まわし読み





バレンタインのあの日総一郎の部屋に泊まってから、私達の距離はあの暑い夏の頃にもどったようだった。

またお泊りする日が増えて、微かに残っていたぎこちなさは消え去った。

シャワーを浴びると二人で動画を見ながらストレッチをする。
総一郎のストレッチの補助にまわってさらに念入りにストレッチをする。
お風呂あがりで、彼の火照った身体の熱がTシャツ越しに私の手のひらにジワジワとうつって、それが私の身体の奥まで熱くする。

総一郎と呼吸をゆっくり合わせる。

穏やかな気持ちになる。だけどこの近い距離にドキドキして、総一郎の顔は見れない。

終わると、また二人でシンクの前にならんで水を飲む。


そしていつもの向きで二人で布団に包まって、でも前よりも重なった身体同士が暖かくて心地いい。
お腹に回された総一郎の右手に私の右手をかさねると彼が「おやすみ。」と言って、それに私も『おやすみ。』と返す。

普段の総一郎からは想像がつかないような
穏やかで、優しくて甘い声でそう言われて眠れる夜が幸せでしかなかった。





流石にここまでくると、恋愛経験のない私ですらお互いに好きなんだろう。となんとなくわかる。

私はそれでもうだうだと考えて、総一郎に好きだと伝えられていない。
選手とマネージャーで恋人になってもいいのかな。とか

付き合うことにブレーキをかけてるわりには
総一郎に触れてほしいし、触れたくてたまらない。

総一郎も触れてくるけど
私に「好き」とは言わない。

自分も言えないくせに
やっぱり私のこと好きじゃないのかな?とか
付き合うのは面倒くさいって思ってるのかな?とか
ぐるぐる無駄に頭から離れない。

練習中は集中してるから、頭追い出せるのに
休憩中とかちょっとした時に
総一郎の姿が目に入ったり、声が聞こえたり。
すぐ意識してしまって、そんな自分が嫌になる。

「部内恋愛は別にかまわない。」とは言ってくれてたけど
なんだかもうよくわからなくて
全国大会が終わるまではなるべく考えないようにしようと思ってはいる

思ってはいるんだけど

もう総一郎にもっと近づきたい気持ちが、溢れそうで怖い。


「○ー。」

『………キャプテンどうしました?』

「いや、わかってんじゃん。いい加減教えろって。」

カズに詰め寄られるこの状況はもう何回目か忘れた。思っていたよりカズがしつこい。まさかここまで執着すると思ってなかった。

『ちかいちかい!』

「なんだよ!○の為に小声で話してやってんだろ?」

『うー、それはありがとう。』

「んで?どうなんだ?最近。練習以外で連絡とかとれてんのか?」

いや、連絡は…とってない。だって部屋に泊まってるし。そういう事じゃないのはわかってるけど、恥ずかしくて言えない。
泊まってるとか、練習以外でいっぱい話してる。なんて、そんな事言ったらすぐ総一郎だと消去法で気付くだろう。

あれ?でも私なんでカズに黙ってるんだろう。このまま詰め寄られるより、誰か教えたほうがマシなのかな?
いや、意外にカズいじってくるしな。

『連絡、はそんなにしてないけど、話したりはしてる、よ?』

「ふーん。そうか。」

ちょっとニヤニヤを隠しきれてない顔をするカズに、これ誰か言ったら絶対総一郎の方みてニヤニヤするに違いない。

「『!?』」

ポンッとくっついて話していた私とカズの肩に手を置かれる。ビクッと思わず身体が大げさに跳ねる。

「あんたたち、なに面白そうな話してるの?私も混ぜなさいよ。」

『コーチ……。えっと、へへ。』

「○?笑ってごまかさない。」

ドS満載の笑顔で肩に手をおいたまま話す高城コーチが恐ろしい。

「○。私最初に言ったわよね?女子二人なんだし、なんでも相談して欲しいって。」

そう、最初にコーチからそう言われた。
きつい言葉も多いけど、それ以上にコーチは優しいところもたくさんある。

でも大学生なんてまだまだ子供みたいな私達。恋愛事でチアにまで支障が出る前に相談しとけよ。と圧力をかけられている気もしなくはない。

「ま、目星はついてるから別にいいけど。」

ニッコリとわらうコーチが怖い。

『こ、コーチ。その、おいおい覚悟が決まり次第お話いたしますので。今しばらく、ご容赦いただければ。』

「はぁ…ぜったい覚悟きまらないでしょ?○は考えすぎよ。」

「え!?目星ついてんすか?」

「あたりまえよ。」

ほら、練習再開するわよー。とコーチとカズが離れていった。



反省ノートの1ページ目


考えすぎない。


私は、まだ自分を壊せていない。



最後の屋上練習が終わる。

「それじゃあ今から、最後の儀式をします。」





『私もですか?』

「ええ、もちろんよ。」

コーチから手渡されたノートを両手で受け取って見つめる。

「何でもいいわ。思ったことなんでもいいから書いて。女子二人だけなんだから交換ノートとでも思ってくれて構わないから、なんでも相談して欲しい。」

『わかり、ました。』


女子といえども、コーチとマネージャーで、目上の人に対してそんなにフランクにはなれない。
とりあえず毎日皆の良かったことをなるべく書くようにした。

全員倒立がキレイにできるようになってきた。タケルくんのプランクの秒数が伸びてきた。
細かいトレーニング内容を思い出してなるべく具体的にかきだす。

少し慣れてきたら
コーチは高校からチアやってたんですか?
ずっと同じポジションなんですか?
始めた頃はどんなトレーニングを家でしてましたか?とか
コーチに質問するようになった。

翔と練習について話し合えた。
トレーニングの勉強をもっとしたい。
もっとみんなの力になりたい。

チームの一員になれるようになりたい。

少しずつ自分の事もかけるようにもなってきて

そうしていると、
赤ペンで「○は好きな人とかいないの?」

と一度書かれた。

ドキッとしながらその赤ペンの右下に小さく『いません』と書いた。

自分ではどうしようもできないことが、悲しくて悔しい。どうしたらいいかわからない。

不安な気持ちをぶつけれるようになってきて

難しく考えすぎない。大丈夫だから。と赤ペンで書かれた文字に気持ちが軽くなった。

そうやって毎日やり取りを積み重ねて。
チームが纏まって

纏まっていく皆を1番近くでみれて、一緒にいられて嬉しい。もっと皆と一緒にいたい。
皆が大好きだ。


自分の気持ちも前向きになっていて


気の迷いで一度だけコーチにもカズくんと同じ質問をした。

『コーチは、部内恋愛についてどうお考えですか?』

私は別にいいと思うわ。むしろ誰か教えなさい。と赤ペンでかかれていた。

やってしまったと思って、その赤ペンはずっと無視していた。



のに



「回して。」


そりゃあ、人のはみてみたい。
でも自分のは見られたくない。これはみんな一緒だ。

私は基本的に皆の練習でよかったことばかりで、もう無理!!て時だけぶわっとネガティブキャンペーン状態だけど。まだまぁ
うん。って感じだ。

唯一名指して批判していたのが

最近翔がこわい。これはまぁ、大丈夫だろう。

問題は

総一郎に腹が立ってしかたがなかった。こんなに怒ったの人生で初めてで自分にびっくりした。
まじ腹立つ。たまにすごく総一郎が嫌いだと感じる。


こ、これだ。

これもだし

部内恋愛についてどうお考えですか?

これもだ!!!


ノートを持ったまま固まる。

「○なに1歩下がってるの?あなたもよ?」

『は、い。』

「あなたもチームの一員なんだから。」 

滅茶苦茶いい笑顔でコーチが言う。
それを言われたら逃げられない。




私のノートを持ったタケルくんがおおげさに「部内恋愛!?」と言ったので
その時皆の時間が止まったのがわかって

私は下を向くことしかできなかった。













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