるマンションだった。



「ここに住んでるのかな?」

「うーん、俺よく来るけど、見た事あらへんなぁ」

「最近越してきたとかじゃないか?」



それなら見た事なくても仕方ないだろうし。そう言うと睦はどこか腑に落ちない顔をしていたが、「そうかも知れへんね」と返した。



(………それにしても、よく似てたな)



でも相手は自分の事は知らない様子だったし、本当にただ似ているだけなのかも知れない。



(もしかしたら、他にも俺の知ってる奴と似た人がいるのかな……?)


「って、そんな都合良くいるわけないか」

「何が?」



思わず言葉に出てしまっていたらしい。不思議そうに問い掛けてくる茜に「何でもないよ」と言うと、再び三人で歩き出した。



*◇*◇*◇*◇*◇*◇*◇




「いやぁ、実に面白いモノを見たよ。まさか本当にこんな事ってあるんだね」



そう言って無遠慮に人の家の冷蔵庫を漁る黒髪の少年を陸也は問答無用で叩いた。



「痛いよ」

「なンっでここに来る奴はどいつもこいつも我が物顔で人ン家の物を物色するんだよ!」



頭を擦りながら宣う少年に陸也は不機嫌そうにそう言う。



「良いじゃん。どうせ独り暮らしでしょ。それにアンタ元々あんまり食べないんだから処理してやってるんじゃない」

「どっかの参謀長みてェな事言ってンじゃねーよ」

「あはは、これはまた懐かしい例えが出てきたね」



そう言って笑う少年に反省の様子は見られない。それどころか「客人にお茶の一つも出さないのかい?」だなんて聞いてくる始末だ。



「テメェを呼んだ覚えはねェ」

「そもそも人呼ばないじゃない」

「おー、だからンな気の利いた物はねーンだよ」



だから早く帰れと言う意味を込めてそう言ったが、少年「まぁ、別にいいや」などとほざき話題を変えてきた。



「パラレルワールドってホントにあるんだね」

「………そりゃ、道筋は一つとは限らねーからな。それに、どっかの誰かさんみてェに同じ"タマシイ"を持って別の世界に生まれてくる奴だっているし」

「ふーん。じゃあ、今年ウチの学園に編入してきた奴等もそうなるのかな?」

「奴ら?」



何やら引っ掛かる物言いに陸也は思わず聞き返すと、懲りずに冷蔵庫から料理用の牛乳を取り出して飲む少年は一つ息を吐いた。



「はー、牛乳ウマ。前世にいた世界でのそっくりさん達に会ったんだよ。ま、あっちは本当に地球人だけどね」

「フン、異世界同士の時間は繋がってねーからな。それにタマシイだっていつも同じ世界に生まれ変わるとも限らねェ」



少年の持つ牛乳パックを奪い返しながら言うと、「まぁ、そうだろうね」と少年は返す。



「じゃなきゃ僕が"ここ"にいるわけないし」

「記憶を持って、てのは予想外だけどな」

「そうだね。でも、記憶があったからこうして僕はまた君達と縁が出来たんだよ。まだ会えてない人もいるけど」



そう言って少し残念そうに苦笑する少年に陸也はある事を思い出し、テーブルの端にあるチーグルの縫いぐるみ(訳あって超不本意ながら作った)の横に置いておいた一通の手紙を取り出した。



「お前の言う会ってない奴なら今度帰って来るぞ」

「本当に?」



パッと顔を明るくさせる少年。その顔は珍しく年相応で陸也は調子が崩れそうになりながらも手紙を手渡した。



「こんな事で嘘なんかつかねーよ。来週辺りには帰国するってさ」

「へぇー……………って、これは………」



手渡された手紙を読んでいた少年の顔があからさまに変わった。次いで何とも言えない顔で陸也の顔を見てきたが、それを軽くスルーすると少年に言った。



「多分、これから荒れるだろうな」

「それは君がかい」

「違ェよ。そいつン家が、だ」



意味がわかったのか、少年は「あぁ」なんてアホみたいな声を出して手紙を返してきた。



「やだねぇ。どこの世界もこう言うのばかりで」

「それでも、凡人にはわからン考え方だけどな」

「ごもっともで」



そんなやり取りをしながら、陸也は深い溜め息を吐いて手紙を元の位置に戻したのだった。



2013.12.21

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