愛の魔力(基豪)
2010/11/27 23:39




「眠れなくて、なんとなくここに来たら君が居た。それは俺の想定に反する事だったからさ、俺が予想していた俺の未来が、君とここで会った事で全く見えなくなっちゃったんだ。だから、俺は今すごく嬉しいよ」

グラスの中でたゆたう水を眺め、唐突に基山は語り出す。何の脈絡も無く口から吐き出された言葉は、向かいの席に座り静かに瞬きを繰り返す豪炎寺の鼓膜を震わせ、脳に侵入した。思考が咀嚼するように言葉を噛み砕き、疑問を一つ頭の中に残す。
照明を消したままの食堂。基山の優しい微笑は、窓から射し込む夜の月明かりに照らされており、静かな空間は壁に掛かった時計の長針の音さえ煩く感じさせる。

「嬉しいのか? 先が見えないのに」

「見えないのが楽しかったりするんだよ。いつも何でも思い通りなんて詰まらないし」

豪炎寺の視線が、一瞬、ゆらりと宙をさ迷い基山を捉えた。言葉に紛れ握られた豪炎寺の手が、テーブルの上に伸びる。何の抵抗もなく握り返す手。見詰めてくる純真な黒い瞳に、基山の心は擽られた。

「どうした?」

「ごめん、何でもないよ」

声静かに肩を揺らして笑い出す基山の表情が常より幼く、無邪気であり。つり上がり気味の目尻は柔らかく緩んだ。二人の手の中には熱が籠り、基山の産む小さな欲望も閉じ込められている。
それを知りもしない豪炎寺は、繋いだ手を一度握り直すその拍子に、掌中の熱を僅かな隙間から逃がしてしまう。熱が空気に溶け込み、濃度を増しては二人の肩にのし掛かる。基山の表情からは笑みが消え、数秒間の静けさが身体を包んだ。

「……ねぇ豪炎寺君。俺が言いたいこと、わかる?」

「さあな。寒いとかか?」

「まあ、確かに寒いよね。でも残念、今はそんなのじゃないんだ」

基山の白い手がグラスを一定のリズムで叩き、水面に波紋を呼ぶ。無機質な冷たい音が肌に沁みるように響いた。室内にも関わらず、吐く息は白く消える。

「隣に、座ってもいいかな?」

豪炎寺は頷く。表情は変わらず無に等いが、基山は別段不安に思うこともなく席を立った。繋いだ手はそのままに、豪炎寺の隣に座る。

目前に残され置き去りになったグラスの、水が月明かりに透けて神秘的に光を放ち、魔法をかけたようなその輝きに豪炎寺は思わず手を伸ばし求めた。自身の手元にあるものとは比べられない程の魅力に捕らわれ、グラスに口付けゆっくりと水を仰ぐ。
身震いするほどの冷たさが口内から食道を通り、胃に落ちる。繋ぐ手から温もりを奪おうにも、基山の手は冷たく、逆に体温を奪われていく。全て飲み終えた豪炎寺の瞳が、陶酔したように伏せられる。基山はその様子を一部始終を見届けていた。

不思議な魔力を閉じ込めた水に、かけられたのは何の魔法か。幸運、不老、不死、はたまた死。どれでもいいと、基山はぼんやりと輝く月を一瞥する。
豪炎寺の運命を変える筈の要素。それを別つ為、基山は濡れた唇に舌を伝わせた。手とは対照的な舌の熱さに、豪炎寺は頬を赤らめる。

「好きだよ」

月は雲に隠れ室内は闇に覆われてしまう。時計の短針が丁度12を指し、日は移ろうが、眠気は来るはずもなく。
動揺を隠しきれない唇から、震えた吐息が逃げていく。それにどうか気付かないでくれと願いつつ、豪炎寺は虚勢の口調で声を漏らす。

「こんなの想定外だ」

豪炎寺が自身の唇に手を宛てがえば、基山の瞳は喜びに細められる。

水に溶けた魔法は、もしかすると愛だったのかもしれない。二人を取り巻く環境が、暗闇の中で色鮮やかに輝き出した。







…………

反響のゆら葉様への相互記念文とさせていただきます。
遅くなりまして大変申し訳ありませんでした。少しでもゆら葉さんの期待していた基豪に近ければ良いのですが……。なんか違う!という場合は全力で書き直させていただきますので。
この度は相互リンクありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。
いただいた拍手コメントへのレスは明日させていただこうと思っております。もう暫くお待ちください。



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