くろねこ

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仙蔵が文次郎の息子として生まれるまで。
雰囲気だけで書き進めた。
意味不明注意。
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パソコンに向かってカチカチと集中していたからか、ベランダから覗く2つの丸い目に、どうやら気付くのが遅れた。焦れたらしい猫は、なあ、と不満そうに鳴いた。
「どうした。……腹でも減ったか」
横目で見てすぐパソコンに視線を戻し、最後の数行を推敲する。じろりと睨まれている気はしていたが、網戸の向こうにいるそいつは到底こちらに入ってくることはできまい。

「ん? 消えた」
上書き保存、としてから窓の外を見るが、そこにはもう何の姿もなかった。
黒い毛並みの、綺麗な猫だった。きっとどこかで大事にされている飼い猫だろう。
今度また覗きにきたときは、ミルクくらいふるまってやろう。


きついにおい。気を抜くとくっせえ、と暴言を吐いていまいそうでハラハラした。しかし、くさい。
「ねえ、潮江くんの家に行きたいな」
「今日は散らかってるんだ」
「じゃあ私が片づけてあげる」
お前のにおいが染み付くじゃねえか。冗談じゃねえ。
友人たちからは可愛いと評判のこの女に、俺の興味が向けられることはきっとこれから先もないだろう。
「また今度な」
「そればっかり」
拗ねられた。

足にふわっと感触がして俯くと、2つの目が見上げていた。クロネコ。
「やだ、野良猫」
「どっかの飼い猫じゃねえか?」
「だって首輪してない」
女は、汚いものを見る目で少し後ずさった。猫は首を傾げた。
「あっち行ってよ」
猫はあくびをしてから、へいを上って屋根に消えた。


それから10年。猫はだんだん老いて、やがて俺の前に現れることはなくなった。
香水臭くない妻に、元気な男の子2人。それから茶色い毛並みの犬と暮らしている俺は、収入も安定し、これから先も幸せと言える人生を歩むだろう。

「なあ」
ある夜、ネコが俺の寝室に現れた。なぜか妻の腹の上に乗っている。起き上がり、目をこする
「お前……。とっくに死んだと思ってた」
だって、ネコの寿命はヒトほど長くはない。
「とっくに死んだよ」
ネコが、ヒトの言葉を話した。
「お前の顔が、また見たくなって」
にたりと笑った顔は、まるで人間だった。


「おはよう」
妻に声をかけられ目を覚ます。とっくに朝食の支度を済ませ、俺を起こしに来てくれたようだ。なんせ今日は休日。
「ねえ、今妊娠の検査してね、陽性だった」
「おお」
「今日病院行ってくるね」
「また男かな」
「女の子がいいよ」
クロネコが妻の腹に溶けていった光景を、夢の最後に見た気がしたが、そのことを思い出した途端すぐに忘れてしまった。
所詮、夢の内容だ。

うふふと笑う妻に、しっかり食え、無理すんなよ、などと声をかけた。


10ヶ月後。生まれた赤ん坊は、ふわあとあくびをした。そして、きゅ、と俺の指を握り、にたりと笑った。
その笑顔に見惚れ、綺麗な黒髪を撫でてやる。

「文次郎、親バカみたい」
「何とでも」

言いつつ妻の腕に返す。
そろそろミルクの時間だ。







end?






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