A

待っていろよ、潮江文次郎。
いとも簡単にお前の友人らと仲良くなってやろうじゃないか。

「ふ、ふふふ…」
「仙蔵、…緊張してる?」
「…いや、大丈夫」

いつの間にかひきつっていた笑みを慌てて元に戻す。
これからが勝負なのに、緊張している訳にはいかない。
ふぅ、と深呼吸をして平静を取り戻す。

「ならいいんだけど…あ、あれ正門じゃない?」
「みたいだな」

先ほどから茶色のブレザーを着ている学生が歩くのをちらほらと見かけていた。今見ている正門からは同じ制服を着た男子生徒がぞろぞろと出てきている。あそこが発信源。そして、潮江の通う男子校の入り口だ。

見慣れぬ制服に、男しかいない空間。内心どきまぎしながら正門へ向かって歩いていると、すれ違い様にこそこそと話をする者や興味津々といった様子を隠そうともせず、じろじろと見てくる者がいた。
どうやら、灰色ブレザーでかつ女である私達は目立っているらしい。

「視線が痛い…!」
「受け流せ。全員カボチャだと思うんだ」

明らかに怯えている伊作を励ましながら、ようやく門へとたどり着く。ぞろぞろと下校する生徒の群れ。
中を覗くと校舎に隠れて校庭は見えなかったが、この様子だと既に体育祭は終わってしまったのだろう。

伊作は、鞄から携帯を取り出すと恐らく留三郎にメールを打ち始めた。
それを静かに見守りながら、きっと潮江も一緒にやって来るに違いないと考え、緊張の度合いがじわじわと高まる。

「誰探してんの?」
「!」

急に背後から低い声が聞こえた。急いで振り返ると、そこにはキョロッとした目をした制服姿の男が立っていた。目をぱちくりとさせ、振り返った私の勢いに驚いている。

「うん、留三郎を…、……あれっ?」

ワンテンポ遅れて伊作も振り返った。
…反応がにぶい。

「あー、留三郎の彼女かぁやっぱり」
「え、やっぱりって…」
「今日来るって聞いてるよ。留三郎呼んでやろうか?」
「あ、じゃあ、お願い」

どうやら愛想の良いこの男は留三郎の友達らしい。そうと分かって安心したのか、伊作は柔らかな笑みを男に向け、携帯をパタンと閉じた。
男は、すぅーっと大きく息を吸い込み両手を口元に添えると、校舎に向かってこちらの腹にまで響いてくる声を出した。

「おおおい留三郎〜〜彼女が来てるぞおお〜〜!!」
「ひえぇっ!あの、ちょっと…!」

何とも原始的で豪快な呼び方に、私達は驚く以外何も反応することが出来ない。
道行く人々が「へぇあれが食満の…」等と言っているのが聞こえた。勿論伊作の耳にも届いており、真っ赤になって「違います違いますっ」と周りに向けて首を横に振っている。
…いや、違わないだろう。

「小平太」
「あー文次郎」
「うるせぇな、何やって…あ」

良く通る低い声が体に響いて、心臓がドキリと跳ねた。
白いジャージ姿の「文次郎」がそこに居て、こちらを見つめている。
そう言えばこんな姿だった、と何だか新鮮に感じながら、頭の中には次に言う台詞がぐるぐると回っていた。「この間はごめん」「体育祭どうだった?」「私のこと覚えてる…?」
何か、言わなければ。

「あ…、久しぶり…」
「…お、おう」

一瞬目が合って、直ぐに気まずそうに逸らされた。それだけで、地面にめり込みそうになるほど気が沈む。やはり、嫌われているのだろうか。
そんな私の心境など知らず、「小平太」という名前の男は、馴れ馴れしく文次郎の肩を叩いた。

「なあなあ見て、留三郎の彼女だって」
「…いや、知ってるぞ、俺は」
「あ、そっか!文次郎は文化祭行ったんだ。…ってことは」

小平太が、私を見てポンと手を打った。

「そっちが文次郎の…んむむッ!!」

私が文次郎の…何だ?
気になったが、直ぐに潮江の大きな手のひらが小平太の口を覆った。

「余計なこと言わんでいいッ!」
「プハッ!分かった、分かったから!」

明らかに焦っている。潮江の手は力強く小平太の口に押し付けられていたようで、小平太は慌てて潮江の手から逃げた。

「いや…気になるんだが」
「…いや、気にすんな」

勇気を振り絞って尋ねてみたというのに、潮江に手のひらを見せられてしまった。shutout. お断り。
教えてくれないらしい。いよいよ憂鬱な気持ちになって俯くと、髪が顔に影を作った。
けち。仲間に入れてくれたって。

「なに?感じ悪いなぁ。ねぇ仙蔵」

伊作が冗談っぽく言って私の背を優しく擦ってくれたので、「な」と苦笑を返した。

そんな私たちを見た潮江が「別に悪い意味じゃねぇ」と呟いた。
本当は少し救われたけれど、聞こえない振りをした。















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