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『同じ年頃の子供と遊ばせてやりたい』

ーー先日、岬が電話で冬野に話していたことだった。
戸籍の問題に、言葉や一般知識不足といった問題を抱えたヒカルがいきなり学校へ通うのは難しい。そんなヒカルでも同世代の子供と触れ合える場所。
冬野が思いついた、岬の希望を実現させる場所がこのプレイルームだったのだろう。

「…ヒカルくんも、皆と一緒に遊んでみない?」

みんなと? 突然の冬野からの誘いにヒカルは戸惑うように岬を見上げた。
保護されるまでは一人きりで、保護された後も周りには大人しかいなかったヒカルだ。一緒に遊んでみないかと言われても、どうすれば良いかわからないというような困った表情に、岬は安心させるように笑みを浮かべれば頭をぽんぽんと撫でてやる。

「大丈夫だよ。俺もいるから、な?」

ヒカルは不安げに岬を見上げていたものの、やがて決意したようにゆっくりと頷いた。

「ヒカルくん、何して遊びたい?」

隣に屈んだ冬野に促されて部屋の中を見回す。積み木で遊ぶ子たちやお絵描きをする子たち、パズルをする子たちと、数人ずつに分かれ思い思いに遊んでいる。
ヒカルは暫し悩んだあと、おずおずとお絵描きをする子たちの方を指差した。

「ヒカル、絵描くの好きだもんな。行っておいで」

良かった。不安げにはしているものの、それでも自分から行ってみようとするヒカルの様子に岬はほっと息をついた。そしてヒカルの気持ちを後押ししてやるように、笑って小さな背中を押す。
子供たちだけの中へ入っていくならば、保護者の自分は少し離れて見守るくらいの方が良いだろう。岬の様子に、代わりに冬野がヒカルの手を取った。

「じゃあ一緒に行ってみましょうか」

その言葉に、ヒカルは緊張した面持ちで頷くとゆっくりと足を進める。冬野に手を引かれながらピンク色のカーペットの上を進むヒカルは、吊り橋の上でもわかっているように慎重で。岬はがんばれ、と静かに拳を握りしめたーー。

「皆、なに描いているの?」

大きな一枚の紙を囲みながら絵を描いていた三人の子供たちが、冬野の声に一斉に顔を上げた。小柄なヒカルと同じくらいの外見の彼らは、幼稚園の年長クラスや小学1年生といったところだろうか。三人は楽しげな笑顔を浮かべて冬野の言葉に答える。

「動物かいているんだよ!」

「みんなでね、動物園つくるの!」

聞いて聞いてと口を開いた子供たちの勢いに、ヒカルは思わず冬野の背中へと隠れた。
だが、ライオンにキリン、シマウマ。子供たちの描いた動物の絵が気になるようで、ヒカルは恐る恐るといった様子で顔を覗かせる。

「僕はゾウかいたんだよ!」

ゾウ…? 男の子の声につられて指さされている方を見ると大きく描かれたゾウ。ヒカルは凄いと言うように瞳を見開き、繋いでいた冬野の手を思わず強く握り締めた。
そんなヒカルの無意識の反応に、冬野はくすりと笑うと、ゆっくりとヒカルの手を引いて手前に引っ張りだす。

「すごいわねぇ! ねぇ、動物園作り、ヒカルくんも入れてあげてくれる?」

一気に三人の視線が向けられ、ヒカルは思わず冬野の腕に抱きつくようにして顔を隠した。
そんなヒカルの様子に、三人は興味津々といった様子でヒカルと冬野を交互に見る。

「ヒカルくん? だれー?」

初めて顔を合わせるヒカルに、髪をお下げにした女の子が首を傾げながら冬野に聞いた。

「この子がヒカルくんよ。病気でお喋りすることができないんだけれど、皆と一緒にお絵かきしたいんですって。仲良くしてあげてね」

自分のことではあるものの、どうすれば良いかがわからなくて。
ゆーじのところに戻りたいな。慣れない子供たちからの視線に逃げ出したくなるヒカル。だが、三人の子供たちはヒカルが逃げ出すよりも早くにっこりと笑みを浮かべた。

「いいよー!」

揃えて言われた大きな声に、ヒカルはびっくりした様子で瞳を見開いた。そんなヒカルに冬野は大丈夫というように笑いかけると、順番に子供たちを紹介する。

「ヒカルくん、優希(ゆうき)くんと太一(たいち)くん、美羽(みわ)ちゃんよ」

ゆうきくん、たいちくん、みわちゃん…。紹介された名前を繰り返すように口を動かすヒカルに、早速美羽が話しかけた。

「こんにちは! ヒカルくん、クレヨンかしてあげる」

何色がいーい? とヒカルが返事を返す間もなくクレヨンを広げて見せる美羽に、冬野がそっと戸惑うヒカルの背中を押して隣へ座らせる。

「ヒカルはなにかく?」

なにをかこう…。太一の言葉に悩むヒカルに、優希が更に質問する。

「すきな動物なーに?」

うさぎ! 思わずぱくぱくと口を動かして答えたヒカルに、冬野は嬉しそうな笑みを浮かべながら助け舟を出した。

「ヒカルくんはうさぎが好きなのよね」

冬野の言葉にこくこくと頷くヒカルに、美羽が笑う。

「私もうさぎすき! なに色のうさぎ?」

白いうさぎが良いな。岬にもらったぬいぐるみを思えば、ヒカルは少し考えるように周りを見回したあと、大きな紙の何も描かれていない真っ白な部分を指差した。

「白いうさぎ?」

ヒカルが頷くと、美羽は少し悩んでから灰色のクレヨンをヒカルに差し出した。

「灰色でかいたら白いうさぎにみえるよ!」

ありがとう。ゆっくりとそう口を動かしながらクレヨンを受け取ると、ヒカルはくすぐったそうにはにかんだ。




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