前途多難

爆発と共にバルカ城を飛び出したメイ達は、その勢いのまま街中を走りぬけた。

バルカの街中に追っ手の兵の鎧の音が響き渡り、人々は悲鳴を上げながら家屋へ逃げ込んでゆく。


街の人々に害が及ばぬよう、人通りの少ない道を選んでジグザグと逃げるユージーンに、メイはさすがと思わざるを得なかった。

しかし追っ手に正面から回り込まれ、ユージーンの足が止まった。

ユージーンに背負われていたメイは、その背から飛び降りて兵と対峙する。


「貴方たち、どんな命令で私たちを追ってきたの…?」

「メイを捕らえろ、それだけだ」

「私だけ…」

ジルバやアガーテ陛下の目的を知りたくて投げかけた質問には、予想通りとはいえ不可解と言わざるを得ない答えが返ってきた。

殺人容疑のかかっているユージーンと脱走兵のマオは無関係ということなのか。

こうして戦闘になってしまうのは自分のせいならば、自分が囮になって…
考えながら突進していったところで、問題は起こった。


バァアアアアアン!!


「…は?」

軽く盾を張って攻撃をかわし、レイピアを抜いて応戦するつもりだったのに、またもや爆発が起きてしまった。いや、起こしてしまった、というのが正しいかもしれない。

これには人通りの少ない道を選んだユージーンに感謝するしかない。

その場に居た一同が呆然とするも、はっとしたように次々と兵が襲い掛かってくる。

しかし、それもまたメイにあっけなく弾かれ、散らされる。


当の本人は爆発の中心で、腰元のレイピアを半分抜いたまま冷や汗をダラダラ流して立ち尽くしていた。

頭はフォルスを制御するためにフル回転しているが、努力もむなしく勝手に周囲に張られた盾は次々と追っ手の兵を弾き飛ばすし、少しでも力をこめればバンッと盾が爆発してしまう。

これはもう盾のフォルスと呼ぶのを躊躇うほどの攻撃力だ。爆発のフォルスじゃないだろうか。

フォルスを上手く使えなくなってしまったメイは、無意識に相手を跳ね返してしまう自身に戸惑いながら、おどおどとレイピアを抜く。

今現在メイの身体に付いている切り傷は、ジルバに鞭打たれた時のものと、その後部屋に散らばった破片に倒れこんだときに付いたものだけで、何人兵が飛びかかろうと全く動じずそこに立っている。

そんな無敵状態にしか見えないメイに恐れをなし、背を向けて逃げる兵も見えた。

実際は自分のフォルスが一体どうなってしまったのか恐ろしくて、抜いたレイピアを振るうこともできず、構えたまま立っているだけなのだが。

下手に動けないメイをユージーンが背負うと、そのまま街の外へ向かって走る。

もう追ってくるものはいなかった。

敵味方の区別はつくようで、ユージーンを弾き飛ばすようなことがなくて良かったと、その大きな背に揺られながらメイは密かに安堵した。






街の外には出られたものの、ただでさえボロボロな一行は疲労もあり、足取りは重かった。

特にメイは逃げる前にアガーテの言動やフォルス暴走による負傷からの、ジルバからの鞭、投獄、爆発と心身共に負担が大きく、前向きな気持ちで逃げてきたはずが必然的に重苦しい空気に包まれてしまう。

それでも状況整理も兼ねて、ここまでの事情を互いに報告しあいながら歩を進める。


「…それで、アガーテ様のフォルスが暴走したときに、このピアスが熱くなって、頭が痛くなったんです。もしかしたら、強いフォルスに反応する石かなにかが使われているのかもしれない、と思ったんですけど…」

「確かに気になるな。すまないが少し外して見せてくれないか」

ユージーンが手を差し出すと、メイは視線を泳がせて耳元に手をやる。

「大変申し上げにくいんですけど…このピアス、さっきからどうやっても外れないんです」

「えぇ!?」

マオが素っ頓狂な声を上げてメイの耳元でピアスを凝視し、あの手この手でピアスを外そうと四苦八苦するも、うまくいかなかったようで落胆のため息をついた。

「だめだネ…外れないっていうか、どこから手をつけていいかわからないヨ。耳から生えちゃってるみたいに、金具もなにもないんだもん」

耳から生えている、という表現にぞっとしながらも、なかなか的を射た表現だと思った。

アガーテ様から受け取ったときは普通のピアスだったはずなのに、今は耳の後ろの金具も見当たらない。

「フォルスに反応する石というのは、聞いたことがないな。そもそもフォルス自体、落日以前は主にガジュマに、稀に現れる能力だったので、研究もそれほど進んでいない。その石も発見されていなかった鉱石かもしれんが…メイも城でいろんな書物を読んだだろう。そこで見た記憶がなければ…ましてや外れないピアスとなると…」

そこまで言って、ユージーンは首を左右に振った。

メイは記憶を辿ったが、やはりそんな記憶はなかった。

鉱石や素材についての本も読んだはずだし、ひととおりワルトゥからも教えてもらっているはずだ。それでユージーンも知らないとなると、ピアスの正体はお蔵入りだろう。

あとで付け替えようとポケットにいれていたサレからもらったピアスに触れながら、深まるだけの謎にため息をついた。

「その後何故かジルバに捕まって、あの牢に閉じ込められていたというわけか。殺人を犯した俺よりも、遥かに厳重な拘束を施して…」

「隊長はドクターバースを殺してなんかいません」

メイがすかさず訂正を入れると、ユージーンは少し何か言いたげに口を開いたが、メイとマオの反論を許さない強い視線を感じると、諦めたように息を吐き、話題を反らすように話を進めた。


「その後の謎はメイのフォルスだな…」

追っ手との戦闘の際、メイのフォルスは、というかメイ自身が言ってしまえば兵器だった。

「もともとメイとボクは最強だったもんネ」

マオが悪戯っぽく言うのを、メイは苦笑いで返すしかなかった。


「今はなんともないのか?」

「はい。バルカを出てしばらくしたら、いつも通りフォルスが使えるようになったみたいで…」

メイは試しに目の前に盾を張ってみせ、それを大小様々に大きさを変えたあと消失させた。

コントロールも戻っている。

「ますます謎だネ…」

また爆発しないか試すようにメイの背中をつっつきながら、マオはため息混じりにつぶやいた。

ピアスのせいではないかと疑っていたのだが、こうなってしまえば原因はますますわからなくなるばかりだ。





その後、心身共に疲れ果てた一行は、少し歩いた先にあった小さな村に一泊することにした。

「旅の疲れもおありでしょう。ゆっくり身体を休めてくださいね」

人のよさそうな宿のおばさんが、メイにタオルを渡しながら微笑んだ。

とにかくここで少し身体を休めて、明日からの本格的な旅に備えなければ。

礼を言って部屋に入ろうとしたメイを、宿のおばさんが引き止める。


「お嬢さんたち、ずいぶん酷い怪我をしていたけれど、大丈夫だったの?」

「は、はい…大丈夫です」

「王が崩御されてから物騒になったものねぇ。バイラスも増えたし、フォルスとかっていう能力が宿った人が暴れているとか。」

「能力者の意思に関係なく、フォルスを暴走させてしまう人も居ますからね…」

私のようにな、と心の中で自嘲しつつ、メイはぎこちなく微笑み返す。

「そうそう。それで北のほうの村では、女の子を氷付けにしてしまった男の人が居るらしいのよ」

「…フォルスで、ですか?」


随分と大変な事態に、詳しい話が聞きたくて、部屋に戻ろうとしていた身体をおばさんのほうへ向きなおす。

王の盾に所属していた時にそんな話は聞いたことがなかったが、遠い村の話なら、まだ城まで情報が届いていなかったのかもしれない。

「そう。それでその女の子がベッピンさんだったらしくて、”氷中花”なんて呼ばれて観光に行く人も居るみたいよ。ちょっと可哀想よねぇ」

「そ、それで、その能力者の方は、今どうしているんでしょうか…」

「私も詳しくは知らないけれど、聞いた話ではその氷中花の傍を片時も離れずに居るらしいのよ。近づいた旅人はフォルスで攻撃されたって話よ。お嬢さんたちも近寄らないほうがいいわ。得体の知れない能力なんて恐ろしいもの」

暴走した能力で人を氷付けにしてしまったその青年を思い、突然大量に開花した能力は、一般人の目にはそう映っているのかと、複雑な気分になった。


「最近では王の盾が女の子を攫って回っているし…うちの村も少し前に襲われてね、やっと活気が戻ってきたところなの。攫われた子が、一刻も早く無事で帰ってこれるように、皆で祈っているわ」

ハッと顔を上げると、おばさんは悲しげに微笑んだ後、長々と話をしたことを謝罪し、カウンターの奥へと戻って行った。

この村にも、王の盾が来ていたのか。サレか、ミリッツァか、ワルトゥか。

バルカから比較的近いこの村なら、襲われるのも当然といえば当然だ。

その任務の謎も、解明しなければならない。

こんなふうに悲しむ人たちが少しでも居なくなるように。
そしてまた皆で笑って過ごしたい。

自分の気持ちを再確認し、強く願いながら眠りについた。


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