ファントムラヴァーにつながる話


 ふと気が付くと、暗い部屋の中に突っ立っていた。
 どうにも記憶が曖昧で、ここにいる理由はおろか、そもそもここがどこなのかすらわからない。俺は少しでも状況を把握しようと左右を軽く見回し、それから、くるりと身体を反転させる。

(……なまえの部屋か)

 振り返った先、ベッドの上では部屋の主が死んだように眠っていた。また無茶でもしていたのだろう。部屋に帰り着いてすぐベッドに倒れ込んだらしい様子のなまえに毛布をかけてやろうとして――失敗する。
 そして、俺は全てを理解した。試しに、今度はなまえの髪に手を伸ばしてみるが、結果は同じ。触れられない。

(……ああ、俺、死んだ、のか?)

 変わらず記憶は曖昧で、『その瞬間』の記憶もない所為か、妙に気分は落ち着いていた。
 ただ、もうなまえを抱き締められないのだと、頭を撫でる事も口付けを落とす事も出来ないのだと思うと、それだけが寂しかった。更に言うなら、おそらく今こうして成仏し損なっているのもなまえが気がかりだったからかと、我ながらその溺愛ぶりに苦笑が込み上げる。
 「泣くな……ってのは、まあ、無理だよなぁ」。触れられない事をわかっていながら、もう一度、撫でるようになまえの髪に手を添わせる。この姿が、声がなまえに認識出来るのかはわからないが、それでも、そうであれば良いと願って。

「なまえ、」



世話がやける
title request:『世話がやける』
20120205

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