この恋だけは勘弁してくれ

翔平くんはちゃんと事前に連絡をしてから俺の家に来るようになった。

「ガルーダがですね、右足を上げた時がチャンスなんですよ」
「なるほど」
「このタメの間に、攻撃範囲外から、スキルをっと」
「おお!」
「ね! 当たったでしょう!」

今日は前回狩れなかったガルーダを狩ることになった。
ガルーダはすばしっこいから、バランスタイプの剣か、中距離タイプのアーチャーで狩るのが上策だ。
HPはそんなに多くないが、攻撃までのタメが早いし、一発が痛いものだから、魔法職系とかのリキャストタイムが多いキャラクターを使うとすぐ死んでしまうのだ。

「数回これを繰り返せば、アーチャーだけでも結構簡単に狩れます!」
「ははー、なるほどー」

翔平くんは得意げな顔をして俺に説明してくれる。
随分懐いたもんだなと思った。
こうやって話していると、本当に弟分ができたようで、数週間前の事件は全くなかったかのような気持ちになる。
…………ミニスカートさえ履いてなければ。
いい加減、女装をやめたらいいのにとは思うのだが、好きな人の前では可愛くいたいの一点張りだ。
まぁ、似合っていないわけではないが、男が着てる感はいなめないから、やめて欲しいとは思っている。
あと単純にこの寒さの中、ミニスカートは普通に寒そう。
でも最近はタイツを履くだけマシになったとは思う。

「次、ヨネさんですよ!」
「やってみるわ」

翔平くんと場所を変わり、翔平くんから教わった通りにガルーダを狩ってみる。
爆炎が立つ中、右足が上がった瞬間を見極めるのがなかなか難しく、自分の立ち回りの癖も抜けなくてなかなかやりにくい。
なんとかSPを溜めてスキルを放った。

「いけるか!?」
「お! さすがヨネさん! うまい!」

思ったよりもダメージが入り、ガルーダのシールドの死角になっていることに気付いた。
うーん……よくこの戦闘スタイルを思いついたな。
確かにこれならアーチャーで狩るのも余裕かもしれない。
まぁでも、タンクがいなきゃキツいかな。
じゃなきゃガルーダの死角に回り込めない気がしないでもない。
ちょっとやり込まないとわからんな。

「翔平くん、俺の背中におっぱい当たってるよ」
「どうです? 今日は控えめBカップなんですけど」
「本物のBカップを知らないなって感じ」
「えー」
「素材はスポンジ系のパッドだな」
「すげー。背中なのにマジなんでもわかる」
「おっぱい大好きだからね」

ふ、おっぱいソムリエと言っても過言ではないな。

「やっぱりシリコン系が一番なのか」
「おっぱいは盛らないのが魅力的なんだよ。小さくても大きくても魅力しかないんだから」
「えーまな板でもですかー?」
「まな板にはまな板の良さがあるんだよ、お子様め」
「ノーブラになってきます!」

翔平くんはバタバタと走って脱衣所に消えた。

「いや、君のはまな板じゃなくて胸板だからねー!」

聞いちゃいないだろうが、一応叫んでおいた。
来るたびにカップサイズを変えて、俺がどのおっぱいが好きなのかを探っているようなのだが、盛っているようじゃ永遠に分からないだろう。
それに、この世にシンディちゃん以上のおっぱいなんかないのだから。
あー……最近シンディちゃんに会ってないから、下半身が寂しくていけない。
今度の週末にシンディちゃん予約しようかな。
シンディちゃんのシフトは基本は月水金だけなのに、平日は仕事が立て込んでて全然営業時間に間に合わないし……。
シンディちゃんにパイずりしてもらって、ちょっとちんこにちゅっちゅしてもらいたい。
……月曜日からシンディちゃんってのもテンション上がるかも?
一週間、めっちゃ頑張れそうじゃない?

「どうですか! ノーブラにしてみました! 天然物のダブルAカップです!」
「胸板には興味がない」
「見てすらくれない……!」
「いや、男の胸板に微塵も惹かれないし、ノーブラにしてみましたとか言うけど、ノーブラが普通だからね」
「どうです? 天然物のダブルAカップ」
「胸板が薄すぎて肋骨が当たる気がする」

俺の背中に怨霊でも乗ったかのような寒気を感じ、翔平くんを引き剥がした。
俺にちんこを擦り付けないだけまだマシではあるけれど、胸板だって別に擦り付けられたくはない。
俺の背中におっぱいを擦り付けていいのは女の子だけなのだから。
あ、みかちゃんのおっぱいも揉みたいな。
月曜日はシンディちゃんで、金曜日はみかちゃんかな。

「次はちゃんとシリコンで盛ってきますー」
「何カップにするの?」
「Hカップとかどうですか? 爆乳のコスプレするように売ってるんですよ、アーマーみたいなのが」
「えー? そんなの買うぐらいなら電動オナホ買ったほうが絶対いいと思うんだけど」
「すごそう! 使ってみたい!」
「さすがに持ってないよ」
「意外!」
「俺、アダルトグッズはあんまり買ってないからなぁ。オナニーするぐらいなら風俗行くし」

俺のちんこだって、偽物の乳でパイズリするとか、偽物のまんこに突っ込むよりは、シンディちゃんにシコシコしてもらいたいだろうからね。
頭がゆるふわのシンディちゃん、本当天使だからな……。
シンディちゃんのお豆さんと、俺のちんこを擦り合わせた時は最高だったな。
あぁ、だめだ。
月曜日にシンディちゃん予約しよう。
シンディちゃんが恋しい。

「ヨネさん? 考え事ですか?」
「まぁ、ね」
「何考えてたんですか?」
「月曜日にソープ行こうと思って」
「最低! ヨネさん最低! 俺のおっぱいというものがありながら、他のおっぱいのこと考えてたなんて!」
「君のおっぱいには微塵も興味がないから」

翔平くんのおっぱいなんかより、アーチャーの揺れるおっぱいの方が魅力的だわ。
最近のゲームはいいね、3D技術の発達に感謝だよ。

「うーん……ヨネさんに色仕掛けが何も通用しない……」
「諦めなさい。その辺の男とは踏んできた場数が違うんだよ」
「素人童貞のくせに!」
「素人童貞の方が駆け引きもセックスも上手くなるんだぞー」

本当のところはどうか知らないけれど。
でも女の子たちがみんな優しくて色々教えてくれるから、俺は風俗に行き始めた後の方がテクニックはついた気がする。

「嘘だー。素人童貞はセックス下手って聞いたもん。駆け引きとか絶対できないもん」
「そうなの? 色々、優しく教えてくれるけどね。彼女なんかより、よっぽど親切」
「え? ヨネさん彼女いるんですか?」
「いるわけないじゃん。昔の話だよ。十年ぐらい前の」

あの頃は興奮に身を任せて、セックスしたさに付き合ったようなものだったからな。
もはやまんこの形は思い出せても顔は思い出せないな。
確か同級生だった気がするんだが、あまりにも一瞬の出来事だったから、卒アルとか見ないと思い出せないな気がする。
その後何人か付き合ったような気もするけれど、やっぱりまんこの形ぐらいしか思い出せないわ。
まっちゃんとアサに聞けばわかるとは思うけど。
初めての女は忘れないとか言うけど、そんなことはないんだなと他人事のように思った。
まぁ、あの頃から俺は不誠実だったってことだろうな。

「ヨネさん……素人童貞じゃなかったんですね……」
「え、そんな驚く?」
「風俗に給料注いでるっていうから、てっきり素人童貞だと思ってたっていうか、彼女とか……そーゆーのは、作らないのかと」
「人並みに恋をした時もあるってだけじゃん。恋っていうか、おっぱいとまんこに触りたかっただけでもあるけど」
「えぇ……」

翔平くんが俺をゴミでも見るかのようにして見ていた。
……この目はどこかで見たことがあるな。

「ヨネさんのことが大好きな俺ですら引いたから、それ人に言わない方がいいですよ」
「引いたついでに嫌いになりなさい」
「いや、俺、ちんこが大きい人が好きっていう、処女ならではの隠された感情を持ってるんで、似たようなものかなって思うから嫌いとまでは」
「え゛えぇ……」
「俺より引いてるの、どういうことなんですか!」

翔平くんは顔を真っ赤にして、ちょっと言うのが恥ずかしかったのにと言いながら、俺の身体を揺すっていた。
処女がみんなちんこの大きさ考えてるとか、その辺の処女の子たちに謝った方がいい。
そんなことを考えてるのは翔平くんだけだ。

「ってか、ヨネさん、ガルーダ手慣れてきましたね」
「そう? でもまだやりにくいよ」
「ガルーダ湧くの、あと三分もないんで、とりあえずこれ狩ったら、終わりですかね?」
「そうだね。終わったらご飯にしよ」
「デリバリーしましょ!」
「お、いいね。ピザとかどう?」
「良き!」
「じゃあピザにしよ。久々に食べるわー」

ピザは期間限定の、カニが入ったやつが食べたいな。
よくCMしてるやつ。

***

ピザを食べたら眠くなったのか、翔平くんは俺のベッドで昼寝をし始めた。
あんなにグズってたくせに、一度許されたことで遠慮がなくなっている。
俺はと言えば後片付けをして、ゲーム仲間のかえるくんがログインしたと言うので、もう一度オンラインゲームに戻っていた。
あとからまややも来るらしい。

『そういえば、ヨネさん、まおちゃんに会ったんですよね?』
「いや、俺の残業長引いちゃってさ。まおちゃんと予定合わなくなっちゃってドタキャンっていうか」
『そうなんですね! まおちゃんの貞操は守られたんですね! 本当によかった!』
「失礼なんじゃなーい? 俺だってそんなホイホイエッチしませーん」
『いやいや、週三風俗行ってる人に信用ないっていうか』
「いやいやいや、かえるくんだって俺イチオシのシンディちゃんに相手してもらったら週三通っちゃうから」
『どこのお店です? 後学のために』
「ちょっと待ってね。チャットにURL送るから」

通い慣れたソープのHPを開き、トップページのURLをかえるくんに送ってあげる。
まおちゃんのパンチラ動画にお世話になってるぐらいだから、かえるくんは俺と似たような趣味をしてると思うんだよな。

『へー! シンディちゃん可愛いですね! ギャル系!』
「いつもお世話になってんのよ。頭がゆるふわだから、割となんでもしてくれるよ」
『ええー……行ったことないからヒヨってましたけど、これはテンション上がっちゃうなー……』
「シンディちゃんは月水金がシフトだよ。お、でも月曜日は俺が予約入れたからやめてね」
『予約とかしてんですか!?』
「当たり前でしょ。お気に入りの子にマージン入るし、俺のために待ってるってのがイイんだから」

風俗の良さをわかってないな。
常連になると、予約いれただけで好みのプレイの用意とかしておいてくれる子もいるんだぞ。
卒業する時とか、最後に時間とっておいてくれたりして、めっちゃテンション上がるんだから。
……卒業はすごい寂しいんだけど。

『ログイン一発目から風俗の話とか最悪なんですけどー』
「お、まやや来たね」
『かえるくんも行くの?』
『検討中です!』
『ゲエエエェェェ!』
「ゲーっていうけど、その辺でセフレ作って責任取らない男なんかより百倍はマシだと思うけどね」
『まぁそれはそうなんだけどさー。でもそれを堂々と言うのは違うっていうかー、ヨネくんは別次元じゃん? ただのエロジジィじゃん?』
「そんなことない。まだちょっとえっちなお兄さんで通る」
『二十三歳なんて、高校生から見ればオッサンでしょー』

ふと、後ろのベッドで眠る翔平くんを見た。
確かに、あのピチピチ感がある十六歳と俺を比べると、間違いなくオッサンではあるな……。
いや、まだお兄さんでもイケる気がするけど……!

「……ってか、まややは俺より二つ上じゃん」
『ちょっと! 女の年齢バラすんじゃない!』
『え! まややさん俺の五個上なんですか!?』
『イヤアアァ! かえるくん若くて無理ー!』
『無理ってなんですか!』
「ちなみに、ナナシさんが俺と同じ歳」
『みんな大人だとは思ってましたけど、そうだったんですね! まぁ、まややさんは課金額ヤバいから社会人だとは思ってましたけど』
『ログインして五分で立ち直れなくなっちゃったわ……。私の癒しはオーディンだけよ……』

まややはそう言いながら、ムッキムキのバーサーカーである自分のキャラクターを着せ替え始めた。
黒と紫の、まややお気に入りの鎧を着せて走り回っている。

『ハァ……、格好良い。本当、オーディンが旦那さんなら、私毎日ご飯作っちゃう』
「まやや料理できたの?」
『プロテインぐらい混ぜられますけど?」
『プロテインがご飯なんですか!?』
『いや、私は卵かけご飯をよく食べてるけど』
「全然料理できないじゃん」
『ヨネくんは料理するの? 一人暮らしでしょ?』
「やるわけないじゃーん。良くて米を炊く程度ー」

ぐだぐだ話をしながら、ダンジョンへ向かう。
三人しかいないから、キメラがボスの難易度低めなダンジョンだ。

『あ、そういえばまおちゃんの貞操はヨネさんのドタキャンで守られたらしいですよ』
『まおちゃんに聞いた! 会えなくて残念ってまおちゃんは言ってたけど、私は歓喜した! お姉さんめっちゃ不安だったから安心した!』
「いや、みんなどれだけ俺がろくでなしだと思ってんの? 確かに下心はあったけどね?」
『ヨネくんは初詣ついでに姫初めとか言うタイプ』
『先っぽだけとか言いながらガッツリ、生で三回はしそう』
「ひどい! ちゃんとゴムぐらい着ける!」

どうしてこうも俺の信用が低いんだろうか。
俺はその辺のクソ野郎と違ってちゃんとお金を出して、専門のお店で遊んでいるのに……!

『次、もしヨネくんに会うなら、まおちゃんにお姉さんといる時に会いなさいって言っておいたから、もう大丈夫!』
『まややさん、さすがです!』
「え゛え゛ぇー! まややはいなくていいよー!」
『なんだとー!』
「ちょっ、バーサーカーでPKはやめて! キメラまで持たないから!」
『よーし! 俺もバーサーカーにするぞー!』
「かえるくんひどくない!? 俺のイチオシの店教えてあげたのにひどくない!?」

まややとかえるくんのPK行為でHPをギリギリにされる度、ポーションを使って回復しながらキメラまで持たせた。
本当にギリギリだった……!

***

ダンジョンに三回ほど潜ったあたりで、各々夕飯を食べるためにゲームから離脱した。
気が付くと外は真っ暗で、翔平くんを帰す時間になっていた。
寝汚い方の翔平くんが本性だったようで、後ろを振り返れば、全く動いていないのではないのかと思うぐらい同じ体勢で寝続けている。
俺も結構騒いでたと思うのだが、全然起きる気配がない。

「翔平くん、起きて」
「う゛ぅん」
「もう帰る時間だよ」
「う゛う゛……」

話しかけるたびに布団の中へ潜っていき、全く起きようとしない。
問答無用で布団を剥がし、ベッドから起き上がらせる。
捲れたスカートはきちんと直してあげたが、しわくちゃになっていた。

「泊まる」
「ダメダメ。明日仕事だから」
「まだヨネさんとちょっとしかゲームしてない」
「寝たのは翔平くんでしょ」
「えー……」
「えー、じゃないから」

不貞腐れた顔は寝癖と枕の後で心底ブサイクだった。
まぁ、翔平くんの寝てる時の顔、ブサイクだからな……。

「遅くなったから夕飯ぐらいは奢るよ」
「牛丼!」
「ハハッ、寝起きで牛丼食べられるのはすごいな」

でも最近、牛丼食べてなかったし、良いかもしれない。
高菜明太マヨ牛丼好きなんだよなー。
しょっぱい上に油っぽい感じ、ジャンクでいいよね。

「高菜明太マヨ牛丼ー!」
「お、同じこと思ってた」
「美味しいですよね!」

食欲で目が覚めたらしい翔平くんは、ぐぅっと伸びをして、寝癖がついた髪を簡単に整えた。

「ねぇ、翔平くん」
「なんですか?」
「君、チクニーして遊んでるでしょ」

薄いタートルネックに浮く、男にしては大きめの乳首を摘んでやった。

「う゛ぉ……」
「ブフッ」

喘ぎ声にしては随分と野太い声が出たな。

「フッ……何、それ……っ、喘ぎ声?」
「い、いや、その」
「しょっ、翔平くん……寝顔もブサイクなのに、喘ぎ声までブサイクとか、未来の彼氏に笑われるよっ……」
「なっ」
「チクニーしてて、ハハッ! その喘ぎ声は笑うわ!」
「も、もー! 不意を突かれたからです! もっと可愛くアンアン言えます!」
「アンアンだって! アーハハハッハハ!」
「笑わないでください!」
「あ゛あーヤバい、笑いすぎて苦しい。もう翔平くんの大きい乳首見るたびに笑う」
「大きいとか言わないでください! 人よりちょっと主張してるだけです!」
「ヒー! 腹筋鍛えられる!」

腹を押さえて笑う俺を翔平くんがポカポカと殴ってくるが、もう笑いが堪えられない。
女の子みたいな顔して、女装までしてるのに、野太い声出してたよ。
チクニーしてんのに、オッサンみたいな声出てたよ。

「もう! 見ないでください!」
「翔平くん、ブラジャー付けた方がいいんじゃない? 控えめBカップにした方がいいんじゃない? 俺の腹筋のためにも」
「まな板にはまな板の良さがあるとか言ってたくせにー!」
「あははは!」

これはしばらく、忘れられなそうだと思った。
絶対、夜とかに思い出し笑いするやつ。



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