Rondo of madder and the scarlet
- 進展ヲ齎ス風- samsara - -

【1/2】


長い夏休みが終わり、久々の学校への登校だった。
始業式の日と言うのは大体の学校が午前中に終わるので、生徒たちにとっては実に嬉しい日である。
この後どこへ行こうか、何をして遊ぼうか、なんてあちらこちらでそんな話に花を咲かせる人達を後目にルークは睦と共に茜のいるクラスへと向かい、早々に学校を後にしたのだった。



「はぁ〜。抜き打ちテストがないのはホンマにええなぁ〜」



歩きながらの帰り道。間延びをしながらそんな事を言う睦に茜も「そうよね」と小さく笑って頷いた。



「前の学校じゃ、始業式の度にいきなりテストをやる時があるから大変だったよ」

「そうなのか。大変だなぁ」



って言うか、不定期なのか。面倒臭いな、と返すと二人はうんうんと何度も首を縦に振る。



「そうなんや! しかも範囲不明、教科数もその度に違うからもう、いつも地獄を見てたわ」

「それでも睦君は勉強は出来るから良いじゃない。寧ろ地獄を見るのはわたしの方よ」



思い出して落ち込んだのか、茜ははぁ、と重い溜め息を吐いた。

ルークも初めはかなり驚いたのだが、睦はこう見えてかなり頭が良い。特に理数系は得意らしく、いつもクラスでトップだった。伊達に現委員長を務めてはいないなとも思う。



「あ、そう言えば」



驚いたと言えば、もう一つあった。



「聖と愛理花って、生徒会だったんだな」



今日の始業式で生徒会長の挨拶と言うのがあった。その時に壇上に上がったのが聖だった。その事に盛大に驚いていた隣で、愛理花がこっそりと彼と自分が生徒会の会長と副会長である事を教えてくれたのだ。



「まぁ、生徒会なんて、普段行事があった時ぐらいしか表に出て来ないもんやからなぁ」

「そう言えばこの学校って体育祭がないわよね。だから今までこれと言った大きな行事がなかったから、わたし達が知らないのも無理ないよ」



茜曰く、体育祭と言うのは初夏辺りで行われる事が多いらしい。確かに春に転校してきて、今までこれと言った大きな行事はなかった。聖や愛理花も聞かれてもいないのに態々自分は生徒会だなんて言う性格でもないと思う。
………成る程、これは確かに言われてみなければわからない。



「でも、や。これからは文化祭があるし、向こうもこっちも忙しくなるで」



と、睦が笑う。



「文化祭って?」

「えっとね、外からのお客さんを呼んで、クラスや部活で模擬店などの出し物をするお祭り、かな」



お客さんは家族の他に他校の人だったり、卒業生や地域の子供とかも来るんだよ。そう言って説明する茜にそうなのか、とルークは納得したのだった。



「ま、その話は追々ホームルームの時間なんかでされてくと思うで! 俺もこの学校の文化祭は初めてやからめっさ楽しみやわぁ♪」



そんな睦の言葉に茜と共に頷いた時、不意に強い風が吹いた。



「おわっ!?」

「きゃ、っ」



いきなりの事に思わず転けそうになるも、同じようになっている茜を支えて何とか踏み留まる。



「あ、ありがとうルーク」

「いや、別に……」



小さく微笑みながらお礼を言われ、一瞬だけ心臓が跳ねた気がしたが、それを隠すように淡々とそう返すと、支えていた手を離す。それと同時に足元から恨めしい声が聞こえたきたのだった。



「俺の事も助けて欲しかったわぁ………」



ルーくん酷い、と地面に俯せで倒れ込む睦はどうやら完全にあの突風で転んでしまったらしい。そんな彼に苦笑しながら手を差し出すと、睦はぶすっとした顔のまま手を取って立ち上がった。



「ぶー」

「わ、悪かったって。そう怒るなよ」

「別に怒ってないわー」

「怒ってるじゃないの」



もう、子供ね。なんて言う茜に乾いた笑いをしていると、近くで誰かが笑う声が聞こえてきた。



『???』



思わず三人で笑い声の主を振り替える。………そして固まった。



「仲がよろしいのですね」



そう言ってクスクスと笑うのは中学生位の男の子。珍しい赤い制服を着ている事から恐らく私立に通っているのだと思う。

────いや、それよりも



「イ…………っ!?」

「あ、すみません。ずっと笑っていては失礼ですよね」

「ううん、良いのよ。格好悪い所を見せていたのはこっちだから」



酷く驚くルークに申し訳なさそうに眉を下げる男の子に茜が睦を横目で見ながらそう返す。
それに睦はうっ、となって「あーちゃんそんな顔で見んといてや〜」と苦笑した。
そんな三人の会話を聞きながらもルークは男の子の顔を見ていた。………と、言うのも、ルークにはその男の子の姿が自分の嘗ての友人と瓜二つだったからだ。

黒い髪に黒い目、少し短いが男にしては長めの横髪。多少の違いはあれど、その顔と丁寧で控え目な話し方などは間違いなく、元の世界にいた時に一緒に旅をしていた彼の優しい友人その者だったのだ。



「あの、やはり気に触りましたか?」

「え、?」



突然尋ねられて慌てて聞き返す。どうやら何も喋らずに見ていたから怒っているのだと勘違いしてしまったようだ。



「あ、いや別に怒ってねぇよ。ただちょっと、知り合いに似ている気がしたしただけっつーか……」

「ルークの知り合い?」

「うん。前に故郷でこいつみたいな奴がいたから、つい」



首を傾げる茜にそう答えると、何となくわかったようで「そうなんだ」と言ってこれ以上深くは聞いてこなかった。



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