総一郎





あのあと、トンくんはたいして人柱になってくれなかった。
そのかわりハルくんに、最近気になる人がいるらしく、その事で散々カズくんがイジり倒していた。
人間否定されると突っ込みたくなる性だ。ハルくんが照れて「そんなんじゃない。」と言うたびにカズくんが「ハルくん。」と可愛い子ぶっていた。

溝口くんは端っこでイチローくんと猥談してるし。好きなAVの話してる。耳をおっきくしながら盗み聞きを試みるが、なかなか聞こえない。

ほわほわとした脳みそで、スマホを確認すると
とっくに終電が過ぎていた。
でもまぁいいかぁ、またハルくんかカズくん泊めてくれないかな?なんて
1回経験すればすぐズルズルとまた甘えてしまうのはもう実証済みだ。

皆時間なんか気にせずに楽しく飲んでいる。そこに自分が入れるのが嬉しい。
それに今日はイチローくんと二人でベッドになんか入れる精神状態じゃなかった。

「今日は○と泊まる。」

『そうだねー。』

「恋話しよやー。な、○。」

『ありかもー。』

弦くんに肩を組まれて、二人でヘラヘラと笑う。弦くんの恋話はなかなか濃そうだし、イチローくんの恋話は聞きたいようで聞きたくないようで……複雑だ。

皆でカズくん家で髪色を落とした後、揃って銭湯に行ってきたそうで、私だけまだ毛先が明るい。この髪も解きたくないなぁ。なんて思う。
あー、いつもはスーパーナチュラルメイクだけど、今日はガッツリメイクだから化粧落としで落とすの忘れないようにしなきゃー。と酔った脳みそでボヤッと考えながら隣の弦くんにされるがままにくっついていた。

「んじゃー、この前とメンバー変えるか?」

「○だけ移動しよう。」

『それでいいよー!カズくん家行きたい!』

「なにもう○。やらしい子やなぁ。」


結局イチローくん、弦くん、溝口くんと一緒にカズくん家に行くことになった。
テンションが上がって、溝口くんが持ってた日本酒を結構飲んだ。はじめてあんなに日本酒を飲んだからちょっとだけふわふわする。
イチローくんの腕を掴んで無事にカズくんの家まで辿り着いた。

お風呂を貸してもらっているあいだに、私は少しずつ酔いが冷めてきた。
お風呂からあがって部屋に行くと皆が畳の上ですでにぐでーんと寝ていた。
家主であるカズくんも布団でなく畳の上で転がっている。
さすがに、いつも酔うことがない溝口くんも本番が終わって気が抜けたのか寝ていた。

電気を消してみんなが転がっている間を静かに抜ける。男の子が4人も転がっていたら結構それだけでぎゅうぎゅうだ。

右肩を上にして寝ているイチローくんの横が少し空いていたからすっと体を滑らせる。
いつもと逆の体勢で、彼のおっきい背中におでこを寄せて私も重たい瞼を閉じた。



『カズくんありがとう!お邪魔しました!』

「いんやー、皆今日はしっかり休んで、また明日からよろしくな!」

『「うん、よろしく!」』

爽やかとは程遠い朝を迎えて、カズくんの家を出る。

「あったまいったいわぁ。」

「イチロー飲みすぎやねん。」

「溝口と一緒に飲んどったのがあかんかったわ。」

「○は大丈夫か?」

『うん!大丈夫、ありがとう!』

ぎゃーぎゃーイチローくんと弦くんが言い合う後ろを私と溝口くんでついて駅へと歩く。

「○昨日寝てもうて話できひんかったから、また今度一緒に飲もうな。」

『うん、私も弦くんとお話したい。』

「俺もだ。」

『うん、溝口くん。また日本酒飲もうね。』




『楽しかったね。』

「ああ、めっちゃ飲んだしなぁ。」

イチローくんと一緒に改札をでる。朝だから、きっとここでお別れだ。

なのに、イチローくんは私と同じ出口へと向かう。

「送るわ。」

『え……。』

「帰ってもまた寝るだけやから。」

『ありがとう……。』

今までずっと一緒だったのに、私は彼が好きかもしれないと認識した瞬間ドキドキと胸が騒ぎ出す。
いままでどんな風に話してたっけ?


「なぁ……。」

『ん?』

「○いつまで俺のことイチローくんて、くん付けなん?」

『へ。』

「くん付けとか慣れてへんから、めっちゃむず痒いねんけど。」

『あ、えっと……。』

「なんやったら、名前で呼んでくれてええで。」

『名前?』

イチローじゃなくて、名前で?
皆イチローって呼んでるのに?

「なんや○、俺の名前忘れたんか、薄情なやっちゃな。」

『総一郎?』

彼がニカッと笑った。

「ほな、次からそれで頼むな、○!」


いや、ちょっとハードル高くない!? 







『総一郎。あの、時間……。』

「あ、○。ほな、俺ら帰るわ!」

「ちょっと待てや。」

「なんやねん電車逃すやん。○帰るの遅なるやろ!ほなお先ー!」

「おい!○!」

『あ、弦くん…。』

「○!いくで。」

『うんっ!ごめん弦くん、またね!』


「え、俺の聞き違いちゃうよな?」

「どうしたんだ?弦。」

「いや、いま○がイチローの事……。」

「え?」

「きき、まちがいだよな?だよな?絶対そうだよな?」


次の日めちゃめちゃ問い詰められた。
その後皆のことも、くん付け禁止となったのだった。












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