失恋が恋の始まりだなんて
「見てみてー!当たっちゃった!」
「うおー!すげー!」
昔っからくじ運がめっちゃいいはーちゃんが当てたのは温泉旅行。
車で片道1時間程度のところにある温泉に2泊3日。
温泉とか羨ましいな。
社会人になると途端に温泉とかリゾートってやつに行きたくなるんだよなー。
「ねーねー、アサ一緒行かない?」
「え!いいの?!」
「最近元気ないからね!旅行でも行ってはなちゃんのことは忘れちゃいなよ!」
にーっと笑ってはーちゃんは俺の頭をよしよしと撫でた。
持つべきものは友達だと涙が流れそう。
はなちゃんのことで凹んでるわけじゃないけど、俺が凹んでんのはわかってくれてるはーちゃん、ちょーいいやつ。
「ありがとう!はーちゃん!」
「その代わり運転はアサね!」
「ちゃっかり!」
はーちゃんは笑って、当たり前田のクラッカー!って叫んだ。
なんだ前田のクラッカーって。
***
はーちゃんが当てた旅行の宿泊先は豪華な旅館、ではないが大きなホテル。
ホテルの人には男2人で来ちゃうの、って顔をされたけど2人で笑ってやった。
部屋は普通の和室で、お茶請けのお饅頭とお茶がテーブルにのっている。
バサバサと荷物を下ろし、片付けもそこそこにお茶を入れてお饅頭を頬張る。
甘さが身に沁みるぜ。
「ふはー、結構長かったね」
「行きはなー。帰りは早く感じるよな」
「わかるわかる!」
「帰る時とか俺めっちゃ寂しくなってだめ。帰りたくない」
「俺ももう帰りたくなーい!仕事嫌ー!」
「え゛?!はーちゃん楽しそうじゃん!」
「楽しいけど楽したい!」
「めっちゃわかる!」
個人的に寿退社に憧れる。
会社に行きたくなくて専業主婦になりたいって思うけど家事全般にできないので俺はあくせく働く運命。
秋と言ってもまだまだ昼は暑く、クーラーのきいた室内で畳へのそり。
うーん・・・このまま寝たい。
「アサ!浴衣着て外行こう!街散策!あっでもその前に汗かいたからお風呂!温泉!」
「わかってたけどはーちゃん元気!」
「楽しむためには常に全力って大切なんだよ!」
はーちゃんに引っ張られて無理矢理起き上がり、浴衣に着替える。
思った以上に温泉の浴衣はダサいし、キマらないけどはーちゃんは満足そうに温泉セットを鞄から取り出した。
「いざ、温泉!」
「どんだけ元気なの」
はーちゃんはへらへら笑いながら温泉へ向かう。
こんなに俺のために元気付ようとしてはしゃいでくれて。
俺もはしゃがないとなんか損な気がしてくる。
はーちゃんにも申し訳ないしね。
「って思ったのにどうしてそんなに縮こまる」
「は、恥ずかしいぃ・・・」
「なんでだよ!」
「だって久しぶりに一緒にお風呂だよ!目のやり場に困る!」
そういいながら温泉の隅っこではーちゃんは小さくなっていた。
野球部の合宿とかでもそうだったけど、なんか知らないけど1番はしゃぐくせに1番恥ずかしがるのだ。
普段一緒にいる奴ほど一緒にお風呂は恥ずかしいって言っていつも早々と風呂からでていた記憶。
まっちゃんよりも先にあがってたんだから、相当な烏の行水だった。
「・・・アサ、マッチョになったね」
「ん?あー力仕事だし、身体なまると気持ち悪いからまだ野球してるしなー」
「でも俺もちょっと筋肉ついたんだよ!」
「どこどこ?」
「失礼!ってかあんま見ないで!こっちこないでー!!!」
ものすごい剣幕ではーちゃんが叫び、広い大浴場に声が響く。
ひ、人いなくてよかった。
「もうあがる!早く外散策する!」
「そっち寄らないし、見ないからまだ入ってれば?」
「でも恥ずかしいんだもんー」
「せっかくの温泉なんだし、のんびりしなよ」
俺はそう言って顔にタオルをのせる。
熱めのお湯が気持ちいい。
俺温泉はぬるいよりは熱いのが好きなんだよね。
はーちゃんもしばらく悩んだみたいだけど、まだ浸かっていることにしたらしく大人しくなった。
「ふー・・・気持ちいいー・・・」
「アサおっさんくさいよ」
「おっさんにはまだ早い!」
でも熱いおしぼりで顔を拭くおっさんの気持ちはわからないでもない。
***
外にでて片っ端から温泉饅頭を食べ、夕飯もガッツリ食べて、またちょっとだけ風呂に入って。
火照る身体に染みる冷酒を煽る。
「うまー」
「明日どうしようか」
「また街中散策する?反対側にでっかい露天があるんじゃなかった?」
「じゃあそこ行こうよ!ちょっと遠いみたいだけど、車で行く?」
「んー・・・日本酒の飲み過ぎで二日酔いかもだから歩く」
「飲み過ぎない!それで終わり!」
「ケチー」
「早く寝ないと!明日も朝から行動しなきゃなんだから!」
「全力だな」
はーちゃんはグラスに入っていた日本酒をイッキ飲みし、ぷはーっとまるでビールでも飲んだかのような行動をした。
俺もそれにならってぐびっとイッキ飲み。
「んーうまいー」
グラスに追加で入れようと思っていた日本酒ははーちゃんにかっさわれて冷蔵庫の中へ。
じっ、とはーちゃん見たらはーちゃんは隣り合わせに敷かれた布団に座って、ぽんぽんっと布団を叩いた。
・・・寝るぞってことですかね。
・・・早くしろってことですかね。
「まだ10時半だよ?夜中でもないよ?」
「俺はいつも夜中まで勤務するから早寝ってすごいご褒美」
目を輝かせてそんなこと言うもんだから、仕方なくため息をついて布団入った。
旅先って夜更かししたりして次の日辛いーとかじゃなかったっけ。
いや、さすがにオールするって元気はないけどね?
はーちゃんは早々に布団に入り布団の上で幸せを噛みしめていて、アサもって言われたらもう寝ないわけにはいかなかった。
「電気消すよー」
「待って!アサの布団俺の布団に寄せる!」
「どうして!」
「なんとなく!」
いそいそと俺の布団を引っ張り、少し重なり気味の俺らの布団。
なんでこんなに広いのにくっつくの。
「え゛ー」
「ね?ね?いいでしょ?内緒話できるよ?」
「2人しかいないのに意味ない!」
「早くー早くー」
「もー、分かったから」
はーちゃんに浴衣の裾を引っ張られながら部屋の電気を消す。
そのまま布団に入り、布団がふかふかしてるのに感動。
朝早くに出掛けたり、散策したりしたからか、思ったよりも早く眠気が襲ってきた。
微睡む頭でいろいろ考えることもできず静かに目を閉じる。
寝れそうなのに、寝れそうなのに、はーちゃんってば、もう、もう!
「なんで手とか握るの・・・!暑いよ!」
「え、女の子ほしいかなって」
「はーちゃんは間違っても女には見えないよ?!」
「でも俺の手小さいって言われるし、まっちゃんとか女の手だって言って興奮してた時代が」
なんだその時代。
俺には訪れる気配がないんだけど。
ちょっと握っちゃったけど全然男の手っていうかもう目の前にはーちゃんいるしはーちゃんの手なんだけど。
ぎゅってしないでほしい。
「俺よりは小さいけど、はーちゃんの手だよ」
「まーまー。人肌恋しい夜もあるってことで。おやすみー!」
「もしかしてこのまま寝ようとしてる?!」
「すー・・・」
「ちょっと!おーい!」
結局はーちゃんは離してくれないし、1人で騒いでたらなんか寂しくなったしそのまま寝た。
はーちゃんの言葉を借りるなら人肌恋しい夜もあるってことで。
「おやすみ」
「おやすみー」
「やっぱ起きてたなこの野郎!」
「今寝る!」
わけのわからない熱帯夜の出来事。
とりあえず、人に言うのが憚れる出来事だ。
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