どうして恋なんかしたんだ

最近、ジュニアが少し変だ。

『それでね、今日新作のサンプルができてね』
「うん」
『まだアレルギーテスト前なんだけど、でもうまく行けば来年の夏前に販売できそうでね』
「ソレはすごいな。完成度高そうだ」
『ちょっと自信作なんだー。自分はあんまり絡めてはないけど、でもホント良い出来で』
「そうかー。アレルギーテストうまくいくといいな」
「まっちゃーん?ぶどう全部食べちゃうからねー!」
「あっ!馬鹿!俺にも残せよ!」
「電話長いんだもーん」
「いいだろ、別に!」
『ヤ、ヤスくんいるの?』
「え?あぁ、まぁ」
『じゃ、じゃあ切るよ!またね!』
「あっジュニア!」

そのままぷつりと電話は切れた。

「ハァ・・・またか」

最近はずっとこうなのだ。
やたらに電話を掛けては来るがすぐに切る。
今日だって大した話はしていない。
時間帯は夜の10時前とこれまた微妙な時間で、そこから10時が少し過ぎるか過ぎないかで電話を切る。
何かあったのかと聞いてみれば何もないと笑い飛ばすし。
昔はなんでも話していたが・・・さすがに5年の溝があるとそうもいかないらしい。
俺は携帯を閉じてせっせとぶどうを食べているヤスのもとへ行く。

「食べ過ぎ!」
「まっちゃんが俺ほったらかしなんだもん」
「ハァ?たった10分足らずの電話だろ」
「ジュニアくんばっかり甘やかしてさ!」

げ・・・ヤスがいじけた。
実はここ最近ヤスも変だ。
週の半分は実家に帰っていたのに最近は週に1度、必要なものを取りに行くだけになっている。
帰れと言うと一応帰って、また俺の家に戻って来るのだ。
今日も例外ではなく、実家からぶどうを手に家に戻って来た。

「ヤス」

あーあ・・・シカトだ。
ぶどうの皮を剥いて半分に割り種を取る。
ソレをヤスの唇へつければヤスはぱくりと俺の指ごと食べた。
甘噛みをするのは怒っている証拠だ。

「悪かったよ。機嫌直せって、な?」
「・・・・・何が、な?だよ。ジュニアくんばっかりかまってさ。俺最近ずっとほったらかし」
「そうでもないだろ?最近ジュニアの家で飯食ってないじゃん」
「俺が行きたくない言うからじゃん。まっちゃんの意思じゃない」

そう言われると困る。
確かにそうなのだ。
何度か誘われているが研究が、とかサークルが、とか言って断ってばかりだ。
それもヤスが面倒くさいと行きたがらないのが理由で、研究とかサークルなんてのは嘘だ。
いつでも行けたのだ。
でもヤスを置いて、というか1人でジュニアの家に行きたくないだけだ。

「悪かったって。だから噛むな」
「反省してない顔」
「してるよ」

ヤスの口から指を引き抜いてまたぶどうの皮を剥く。
半分にして種まで取って、半分はヤスの口に、もう半分は俺の口へ放り込んだ。

「うまいな」
「巨峰だもん。山形の」
「ぶどうが有名なのか?」
「さぁ?」

どうやら機嫌は直ったらしい。
餌を待つ雛鳥みたいに口を開けて俺がぶどうを剥き終わるのを待っている。
俺はヤスの口と俺の口にせっせとぶどうを運んだ。

「まっちゃんってさ、」
「うん?」
「どんな高校生だった?」
「どんなって・・・」

別に普通だった気がする。
学校じゃ居眠り混じりで授業を受けて、部活も入らず塾通い。
夜の1時ぐらいまで勉強して後は寝る。
夏休みなんかは学校の補修じゃなくて塾の夏期講習だったし、その後にアサとかヨネの家で時間潰してた。
後はみんなでファミレス勉強会とか無難に桃鉄、ぷよぷよで遊んでるか・・・ヨネの家でAV見てたな。
特に他の奴等と変わりはなかったはずだ。
まぁあの頃は自分がゲイだとは思ってなかったしな。

「普通だよ、普通」
「何してたのか知りたいのー」
「ダチの家でぷよぷよとか桃鉄して、塾行って、学校行ってたよ」
「ふーん?扱き合いは?」
「するわけねぇだろうが。バカか」
「まっちゃんは普通のAVじゃ勃たないもんねー」
「昔は勃起してたんだ」

おしゃべりな口にぶどうを押し込んだ。
ヤスはじろりと睨むようにして俺を見ている。

「・・・なんだよ」
「もしかしてジュニアくんが理由なわけ?」
「ハァ?」
「違うの?」
「さぁな。新鮮味がなくなっただけじゃねぇの?やたらにAV集めてるバカがいたんだよ」

そのバカは言わずもがな、ムッツリヨネだ。
ヨネのラインナップはすごかったしな。
それにいつから勃起しなくなったかなんて曖昧だ。
もしかしたらヨネがノーマルAVを見せまくるからゲイになったのかも。
まぁ・・・ソレはないかなー。

「ヤスはどんなんだったわけ?」
「友達の家泊まり歩いてた」
「・・・本当に友達だろうな?」
「やだー、嫉妬?」

ニヤニヤ笑うヤスの本心はわからない。

「ってかまぁ・・・友達っつーか年上のサラリーマンとお付き合いしててー」
「それで?」
「なぁなぁ付き合ってたんだけど二股でー、俺捨てられた?みたいな?」
「はぁ・・・聞くんじゃなかった」
「昔の話だしー?別によくあることじゃん」

ソレを言われるとどうしようもない。
男と男でうまくいく可能性のが低いし、みんな付き合っていなくても性的関係を持ったりする。
たまに興味本位の奴もいるし。
ネコが大半だからリバ率も高いし。
ケツなんて感じる場所少ないのにネコがいい奴等はきっと愛されてるって疑似体験をしているんだ。
俺は痛いから嫌だが。
多分・・・性に緩いのは男だからで、突っ込まなくてもそれなりの満足感が得られるからだ。
結局は俺もそのうちの1人に過ぎない。

「俺も汚れたな・・・」
「俺のせいじゃないっしょ」
「いやお前のせいだ」
「俺で味を占めたのはまっちゃんじゃん」

俺の指にねっとりと舌を這わせてヤスが笑う。
その舌を指で掴んでヤスの唇に唇を重ねた。
うん、ぶどう味。



夜が寒くなり始め、ヤスが着替えを取りに実家へ帰った。
ヤスは親はあまり心配していないと言うが、ヤスがふらふらどこかへ行くのを咎めないだけで心配はしていると思う。
ついでに実家で飯は食えと言い、家から送り出した。
なんなら今日ぐらい実家で過ごせと言いたかった。
ヤスの服と俺の服を洗濯機に放り込み、何日かぶりの掃除に精を出す。

気が付けば夕方で、そろそろ夕飯を買いに出なければならなかった。
ヤスはどうするだろう。
2人分買って無駄にするわけにもいかないし。
一応メールを入れて返事を待つかな。
その間にそろそろ乾いたはずの洗濯物を取り込んで、それから風呂掃除もしなければ。
洗濯物を取り込んで畳んでいるとインターフォンがなる。
ヤスが帰って来たらしい。
放っておけば勝手に入ってくると思ったんだがインターフォンの音は止まない。
合い鍵を忘れたのか?
ドカドカと音を立てて玄関へ向かう。
そのまま思いっきりドアを開けた。

「うるせぇよ!」
「は、あ・・・ご、ごめん、なさい」
「えっ、ジュニア?」

そこにはヤスではなく、スーツ姿で鞄を抱えたジュニアがいた。

「あの、外、自転車あったから、いるかなって・・・」
「わ、悪い。ヤスかと思ったから」
「ヤ、ヤスくんいないの?」
「今実家帰ってるんだ。とりあえずあがれば?」

息を乱しそうになるのをこらえてジュニアを中へ案内する。
急いで携帯を取り出してヤスにメール。
帰って来るなと言わなくて良かった。

「まっちゃん!」
「う゛っ」

ドスンと背中にジュニアがぶつかる。
離れてほしいが完全に身体が固まって携帯を弄る手すら止まってしまった。

「まっちゃんは、ヤスくんと付き合ってるの?」

冷や汗が止まらない。

「な、に言ってんの?」
「だって、俺よりヤスくんとの方が仲良い」
「そら、大学も同じだし、けっ研究室も、同じだからっ」
「じゃあなんで、なんでっ、俺と、ふ、2人じゃ遊んでくれないの?」

このまま気絶してしまいたいのに意識が遠くなる気配はない。
ジュニアも俺を離してくれそうになく、しがみつく腕はさっきよりも強い。

「俺だって、まっちゃんと遊びたいし、」
「う、うん。わっ悪かったから、だから」
「俺だって、まっちゃん、好きなのに。やっヤスくんの、好きと同じ意味で、好きなのに!ヤスくんばっかり・・・ずるい・・・」

その言葉に目を見開く。
でも振り返ることはおろか、動くこともできない。

「まっちゃんは、俺が嫌いですか」




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