さだめ(2/2)
(by.Irish jig 風さま)







あなたはだれ?

お母様に檻に閉じ込められていたはずの私は大きな衝撃を感じて飛び起きると。そこには角の生えた茶色の髪の男の子が立っていた。
恐る恐る檻の外に出ればお母様の使い魔たちが現れて捕まえられそうになったけれど、少年は近くに落ちていた棒を見つけて使い魔を退治し助けてくれた。
よく見るとこの城の中にいる人たちとは全く違う容姿。
それに私の言葉は理解出来ないみたいだ。でも一生懸命身ぶり手振りをしながら話す彼はこのお城から出ようと言っているようだった。
どこから来たのかは分からない。でも一度もこの建物から外に出たことがないし、昔から窓の向こうにある世界に興味があったから。了承の意味を込めてうなずくと少年は穏やかに微笑んでくれた。
私の冷たい手とは違って暖かくて心地良い手に導かれながら唯一出来る魔法で扉を開き、建物の外に出ると、昔お母様に読んでもらった絵本に出てくる木や草や蝶のいる庭があらわれた。
あの部屋とは比べ物にならないくらい明るくて、少年の手みたいに暖かい世界。
今まで絵本でしか見たことのなかったものを実際に見れるってこんなに感動出来るなんて。

少年にありがとうと伝えようとすると彼は手招きしながら大きく開いた門を見つけたらしく、走り出した。
足がもつれそうになりながらも一生懸命走り、城の門をくぐって外に出て、向こう岸に伝う石橋の上にまでくると突然頭の中にお母様の声が響いた。

――リノア、何をしているの?戻りなさい。彼は私たちとは違う人間なのよ?
――彼だけは特別にここから出てもいいわ。でもあなたまで出ていってしまったら、この城は誰が守るの?あなたしかいないのよ?…と ま り な さ い。

お母様が低い声で話し終わると同時。私の足が石化し始め、少年と私の間に亀裂が生じて橋が離れていった。
「あぶない!」
目の前から下へと落下する少年の手を掴む事は出来たけれど、私の体の石化は止まらない。だんだんと意識が薄れて行くのが分かった。

――スコール!


この手に掴みかけていた希望。
手からすり抜けていく彼女の手。
僕は城の外へ出られた喜びに満ちていた。
後ろを振り返っても影は追いかけてくる気配はなかったから、少女と一緒に外の世界に出られるんだと。
だから少女の腕をひく手にも自然と力が入ったが、突如不安が襲った。
さっきまで笑顔でついてきてくれていた少女の表情が何かに怯えるような表情に代わり、足を止めてしまったのだ。
まるで命を奪われたかのようにどんどん冷たくなっていく少女の手に気づいた時。僕は橋に出来た亀裂から落ちそうになった。
「dsrngeuoa!」
けれど同時に橋から落ちていく僕の手を少女が掴んだから驚いた。僕の知る限りだと、少女から手を伸ばしてくれたのは始めてだったから。しかし城から伸びてきた黒い光が少女を包み込むと彼女の手から力が抜けて、僕は崖下へ落ちていった。



誰かに呼ばれた声に気づいて飛び起きると、城にいくつも吊り下げられていた檻の上に落ちたらしく、運良く命を取り留めたようだった。
(きっとママ先生のくれたこの御印のお陰だ。あの子を助けないと)
側に見えた陸地に飛びうつり、洞窟を抜けて道らしき道がないを進んでいくと。見覚えのある橋―僕と少女が脱出しようとした建物が頭上に見えた。
少女が何かに連れ戻されたならきっと同じ部屋かもしれない。がむしゃらになりながら上を目指していたら自分が贄として運ばれた時に使った船着き場にたどり着いた。木で出来た古い船は見つけることができたが別の船で帰ったのか、それとも帰れなくなったのか。神官たちの姿はなかった。
そして神官たちが城の扉を開ける際に使っていたあの剣が鞘に収まっておらず、むき出しのまま船着き場の隅にある祭壇のような石の上に置かれていた。
「この剣があれば中に入れる…!」
はじめて来たときの記憶を辿りながら。あのカプセルが並ぶ部屋―始まりの部屋に戻ると奥の中央に今までよく見かけた影たち―自分と同じような角の生えた影たちが何かを囲むようにして群がっていた。
剣を振り回して影たちを消して辿り着くと、そこには石像のように固まって座り込んでいる少女がいた。
「これは…」

――おや?まだ生きていたのか。

頭の中に突如ながれてきた女の声。バッと見上げるとそこには灰色の髪に黒い服を着た女が立派な装飾が施された椅子に肘をたてるようにして座っていた。
「誰だ!この石化はお前がしたのか?」
――私か?私の名はアルティミシア。そして彼女、リノアをそのような状態にしたのは私だ。なぜならばその子はまだ未熟だが、私と同じ魔法を使うことの出来る私の娘であり、この城を守っていくためには彼女の力が必要になるからだ。お前には関係ないこと。この城から立ち去りなさい。
「…断ったらどうなる?」
――お前を殺す!

アルティミシアの力は凄まじいものだった。自身の周りに結界を施し、一定の感覚で少女の体を石化した時と同じ黒い光を発してきたが、僕の持つ剣と部屋のところどころにある石像だけは石化の力を中和する力があるらしく、アルティミシアの側まで来ることができた。そして結界に切り込む度に剣を弾き飛ばされつつも石像を上手く動かして回避しながら剣を取り戻す。この繰り返しを数回するとアルティミシアの結界が割れ、アルティミシアの心臓に剣を刺すことが出来た。しかし結界の解けた反動で石像に叩きつけられて頭の角が根元から折れた。

アルティミシアの叫び声がこだまする。
アルティミシアを倒したことによってなのか、城が崩壊し始めるのを感じた。
でも角が折れた時に頭から血が流れ始めたらしい。頭痛がひどくて動くことは出来ず僕はまた気を失った。

ザザーン…ザザーン…

耳元で聞こえる波の音に気づいて眠たい目を開けるとそこは砂浜だった。
目の前には快晴の青空が広がり、砂浜の先には断崖絶壁の崖が続いていた。
(アルティミシアとの戦いの後、すぐに気を失ったのに、なぜ…。城の外で見かけた船と同じ木製の船でこの海岸まで運ばれたということは…!)

誰かが乗せてくれてあの城から抜け出せたということ…。その誰かに思い至った僕は慌てて船から飛び出したものの、足がもつれて上手く着地が出来なかった。
(もしかして、角が折れたからか…?)

でもそんなことは小さな問題だった。
リノアは元に戻れたのか、城から抜け出せたのだろうか。
あてもないまま。ただただ不安を抱きながら砂浜をかけていくと、遠くに砂浜に打ち上げられたように横たわった人影が見えた。

「リノア、リノア!」
手を握り、抱き抱えるようにして上半身を起こすとリノアはゆっくりと目を開けて微笑んだ。

「スコール、ありがとう。たくさん助けてくれたね。いっぱい、いっぱい感謝してるよ」
「いいんだ、べつに。したくてしただけだ。…そういえばお前、言葉分かるようになったのか?」

リノアの説明によると今までお城の外の人が話す言葉が理解出来ないよう等いろいろとあの城にはアルティミシアの魔術が施されていたらしい。しかしお城が崩れなくなった事でその魔術も消え、言葉が分かるようになったらしい。

「…ちゃんと通じるって嬉しいね。あと何故かはわからないんだけど、スコール…昔からって言ったらいいのかな?ずっと前から知ってる気がするの。」
「…リノアもか。俺も思っていたよ」
「また私を連れていってくれる?」
「…もちろんだ。」

その後2人がどんな道を進んで行き、どんな生活を送ったのか…それはまた別のお話。




end.


※このお話はPS2,3で発売している"イコ"というゲームのストーリーとオリジナル展開を盛り込んだパロディです。








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