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※恋愛五カ条「5.視線」の後のお話。







[恋愛五カ条 番外編] 教室のアイツ







バラム学園。
出会いは校舎の2階、とある教室だった。
窓側の一番うしろ、そこが彼女の席。

産休の数学教師の代わりとしてこの学校に半ば無理矢理連れてこられたスコール。教員免許は持っていたとはいえ、実際にこうして正式に授業を受け持つのは初めてだった。
代わりとして来た教師がこんな半人前で良いのだろうか、などと思いながら授業に臨んだことを覚えている。

うだるような暑さの日だった。蝉の声がうるさい外とクーラーのきいた教室はまるで別世界。そんな中、名前を名乗るだけ、という素っ気ない自己紹介をして、スコールは授業を始めた。
そして、違和感に気付いたのは授業の中ごろだっただろうか。視線を感じ、スコールはその視線の元を辿った。そこには、肩より少し長い黒髪、髪と同じ色の大きな瞳、この距離でも分かる赤味を帯びた唇が印象的な少女。
目線はこちらに向けられていたが、スコールを見ているのか、それともこのあたりの空間を見つめているのかは定かではなかった。ただ、手は動いていないし、熱心にスコールの解説を聞いている、といった雰囲気でもない。ぼうっ、と見ているだけ。

授業を進めながらさり気なく座席表を確認して、彼女が「リノア・カーウェイ」という名前であることを知る。試しに問題を解いてもらうべく当ててみれば、周りの笑いを誘うようなドジっぷりを見せつけられ、スコールはため息をついた。
恥ずかしそうに小走りで黒板の前に来た本人は特に問題が分からないという素振りも見せず、あっという間に数式の答えを書いて席に戻っていった。が、全く見当違いの答えが記されていたことで、案の定授業は上の空だったことを確信した。



―――変なヤツ、それが最初の印象だった。



しかしそれからというもの、リノアは何かと理由をつけてはスコールの元へ来るようになった。数学が苦手、なのはすぐに嫌というほど分かったが、苦手なものと対峙する割に、いつも何故か嬉しそうに笑っていた。
そんなリノアだったが、いつからだろうか。ある日を境に来なくなった。
スコールがこの学校に来て約2か月、放課後は週に何度か授業の質問をしに来るのが日常だった。それなのに半月近く、それがない。



(…聞くほど分からない問題がないんだろ。)



そう思うようにしていたが、彼女の来ない放課後の時間がスコールには妙に長く感じるようになっていた。
思い返せば、最近は廊下で会った時も様子がおかしかったことに気付く。
以前まではスコールを見つけると、花のような笑顔を咲かせながら話しかけてきた彼女。しかし最近は伏し目がちに一言、他人行儀な挨拶のみだった。

授業もそうだ。彼女の机の上にはノートこそ出ているものの、それは閉じられているままで、筆箱すらその中身は出されていない。確かに数学が不得意なリノアだが、苦手でも彼女なりにいつも必死でノートを取っていたはず。
やる気がなさそうというよりも、そもそも心ここにあらず、といった感じだろうか。そんな彼女らしからぬ態度が2週間近く続いていた。



(別に良いじゃないか。)



元々人との関わりが苦手なスコールにとって、生徒との無駄な関わり合いがなくなることはむしろ助かることだったはず。それなのに、何となく感じる喪失感のようなものは一体何なのか。リノアがリノアらしくないことにどうして苛立ちを覚えるのか。
自問自答してみるものの、面倒になって止めた。

だが、今日の授業で、とうとうスコールは痺れを切らした。「教師」という立場を利用して注意をしたのだ。
すると、突然の「頑張る」宣言。
ここ2週間の虚ろな瞳から一変、黒目がちな瞳をきらきらさせて何故か礼まで述べられるものだから、スコールは面食らってしまった。



だから多分、今日はきっと来る。あの笑顔を携えて。
そんな予感を感じながら、スコールは職員室の扉が開くのを心のどこかで待っていた。











(「日常」だから、気付かない)




END



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