短編 | ナノ
お父さんみたいな人の続き

あの言葉通り文次郎は夕食を食べた後希子を家まで送って行った。
希子がお風呂に入って、リビングでTVを見ながらゴロゴロとしているとインターホンが鳴った。
「ただいま〜」
「お疲れ様」
客人は希子と付き合っている三郎だった。2人は高校で出会い、三郎の静かな猛アタックの末、2年になりようやく付き合うことになったのだった。希子が文次郎の家に行くほど頻繁ではないが度々三郎も希子の家を訪れるので挨拶はもはや「ただいま」だった。希子が今日文次郎の家に泊まらなかった本当の理由は三郎が来る予定だったから。文次郎にバレると何が悪いって訳ではないのだが、希子は報告するのはなんだか気恥ずかしくて言っていない。
「ご飯は?」
「大丈夫。賄あったから」
「そっか。じゃあお風呂入ってくれば?お先だったけど」
「そうさせてもらう」
学校の帰りにバイト。それから希子の家に直行、宿泊って三郎の家は大丈夫なのだろうかと希子は思っていたが、そんなに頻繁にって訳じゃないし大丈夫かと思いその後はTVを見ながら三郎がお風呂から帰ってくるのを待っていた。
「おかえり〜」
三郎は部屋に入るなり後ろから希子を抱きしめたが彼女は少し変な顔をしていた。首裏に触れる髪がまだ水を含んでいて少し気持ちい悪いのだ。
「三郎」
「ん?」
「ちょっと離れて。髪の毛拭いてあげるから。抱きつくならそれからにして」
そう言われると三郎は大人しく希子の前に座った。希子は意外とケアの行き届いている三郎の髪を乾かしながら彼に尋ねた。
「ねえ、三郎はさ、大学どうするの?」
「オレ?あ〜、多分テキトーに行くと思う」
「テキトーって言ったって三郎頭いいんだからそれなりのトコに行くんでしょ?」
「まあ多分そうなるな。だから“適当”っていたじゃん」
「テキトーってそっちの適当だったんだ」
「というかそっちって言っても本当はこっちの意味しかないからな。みんなが間違って使ってるだけ」
「うーん。分かってはいるんだけどさ、みんな“テキトー”の意味で使う場合が多いでしょ?だからなんかそっちに慣れちゃってんだよね」
「まあそうだよな〜」
「ね〜はい、もういいよ。乾いた」
「さんきゅ」
「なんか見たいテレビある?」
「特に」
「じゃあもう寝る?」
「寝るか」
「うん」

学校のある日、2人の夜はこんな感じである。