息づくそれは殺意にも似た 部屋に入った途端酒の匂いが鼻をついた。 同時に目に入ったのは、床に転がる3つの人間。雷蔵と八左ヱ門、それに…兵助。 耳に届くのは規則正しい3つの寝息。 夜の気温は未だ春と言えどまだまだ低く、背筋に震えが走った。 溜め息を漏らして、スルリと頭巾を外す。 「…ん、…」 兵助が眉を寄せて呻き、身動ぎを一つ。 起こしたかな、と思いきや兵助は己の体を抱くようにして小さく丸まり、それ以上動かなくなった。 それを見た私は何処か残念に、しかし安堵の気持ちも抱きながら、後ろ手に開きっぱなしだった戸を閉めた。 押し入れから雷蔵の毛布を取り出して、雷蔵と八左ヱ門にかけてやる。 兵助にかけるのは私の毛布。意識してやっている訳ではない、と自分自身に言い訳しながら、そっと毛布から手を離した。 パサリと兵助の鼻まで覆うように落ちた毛布は、多分私の匂いが染みついている。自分では良く分からないけれど。 手を伸ばして息苦しくないように少し毛布をずらしてやる。 指に、兵助の息がかかった。 そのままそっと頬を撫でる。 月明かりの下、兵助の肌はいつもより白く、まるで吸い付くように私の掌に馴染んだ。 「…らい、ぞ…」 目を見開き、スッと手を引っ込めて兵助の顔を良く観察する。 ただの寝言のようで、どうやら起きたのではないらしい。 雷蔵、か。 そうさ、私はいつも雷蔵になろうとして、そしてなりきれない。 滑稽だけど、気付いている癖に騙されてくれるお前は、もっと滑稽。 私とお前だけの世界なら良かったのに、なんて。 ああ。なんて馬鹿馬鹿しくて甘美な妄想なのだろう。 end. お題お借りしました 夜風にまたがるニルバーナ |