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下駄箱





「―――というわけで、来週までに各自今日の資料をまとめて提出してくれ。今日の議題は以上だ。解散。」



俺が言った言葉と共に次々と席を離れる役員達。直帰する者もいれば、意見を求めてくる奴もいる。
そんな役員達一人一人になるべく丁寧に対応して、ようやく俺の仕事は終わりが見える。



「お疲れ様〜、生徒会長さん。」



役員達が帰り、仕事を全て片付けた頃。
声を掛けてきたのはアーヴァインだった。



「まだいたのか、悪いな。」
「頼まれたファイル作ってたからね〜。でもこんなの僕にかかれば、ちょちょいのちょいだし。」
「ああ。助かった、有難う。」



一冊のファイルを受け取って中身を確認しながら礼を述べた。あの大量の資料をこの短時間に全て纏めあげたのだから、やはり流石だ。



「さーて、待ちに待った制服デートの時間だ!」
「…こんな時間からか?」



窓から見える暗い空を見て疑問を持つ。
今日のような会議の日は遅くなるのが決まり事なので、彼女達にはいつも先に帰ってもらうのだが…。



「ああそうだ、スコール。これ、君の愛しの彼女から預かってきたよ。」
「?」
「それじゃあスコール、君もデート楽しんで〜。」
「あ、おい、俺は何も約束なんて…。」



言いたい放題言ったアーヴァインは俺が言葉を発するのも待たず、にこやかに去っていった。
受け取ったのは彼女らしい可愛らしい花柄が印刷された封筒。
残されたそれの真意をはかりかねた俺は封を切って中身を取り出した。



手中にあるのは便箋、ではなく、長方形に切り取られた折り紙だ。
内容はと言えば、ほんの一言だけのシンプルなものだった。
丸みを帯びた字。見慣れたその字は明らかに彼女のもの。



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今日は何の日でしょう?
答えが分かったら屋上へGO!
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「今日…?」



彼女の問いに眉間に皺をよせ、教室の壁に吊るしてあるカレンダーへと目を移す。



「ああ、そうか…。」





今日は…――、





答えを見つけた俺は、鞄を持って屋上へと向かう。
屋上へ繋がる扉を開くと、目の前に広がったのは満天の星空。





「…七夕だ。」





静かに呟いた声は風に乗って消える。
左右を見回したが、彼女自身の姿はそこには無かった。その代わり、先ほどの折り紙と同じものがフェンスに2枚。
俺は括りつけられた長方形の折り紙…――"短冊"と言われるそれを手に取った。



1枚目には、今日という日を思いだしたことに対する褒め言葉と、彼女が俺を待つ場所。そしてさらにもう一行、小さめの字で、もう一枚の短冊の使用方法が書いてあった。



「願い事を書け、なんて突然言われても…な。」



困ったように眉を顰める。さっさと下駄箱に行ってしまおうかとも思ったが、ご丁寧に『書かなきゃ、1週間ちゅう禁止だぞ』と書かれていたので、俺は今日一番深い溜息をつきながら、渋々胸ポケットにさしてあるペンを手に取った。





***





「ったく…。」



急いで短冊に文字を走らせ、彼女の待つ下駄箱まで来たと思えば、俺を散々振り回した張本人は下駄箱の隅にしゃがみこみ、大きな紙袋を抱えて、こっくりこっくり舟を漕いでいた。
学生服のままではあるが、一度家に帰ったらしい。紙袋以外にいつもの鞄などは見当たらない。



「リノア。こんな所で寝るな。」



そう言ってリノアの傍へ膝をつき、真っ直ぐな黒髪を一房、己の指に絡ませる。あまりにマイペースな彼女に思わずフッと笑うと、白い額に口付けた。
それと同時に目を開くリノア。俺をその黒曜石の瞳に映すと、にっこりと微笑んだ。



「お疲れ様、スコール。」
「ああ、誰かさんのせいで余計に疲れた。」
「誰かさんが絶対忘れてると思ったんだもん。」



皮肉っぽく言うと、同じように皮肉めいた口調で返され、二人揃って吹き出す。
そして、くすくす笑い続ける彼女の顎を持ち上げると、驚いて半開きになったままの唇に軽くキスを落とした。

ほんの一瞬だけだったそれ。
夜、薄暗いこの場所とはいえ、思わず口付けてしまった彼女から、バツが悪そうに目を逸らした。そのまま目を合わせずに彼女を立たせると、靴を履き替える。



「…ちゃんと短冊書いたんだから良いだろ?…ほら、帰るぞ。」



ぶっきらぼうにそれだけ言うと、



「…帰るぞ、スコール!」



はにかんだ彼女が、俺の後ろを付いて来た。






(彼女の唇に触れられない一週間なんて有り得ない)


END



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