「今日は騒がしいね。」

「すみません、私には何も聞こえないんですが。」

「……騒がしくなるよ。」


いきなり突拍子の無い事を言うのは今更だけど。
この静かな空気が易々と破壊されるとは思えな


「よォーッ!!」


壊された。


「相ッ変わらずだな、二人共!元気にしてたか?」


薄い茶髪のウルフカット、それを濃くした色の瞳、グレーのジャケット、額に当てたゴーグル……何もかもが私の記憶と一致している。


──あれ?
見慣れない点が一つだけあった。

後ろから着いて来ている人物。
ストールで頭から首まで包んで彼女と同じゴーグルで目を隠してる。紺のクロークを纏い僅かに右袖が覗き手には革製の手袋……要するに肌を一切露出させていない。
頭の横から柄が覗いているから剣士だと思う。


「やぁ、アリー。どうしたんだい?」

「ははっ、前にお前が欲しがってた奴!手に入れたぜ?」

「ああ、あれ?」


え、マスター?
何か普通に話してるけど…。

その人物は軽く店内を見渡してからアリーさんの後ろについた。
怪しいけど……この店に入れたって事は害をなす人ではないと思う。


「君、あれ持ってきて。この相場だったら2ダースかな。」

「そりゃねぇぜ!苦労したんだからよ!」

「扱いが乱暴だよ。これじゃ価値が下がっても仕方ない。」

「ってちょっと!」

「やっぱり2ダースじゃ足りないよな!?」

「宝石は量より質だよ。特に水晶は魔法を吸収する分」

「違ぇよ!!」


んな事誰が聞くか。
もっと基本かつ違和感覚える事あるでしょうに。


「アリーさん、その人誰です?」


私がそう言うと二人ともポカンとした表情になった。
え、私変な事言った?


「ああ、知らなかったのかい?」

「ん?マスターは知ってたんですか?」

「いや、初対面。」

「じゃあ紛らわしい反応すんな!!」

「二人には紹介してなかったか?こいつはノスト、私の弟だ。」

「初めまして。」


聞こえた声はまだ声変わりを迎えていないらしい少年の物だった。


「はい、自己紹介タイム終わり!マスター、もうちょい高値で買い取れよ。」

「そうはいかないね。そもそも僕は言わなかったかな?開店中に商売を持ち込むのは止めてくれって。」

「ちぇっ……従業員A、テキーラ!」

「ありません。それとその呼び方止めて下さい。」

「そう言うと思ってな……じゃーん!!シードル買ってきたぜ!」


そう言ってアリーさんが取り出したのは林檎が描かれているラベルが貼られたビンだった。
“シードル”というのはどこの言葉、だっけ?

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