Rondo of madder and the scarlet
- それは突然始まる物語 -

桜の舞う季節。弥生から卯月にかけては、別れがあり出会いもある時期だ。特に四月は年度の始まりで、人々は心機一転、真新しい気持ちで一年をスタートさせる事だろう。



「……………」



勿論、この少女もである。赤茶色をしたセミロングの髪、まだ袖を通したばかりと思われる新しい制服。背はどちらかと言えば小柄で、少し釣り上がった目がどことなく愛らしい。

少女はつい先日に地方から出て来たばかりで、今日から高校二年生として新しい学校へと通うのだった。
ただ、地方からと言っても家族と一緒に越してきた訳ではなく、彼女一人で来ていた。家は今は従姉妹の所で居候と言う形でお世話になっていた。

桜の花弁が落ちてちょっとした絨毯になっている小道を抜け、この町で一番大きな樹のある公園へと差し掛かった。



「うわ……」



公園へ目を向けると、思わず感嘆の声が漏れた。公園の木々は中心にある大きな木を除いて皆見事な花を咲かせていた。
薄いピンクの花はソメイヨシノ、濃いピンクはカンヒザクラで、白く花弁の数が多いのは恐らく桃の花だろう。平日でまだ朝も早い為か人も居らず、日の光を浴びた花々が美しく光りとても神秘的だった。



「こっちでもまだこんな光景が見れるのね」



春の桜、秋の紅葉については少女の故郷は名所が多く有名だった。しかしそれにもなかなか引を取らない光景に素直な感想を口にした。



「まだ……時間あるよね」



そう呟くと、もう少し近くで見てみようと公園へ足を踏み入れた…………その時だった。



「え……?」



誰かが、大きな樹の前で倒れていた。慌てて少女は駆け寄ると、その人の格好を見て目を丸くした。



(コスプレ……?)



初対面相手に大分失礼だが、そうは思わずにはいられない程、その人の格好は妙だったのだ。
否、格好もそうだが何よりも彼女の目を引いたのはその人の腰に携わっている剣だった。



(何かの撮影、かな? ……え、でもそれにしては周りに誰もいないし……何かリアル……)


そもそも撮影であれば周りはもっと人がいるだろうし、何よりも目の前で倒れている人物も彼女に気が付くし注意もしてくるだろう。どう見てもこのコスプレの人物は気を失っているように見える。



「……………」



どうしよう。ただその言葉だけが頭の中をぐるぐると回っていた。果たして声を掛けるべきか、救急車を呼ぶべきか……あるいは触らぬ神になんとやらで気付かなかった振りをするべきか。
そんな事を考えている内に、倒れている人物が呻き声を上げながら身動ぎをした。



「う…………」

「っ!?」



パチリ、と目を開いたその人物と目が合ってしまった。



「あ、あの………だ、大丈夫でひゅかっ!?」



取り敢えず何か声を掛けようと口を開いたが、緊張のあまり言葉の途中で思いっ切り噛んでしまった。



「うぅ………」



とてつもなく泣きたい。だがしかし見ず知らずの他人の前、そうも言ってられずに俯くしかなかった。



「あ、のさ……」



ふと、コスプレの人(仮)から声を掛けられ、肩を震わせながら顔を上げた。



「な、に……?」

「いや……その、ここって………どこなんだ?」






…………………。






どうやらこの人は大きな迷子のようだ。



「……………」



少女は言葉を失い、春の強い風の音だけがこの広い公園に響いたのだった。



2012.5.8
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