A 立花が家庭科室の戸を開けると、ちょうど部屋から出て行こうとしていた、茶髪の少年とぶつかりそうになった。 少年は、「わ」と慌てた声を出して、立花をじろじろと見てから去って行った。 「なんだ、あれは」 「2年のミスコン参加者ですよ。私が勧誘しまして」 答える鉢屋は、色とりどりの衣装を並べている。 「ミスコンというより仮装大会だな」 呆れたふりをして近寄って来る立花に、鉢屋はにんまりと笑って、彼のためにこさえた衣装を取り上げた。 校舎前の柵に腰掛けた潮江の隣を、七松が通りかかった。 「小平太、どこにいくんだ?」 「家庭科室。今日も見学しようと思って」 「関係者以外入るな、と言われたが……。そういえばお前は入っていたな」 「私は関係者だからな。参加者の護衛」 胸を張ってピースサインをつくる七松に、疑いの眼差しを送る。 「(面白がってウロウロしてるだけじゃ……?)」 「なんだその目は。不満があるなら鉢屋に言え」 「不満って訳じゃない」 「ふぅん。それじゃ」 片手をあげて背を向けた七松の肩をつかみ、引きとめる。 「待て。今仙蔵が着替えてんだよ」 「だからどうした」 「……いや、別に……」 「言っておくが、前にも私は見たぞ、仙蔵の。ほら」 携帯の画面に写った立花の姿を見せられ、反射的に七松の頭をどつく。 「なんで写メ撮ってんだよ!」 「可愛かったからだ!」 「んなもん消去だ、消去!」 「やめろー!」 携帯電話を奪い合う二人の隣で、目を丸くした立花が足を止めた。鉢屋との用事は、どうやら早々に終わったらしい。 「喧嘩か?」 「あっ仙蔵、文次郎が私の携帯を奪おうと!」 「違うっ、こいつが仙蔵の写メを、勝手に……」 失言に気付き、潮江の顔がじわりと赤くなっていく。それを見た立花は、満足そうな笑みで小平太に声をかけた。 「私の写メを撮るには、文次郎の許可が要るようだぞ、小平太」 「そ、そういう訳じゃ……」 「仕方ないな。文次郎にも送ってやるよ」 「そういう意味でもねえよ!」 次々生まれる誤解に焦ってかぶりを振るが、立花が嬉しそうにしている姿を見て、潮江は二人に反論することを諦めて、ため息をついた。 |