※2nd
※アレマリ前提で暗い


「マリー、」

 アレルヤの声がする。これは、彼女の名を呼ぶアレルヤの声。そう認識した途端、わたしの足はまるで廊下に縫い付けられてしまったみたいに動かなくなる。
 あの声は嫌いだ。そして更に付け加えるなら、アレルヤも、アレルヤが連れてきたマリーと呼ばれているそのひとも、今となっては大嫌い。この感情が逆恨みや八つ当たりの類だということは知っている。それでもわたしには、罪悪感なんてものは少しもなかった。
 どうしてハレルヤだけがいなくなってしまったの。どうして元々は人革連のパイロットだった彼女がここにいることを許されているの。どうして、どこで会っても二人一緒で、あんなにしあわせそうな顔をしているの。
 その声を聞く度に姿を見る度に、わたしの心は暗く淀んでいく。何度も何度も何度も何度も、アレルヤは彼女の名前を呼ぶから。あれはハレルヤじゃないだなんてそんなことはわかっているけれど、現実、身体はひとつしかないから。あの身体は、アレルヤで、それからハレルヤだった。今はアレルヤしかいなくても、それでも。
 だからわたしは、あんなにも彼女を恋うアレルヤを目の当たりにして、ハレルヤをも彼女に取られてしまったような気がしているのだ。

(……だって。身体が同一であるならば。それなら。あれはアレルヤであり、同時に――ハレ、ル、ヤ?)

 ぐにゃり。唐突に、世界が歪むような錯覚。足元が覚束なくなって、わたしはその場にしゃがみ込む。
 ハレルヤはわたしの名前を呼ばなかった。ただの一度も。知らないということはない筈だけれど、覚えてくれていたかどうかまではわたしには確認のしようがない。
 そもそも、わたしがこんなにも、それこそ病気なんじゃないかと思えるくらいにハレルヤを愛していても、ハレルヤはわたしのことなんて大して気にかけてはいなかっただろう。
 それでも、少なくとも嫌われてはいなかった。それだけでよかった。名前を呼んでくれなくても、愛してくれなくても、傍にいることを許してくれていただけで(どうして、こんなささやかなしあわせすら奪われなければならないの?)。
 それなのに、ハレルヤはいなくなって、そのくせアレルヤと彼女はしあわせそうに笑っていて。あの鬱陶しい声が耳の奥で反響する。それはアレルヤが彼女を呼ぶ声。マリー、マリーととても愛しそうに、何度も何度も。ハレルヤの口で。

「――ッ!」

 ああいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだもうやめて! ハレルヤを返して!
 わたしは耳を塞ぎ目を閉じて考えることを放棄する。心を停止する。そうでもしなければ、気が狂れてしまいそうだった。
 「……はれる、や……」。祈るように小さく呟く。「ハレルヤハレルヤハレルヤ、ハレルヤ、」。まるでそれ以外の言葉を忘れてしまったみたいに、ただひたすら。


(わたしからハレルヤを奪う世界なんかいらない)(ぜんぶこわれちゃえ)



狂信者の祈り
20110216
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