たまにはやさしくしろ

※現パロ




朝、こいつの機嫌が悪いのはいつものこと。同棲する前から知っている。知り合った頃から変わらない低血圧。
しかし今日はいつもと様子が少し違う。

「おい、遅刻すんぞ」
「…うるさい。まだ余裕だ」

わざわざ寝室まで持ってきてやった珈琲を目覚まし時計の隣に置いた。

仙蔵は、目はぱっちりと開いている癖になかなかベッドから降りようとしない。

むすっとしたまま一言も発することなく睨んでくるが、乱れた髪とジャージでは今一つ迫力に欠ける。

「何かあったのか?」
「何もないわ」
「何怒ってんだよ」
「何もないから怒ってるんだ」
「はあ?」

何を言ってるんだこいつは。寝不足で苛々してるのか…いや、毎日俺より早くに寝て遅くに起きるこいつが寝不足な訳が、
等と考えていると、不機嫌な仙蔵の声が耳に届いた。

「たまにはやさしくしろ」
「あ?…今何て言った」
「たまにはやさしくしろ」
「してるだろうが。これだけ世話を焼かせておいて」

言いながらクローゼットからこいつのスーツを出す。
身についた習慣が憎い。
頭が痛い気がしてきた。
はぁ。

「…ベーコンエッグ冷めちまうぞ」
「…」

ぴくりと仙蔵の眉が反応した。
…もう一押しか?

片足だけベッドに乗せ、無言で両手を開いた。

(さあ俺の胸に飛び込んで来い…的な)

俺を見た仙蔵の目が輝いたような気がした。

「…何だそれは」
「いや、甘やかしてやろうかと」
「あほか」
「…あーあーそうかよ。もう勝手にしろ」

冗談に見せかけた最後の手段もバッサリ切られて、やる気をなくした俺は溜め息をついて寝室のドアに手をかけた。

ドアを開けて出て行こうとすると、ペタペタと床を歩く足音が聞こえ、べたっと背中に仙蔵が張り付いてきた。

俺の腹にがっちりと腕が回され、肩に顎が乗せられる。

「…馬鹿文次」
「やっと起きたか」
「………おはよう」
「おう。おはよ」

振り向いて頭を撫でてやると今度は正面から俺の胸に擦り寄る仙蔵をまるで猫のようだと思いつつ、乱れた髪に指を通して気が済むまで抱き付かせてやった。




end.

お題お借りしました。
「ひよこ屋」




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