待ってろ それから数日経っても、文次郎の苛立ちがおさまる気配はなかった。 「あいつ、虫の居所が悪いみたいだな」 「……留三郎が原因じゃないのか?」 「俺は仙蔵と喧嘩でもしたんじゃ、と」 「私は知らんぞ」 あれから文次郎は、他の者とは仲良くやっているようだったが、仙蔵に対しては不自然なほど素っ気なかった。 「俺が理由聞いてきてやろうか」 「拳で。とか言うんだろう」 「……な、何故分かった」 「胸に手を当てて考えてみろ」 仙蔵の隣に留三郎が座る時間は、日に日に長くなっていった。 ある夜、仙蔵はいつものように食堂で留三郎と夕食をとっていた。 少し離れた席に文次郎が座っている。 互いを気にしている筈だったが、両者ともに、声をかけるつもりは決してなかった。 膳を片した文次郎が二人の傍らを過ぎる。 そのとき、留三郎が懐から一枚の紙を取り出した。 「うどん屋の地図だ」 「ああ、いつか言ってたやつだな」 「もし良かったら一緒に行くか?」 「そうだな……行く」 「じゃ今度の休み、迎えに行くから、部屋で待ってろよ」 仙蔵は、文次郎が横目で見てきたことに気付いたが、素知らぬふりをして頷いた。 → |