短編 | ナノ
★潮江文次郎の家にて

「もんじ〜これどうやって解くの?」
「あ?」
希子はよく潮江文次郎の家に入り浸っていた。しかし付き合ってる訳ではない。文次郎は希子の父の同級生で彼女の小さい頃からいつもなにかとかまって世話をしてくれる唯一の大人だ。
正直本当の両親よりも親らしいことをしてくれていたし、希子も両親よりも文次郎に懐いていた。高校3年生になった今でも希子は文次郎にベッタリであった。
「あ!そーゆうことか!」
「分かったか?」
「うん!もんじありがと!」
「こんなんで大丈夫なのか?仙蔵のことだし、お前いい大学に行かなきゃならねえんだろ?」
分からなかったところは一通り教えてもらったので勉強道具を片付ける手を動かす。
「んー、まあ」
「まあってお前、もう受験の年だろ。そんなんでいいのか?」
「まあそうなんだけど父さんが何にも言ってこないし、そっちの方では期待してないみたいだしいいんじゃない?」
「そっちの方って…。じゃあどこで期待してんだよ」
「うーん。そう言われると回答に困るんだけどさ、とにかく父さんがこの時点で何も言ってこないってことはそーゆうことなんじゃないかな?期待してるんだったらもっと早くに準備しだす人だし」
「それもそうなんだが…なんか引っかかるんだよなあ」
「そう?でも何にも干渉してこないんだし、のんびり過ごすよ」
よし、お礼にご飯でも作ってあげるか。
と思った希子はさっそく準備をしようと立ち上がる。お礼と言っても希子はいつも文次郎の家に来ると食事を作ってあげている。独身の一人暮らしのクセして文次郎は料理ができない。
結婚しないのかなあ。まあまだ37だし男の人だからまだ貰い手がいなくなる訳じゃないしいいのかなあ。あ、男の人だから貰い手って言わない?嫁ぎ人?うーん分からん、まあいいか。
なんて希子にいらぬ心配までされてしまう始末である。
「何か食べたいものある?」
文次郎からは「和食」と返ってきた。
「え〜そんなざっくりした答えもらっても困るよ。もう少し絞って」
「この歳になるとリクエストしてまで食べたいものとかなくなるんだよなあ」
「なにそれ、止めてよオッサンっぽい」
「37だ、もうオッサンだろ」
んー。確かにもうオッサンなのかなあ、と希子は思いながらも何の和食料理を作ろうか考える。
とりあえず冷蔵庫の中を確認してから考えるかと思い冷蔵庫を覗くと後ろから「やっぱりオッサンなのか…」と声が聞こえた。そのまま声に出さないで考えて否定しなかったので落ち込んでしまったようだ。
励ましてあげるのは後にして…。あ、ニンジンとじゃがいも、お肉もある。ありきたりだけど肉じゃがにするか…。あとお味噌汁と漬物でいいかな。と希子が考えていると
「なんか手伝うことあるか?」
もう立ち直ったらしい。フォローは必要ないようだ。
「じゃあニンジンとじゃがいもの皮剥いてもらっていい?」
「ああ」
文次郎はは頼まれたことに集中しいているらしく黙々と皮を剥いている。邪魔しても悪いので希子も話しかけずに自分のすることに集中した。

文次郎にも手伝ってもらい、夕食ができた。
「「いただきます」」
2人でいただきますをしてご飯。胸の前で合わせていただきますを言うのを希子に教えたのも文次郎だった。
「…うまい」
「やった!もんじが手伝ってくれたおかげだね!ありがと」
「いや、いつもお前の作るメシは旨い」
「…!」
いつも文次郎は希子がご飯を作ってあげると必ず「旨い」と言ってくれる。いつも言ってくれるから慣れている筈なのだが、やはり照れくさいらしい。
「あ、さっきの話。世間的に37はオジサンなのかもしれないけど、ワタシにとっては何歳になってももんじはもんじだから…」
照れを隠すために言ったコトなのだが希子は逆に言ってて恥ずかしくなった。
「そうか…。自分の子どもはいくつになっても子どもだっていうからな、子どもからしても親はそんな感覚なんだろう」
「ん…」
「まあ俺はお前の親じゃねえが同じようなモンだろ」
なんだかしっくりこない希子だが、まあ文次郎がそう言うのだからそうなんだろう、と思うことにした。
「今日はどうする?泊まってくか?」
文次郎の家は希子の家より学校に近いので希子はよく平日でも気にせずよく泊まっていく。しかし今日はダメだった。
「んー、明日の支度してないから今日は帰るよ」
「そうか、じゃあ送ってく」
「ありがと」