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※告白五カ条「8.宣戦布告」の後のお話。






[告白五カ条 番外編] 校庭から白線







『今日は各地で雪の予報が出ています。』
『ホワイトクリスマスですね。』
『皆さんあたたかくして出かけてくださいね!』



今朝の天気予報を思い出す。
終業式から二日。冬休み中であるはずの今日は、期末テストで赤点を取った者のみ絶対参加の補講授業だった。

冬休みに補講だなんて。
ましてやクリスマスに補講だなんて。

周りは口を揃えてそう言うが、リノアは違っていた。



(会える!先生に!)





***





「メリークリスマス!スコール先生!」



校庭の隅に呼び出されたかと思えば、待っていたのは満面の笑顔と、地面の落書きだった。



「……。」
「えっ、ちょっとちょっと〜、反応なしですか?」
「…備品の無駄遣い。」
「そういう反応ほしくない!」
「我儘だな。」



学生らしいシンプルな黒い厚手のコートに、クリスマスを意識したらしい、赤と緑のチェックのマフラーを巻いたリノアの足もとには、よく体育の授業で使うライン引きがあった。
地面には『Merry Christmas!!』の文字や、星マーク、ツリー(ほぼ潰れているため推測でしかない)の落書きが踊っている。おかげで遠目に見れば、地面は真っ白だ。



「今日の予報、雪だったのに…待っても待ってもふらないんだもん。」
「……………つまり、その代わりだと?」
「ご名答〜!リノアちゃんなりのホワイトクリスマスでーす。」



後ろ手を組んでにこにこと笑う彼女の鼻の頭は真っ赤だ。補講が終わってから、一体どれだけ外に居たのだろうか。
スコールは数歩前に歩み、リノアの鼻先に手を伸ばした。



「やることなすこと子どもっぽいな、あんたは。」



苦笑いを浮かべながら彼女の冷たい鼻先を摘むと、鼻の赤味が頬にまで到達するのが見て取れた。



「こ、子ども扱いしないでください!」
「はいはい。」



自分からは平気で近寄ってくる割に、スコールから近づくと弱いらしい。出来るだけ顎を引き、大判のマフラーに口元を埋めて隠している。そんな姿に、スコールはどこか穏やかな気持ちになりながら、手を離した。



「ほら、そろそろ帰れ。また風邪引くぞ。」
「やだ。」
「そういうのが子どもだって言ってるんだ。」
「違うもん!少しでも長く一緒に居たいだけだもん!…冬休み明けまで…もう会えないんだもん。」



スコールがリノアから手を離した代わりに、リノアの手がスコールへと伸びる。小さな手はスコールのジャケットの裾を掴んだ。



「………、」



白い息が見える、そんな気温の中にも関わらず、スコールは自身の体温が上がったような気がした。それを紛らわすように言葉を紡ぐ。



「たった2週間程度だろ。」
「されど2週間なんです。」



どうやら彼女は一歩も引くつもりがないらしい。
スコールは一つ大きく溜息をつくと、裾をつまむリノアの手を退け、その足元にあるライン引きを手に取った。
思いがけない行動に、その様子を不思議そうに見つめるリノア。
スコールはその視線に応えず、ライン引きを地面に這わせた。

―――出来あがったのは、数字の羅列だった。



「先生、これ…。」
「つべこべ言うな。あと1分で消すぞ。」
「ああっ、待って待って!!」



リノアはメモ帳を引っ張り出した。焦る気持ちと、かじかんだ手のせいで、どうにも字が汚くなる。そして、どの数字か判別がつく程度に最後の数字まで書きあげたところで顔をあげた。



「…最高のクリスマスプレゼントだよ!!」



心から嬉しそうに白い歯を見せるリノアに、スコールは思わず視線を逸らした。



「…また風邪ひかれても困るからな。」
「うん!」
「もちろん内容は学業の件に限る。」
「うん!…えっ!?」
「当前だろ。」



リノアは、数字の羅列―――いわゆる電話番号のメモを両手で大事そうに抱えながら頬を膨らませる。しかしそれも数秒のこと。口元をうずうずとさせ、再び破顔した。スコールの条件に不満がないといえばウソになる、とはいえ、それでも思いがけず手に入れた宝物に気持ちが舞い上がっていた。



「ほら、気が済んだだろ。これは消しておいてやるから、さっさと帰れ。」
「ほとんどわたしが書いたんだから手伝う!」
「…勝手にしろ。」



言い出したら聞かない、それを嫌というほど知っていたスコールは諦めて竹箒を2本持ってくると、片方をリノアに渡し、二人で白線消しに勤しみ始めた。
しかし、消し始めて間も無く、リノアははた、とその手を止めた。そしてスコールの腕をぐいぐいと引っ張り、同じように手を止めさせると、上を見上げた。スコールもまた、その視線の先を追うように空を仰ぐ。



「ホワイトクリスマスだぁ…!」



空に漂うのは無数の白い粒。ふわりふわりと降ってきたそれは、二人の頭や肩に舞い降りると、じわりと溶けてその姿を失くす。
ようやく現実になった天気予報に、リノアはもちろん、スコールもまた口元に笑みを浮かべた。



「これ、消す必要なさそうだね?」
「…だな。」



この地域では珍しい雪。しかしこの降り方だときっと積もるだろう。
この白い地面の上に広がる本物の雪景色を想像しながら、二人はしばらくその場で空を見上げていた。







(赤点とって良かったな、なんて)




END



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