Rondo of madder and the scarlet
- 田舎へ行こう! -

早朝7時30分。果たしてそれは早朝と呼ぶべきかは微妙な所だが、朝日は既に登り切り、気温も絶賛上昇中である今日この頃。茜とルークは桐原の家の前に皆と集まっていた。

しかし何故こんなにも朝早くからなのだと言うと、数日前に桐原から宙へと彼の実家の田舎へ行かないかと言う電話が入ったのが始まりだった。宙曰くここ数年毎年行っているとの事で、良かったら茜やルークもと誘いを受けた。そして今に至り、現在桐原家前には桐原本人を始め、茜、ルーク、宙、睦、愛理花、そして……



「何だか今年は随分と大人数じゃない。どうしちゃった訳?」



桐原 聖………の妹である清乃がいた。

清乃は兄と同じ真っ黒な癖のある髪で、茜より少し長い。顔立ちも桐原が眼鏡を外せばとてもよく似ている。身長は愛理花も高いが彼女も女性にしては高い方で、兄と並べばまるで双子のようにも見えた。

そんな彼女の隣では、彼女や桐原とよく似た顔立ちの女性がクスクスと笑っていた。



「あら、良いじゃない。それだけ聖の友達が増えたって事でしょう。それに賑やかなら賑やかなだけあの人の喜ぶわよ」

「もう、お母さんったら」



清乃はそう言って溜め息を吐く。それに何だかここにいるのが申し訳ない気持ちになり思わず俯く。それに気付いたルークも何とも言えない顔をしていたが、そんな二人に桐原が肩を竦めながら言った。



「清乃が言った事は気にしなくて良いから。本当は僕と違って大勢で騒ぐのが好きな癖に、ひねくれてるからね。素直じゃないだけ」



だから気にしなくて良い、と言うがそれはそれで逆に本当に来て良かったのかと不安になる。茜は思わず桐原兄妹の母こと立夏を見た。



「良いのよ良いのよ! さっきも言ったけど賑やかな方が楽しいしね。ああ言う聖も誰に似たのか素直じゃない所があるから、あまり真に受けないでね!」

「は、はぁ……」



いまいち頷いて良いのかがわからずに曖昧な返事をしていると、清乃が「それよりも!」とどこか怒ったように己の兄に詰め寄っていた。



「陸也さんがいないじゃないのよ! まさか来ないとか言わないでしょうね?」

「あー、あいつは途中で迎えに行くから良いんだよ」



そう彼が答えると清乃は途端に怒りを引っ込めるとニコッと笑った。



「あっそ、なら良いわ!」



何だか嬉しそうにも見えるその表情にルークが何故か遠い目をしていた。



「ルーク?」

「え……あーいや。何か故郷に似たような奴がいたなぁって思って」



そう言ったルークはちょっと懐かしそうで、それでいて少し寂しげだった。そんな彼に何かを言おうと考えていると、欠伸混じりの宙の声が聞こえてきた。



「ふぁ……てか、アイツ。一人暮らし始めたって聞いたけど、……別にここに来るくらい平気じゃね?」



アイツ、とは陸也の事だろう。確かに彼が住んでいるマンションからここまでは徒歩で20分もかからないくらいだ。別に迎えに行くほど離れている訳ではない。

そんな事を思っていると、今度は睦が宙の肩を叩きながら疑問の答えを言っていた。



「まぁ、りっくんにも色々と事情があるんや。実家が直ぐ目の前にあったらやっぱ気まずいもんやで」

「そう言うもんかねー」

「そう言うもんやろ」

「え、て言うかそれってどう言う事?」



なんとなく気になって睦に聞けば、彼は苦笑しながら桐原の家の直ぐ隣りの一軒家を指さした。



「あそこがりっくん家なんや」

「え、ええええ!?」



まさかの事実に思わず素っ頓狂な声を上げる。しかし桐原の家の隣りと言う事は、陸也と桐原の付き合いも相当長いのだろう。思えば祭りの時も一緒にいたし、仲も良さそうに見える。



(仲の良い友達と家が隣同士な上に高校まで一緒だなんて…………でも、何だかちょっと羨ましいかも)



信頼出来る友達。人と人との縁。"友達"の他にも、"恋人"や"夫婦"、"家族"、"兄弟"もソレを表す言葉だ。しかしそれは永く続くようで、実はちょっとした事で簡単に切れてしまう。

そう、小さなすれ違い一つで、信頼や愛など………なくなってしまうんだ。






……………。






「あーちゃん」



ふと、睦に呼ばれて振り返る。彼は暫し茜をじーっと見つめた後、ニッと笑った。



「皆、もう車に乗ってるで。俺らも早よ行こうや」

「え、あ……うん」



睦に促され、立夏が出したワンボックスカーに乗り込む。中は既に満員近くで、後から来る陸也が入るか少し心配だ。



「なぁ」



そんな事を思いながら座席に座ると、隣りに座っていたルークが声を掛けてきた。



「なに?」



そう聞き返せばルークは途端に戸惑うように視線を泳がす、どうしたのだろうかと思いながらも答えを待ったが、彼は「やっぱり何でもない」と言って顔を逸らしてしまった。

それから立夏の元気な掛け声と共に車が発車したのは直ぐのことだった。



2012.09.28
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