この恋だけは勘弁してくれ

「さっきはごめんなさい」

翔平くんはトイレでヌいた後、そう言いながら部屋に戻ってきた。
パッドが大盛りに入ったナイトブラも外し、スウェットのズボンをちゃんと履いて、手に持っていたスカートは早々に鞄の後ろに隠した。
目は真っ赤だし、無理をして笑っているのも分かってはいるが、何も答えなかった。

「ふぅ……興奮するAVはダメですね!」
「……そうね」
「あ! ちゃんとスウェットも汚したとこは拭いたんで! ってか、ちゃんと洗濯してから返しますから。パッドも取ってきましたし、あっ、でもパンツはアレしかないから、そのままなんですけど……すみません……」

しょんぼりとしながらそんなことを言い、翔平くんの目にじわりと涙が溜まる。

「別に、気にしてないよ」

嘘だ。
本当はめっちゃ気にしてた。
汚れたスウェットはどうしたらいいだろうかとか、あのパンツも汚れてたよなとか考えた。
多分そのスウェットは俺が着ることはもうないと思う。

「ざ、残念ですけど、AVはやめときましょ! 僕が死ぬほどヌいてきて、勃たないときに観ましょ!」
「……そうね。そうしよっか」
「えへへっ、興奮しちゃって、ごめんなさい」

次があることに期待したのか、翔平くんが少しだけ嬉しそうにした。
嬉しそうに笑ってはいるが、さっきよりも俺の近くに来ようとはしなかった。
まぁ、仕方ないだろう。

「そろそろ討伐イベントあるからゲームしようと思うんだけど、翔平くんどうする? 見てる? 寝る?」
「ベヒモスですか?」
「そうそう。深夜のお楽しみ」

オンラインゲームにログインし、パパッと装備を入れ替える。
ベヒモスは硬いから火力全振りの戦斧スタイルで戦うのがベストだ。
剣と槍も悪くないけど、戦斧よりは攻撃が軽くなってしまう。
戦斧にするとタメが長くて小回りがきかないが、ベヒモスは俊敏な敵ではないから問題はない。

「んー……見ててもいいですか? ベヒモス戦は苦手で、あまり立ち回りが上手くないんですよねー」
「たまにまおちゃんが失敗するときあったけど、アレ翔平くんだった?」
「たぶんそうだと思います」
「じゃあガルーダ戦の時に突然いい動きするのは翔平くんだ」
「よくわかりましたね! ガルーダ戦は姉ちゃんより僕の方がうまいんですよ」

折り畳み式のスツールを出してあげると翔平くんはそこに座った。
一通り俺の装備を見て、火力全振りしすぎてて使いにくそうだと眉間にシワを寄せている。

「僕は軽めの装備が好きなんで、アーチャー使いがちなんですよねー。戦斧とかは使い慣れなくて、バーサーカーとかは敬遠しがちです」
「確かに。まおちゃんがバーサーカー使ってんのは見たことないかも」
「姉ちゃんも基本的に僕と同じキャラ使ってますからね。まぁ、でも姉ちゃんの方が近接戦は得意ですよ。僕は中距離・遠距離戦ですね」

普段の姿で話す翔平くんは無理をして女装しているときより、よっぽど話しやすかった。

「ふふ。じゃあベヒモス戦エキスパートの俺が、ベヒモスの立ち回りを見せてやろう」
「やった!」
「何回かしたら翔平くんもやってみなよ。ベヒモス戦は近接火力ゴリ押しでいけるし、そんなに難しくないしね。立ち回りもそんな難しくないから、覚えたらすぐできるよ」
「ご指導、ご鞭撻の程、よろしくお願いします!」
「……その言い方やめよ。仕事思い出しちゃう」
「ハハッ! ヨネさん社畜ですもんね!」

この後、ベヒモスに当たり散らすことで仕事のことは頭の外に追いやった。
久しぶりの二連休だから!!!

***

ベヒモス戦も終わり、比較的難易度が低いダンジョンに行ったり森で魔物を狩るなどしながら素材集めに精を出していた。
戦斧スタイルの戦い方を学んだ翔平くんのつかう素材だ。
重いのはタメが長いから使いにくいとのことで、初心者向けのアックスから使ってみようということになったので、素材狩りも順調だった。
しかし、オールに慣れないらしい翔平くんが単純作業にウトウトとし始め、俺も残業続きだったこともあり、明け方には眠気に勝てなくなってしまった。
あと何匹かトレントを刈らないといけないが、トレントは数回殴れば死ぬこともあり、この単純作業が眠気を誘ってくる。
翔平くんは椅子に座ってるのもキツかったのか、少し前に休憩しますって言って床に横になってしまった。
さっきまではチラチラこちらを見ていたが、もはや完全に目が閉じている。
だめだ……俺もひとまず寝よう……。
それから、昼前に起きればいいだろう。
昼からはガルーダ戦があるから、俺の新しい鎧の材料のために、素材回収をしておきたいし。

「翔平くん、一回寝よ」
「ううんー」
「ほら、床で寝ると腰痛くなるよ」
「うんー」
「うんって、聞いてないでしょ」

翔平くんの腕を掴むが、翔平くんは掴んだ手を振り払うようにしてその場に丸くなった。
床暖房なんて高価なものはないから、そんなところで寝たら寒くて仕方ないだろうに。

「ほら」
「床で、大丈夫です……」
「何言ってんの」

翔平くんから絶対に動くものかという意思すら感じる。
どんだけ眠いんだ。

「風邪ひくって」
「うーん」
「ほらもう、足冷たいよ」
「…………ヨネさんと寝ていいんですか?」

翔平くんはまどろんだ顔でこちらを見て、黙ってしまった俺を鼻で笑った。

「またベッドでオナニーするかもしれないですし、ちんこしゃぶるかもしれませんよ。さっきヌいたけど、朝勃ちはしちゃうと思うんです。それがヨネさんの手に当たってしまうかもしれないし、僕が腰を擦り付けるかもしれませんよ」

自虐するかのように翔平くんが喋る。
笑ってはいるが、楽しくはなさそうだった。
そんなことを言っていて、辛くないのだろうか。
いや、まぁ、冷たく当たっているのは俺だけどさ。
はぁ……もう、だからちんこなんかしゃぶらなきゃよかったんだ。

「だから、床で大丈夫です」

そう言って翔平くんは猫のように丸くなり、俺の膝掛けに使っているブランケットを被った。
そんなに大きくないブランケットだから、翔平くんの身体は半分ぐらいしか収まっていない。
今にも泣きそうな顔だけ隠して、尻は丸出しだよ。

「……俺はね、俺のベッドでオナニーされるのも嫌だし、ちんこしゃぶられるのも嫌だし、朝勃ちしたちんこが手に当たるのも嫌だし、腰を擦り付けられるなんてのはもってのほかだから、床で寝て欲しいと思うよ」
「…………はい」

さっきよりも小さくなった翔平くんは控えめに鼻をすすった。
泣くぐらいなら言わなきゃいいのに。

「全く、AVの趣味も悪いけど、男の趣味も悪いったらないね」

そう言って、俺は小さくなった翔平くんを肩に抱えた。
オンラインゲームとAV鑑賞が趣味でも、俺だって風俗で駅弁スタイルができるぐらいには力があるのだ。
それほど遠くないベッドに翔平くんを寝かせ、壁側に追いやるとその横に自分も寝そべる。

「翔平くんを泣かせるような男なんか早々に諦めて、翔平くんを大切にしてくれるような男を好きになりなさい」
「う゛っ、う゛ー!」
「痛ァ!」

翔平くんが俺の肩にパンチを喰らわせてきた。

「ちょっと! 俺は暴力を振るうような子とも一緒に寝たくないよ!」
「だ! 黙って、殴られてぐだざい!!」
「いや、本当に痛いな! 心底、君は男だと思ったよ!」
「お゛とこなんでずよ!」

それからしばらくの間翔平くんは暴れていたが、頭にブランケットを被ったままいつの間にか大人しくなった。
寝息が聞こえるから死んではないだろう。

「はぁ……俺が高校生の時にはこんなんじゃなかったぞ……」

ブランケットをずらして翔平くんの顔を出してやると、額には汗をかき、目元が真っ赤で、鼻水を垂らしながら寝ていた。
……アサの寝顔だってこんなにブサイクじゃない。
べたべたになったその顔をタオルで拭いてやり、鼻水はティッシュで拭き取っておいた。

「世話が焼ける高校生だよ……」

何が良くてAVレビューとかオンラインゲームの攻略をブログにまとめてて、風俗通いに給料をつぎ込むような奴を好きになるんだか。
性癖はちょっと斜め上に吹き飛んではいるが、まおちゃんに似た顔立ちの可愛い男子高校生なんて需要があふれているだろうに。

「いい男なんて山ほどいるんだから、幸せな恋をしなさいよ」

目元を真っ赤にして、鼻水を垂らして、無我夢中で恋をする翔平くんを少し羨ましいとも思った。




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