どうして恋なんかしたんだ

「ジュニアくん、こっちに慣れたって?」
「昔住んでたらしいから平気だろ」
「ふーん」
「アイス食うか?」
「食べる!」

ジュニアが引っ越してきて、少しずつ前みたいに会うようになった。
相変わらずヤスも一緒だけど。
ジュニアはこっちで化粧品会社の研究室にいるらしい。
製薬系の俺とヤスとは分野が違う。
今は新しいファンデーション作りをしているらしい。
休日は学生と同じく土日。
それから祝日らしい。
俺等には祝日休みなんてあってもないようなものだから少し羨ましい。
ヤスは相変わらず週の半分はうちにいる。
親が心配しないのかと言えば特に気にしていないからいいと言う。
料理スキルは全くあがらないので昼の学食が唯一まともな食事だ。
一般公開もしているうちの学食は休みでも営業しているからうれしい。
菌の成長も特に問題はないし俺もヤスも気楽なものだった。

「メロンバー飽きた。スイカバーほしい」
「変わらないだろー」
「交代して」
「はいはい」

俺等の関係も相変わらず。
毎日毎日セックスしたい年齢でもないしだいたいがごろごろして終わる。
寝る時に狭いベッドと夕飯がいささか不満だがそれ以外はとくになんともない。
アイスを食べ終わってメールを見ればジュニアからメールが着ていた。

「実家からなすびいっぱい届いたから食いに来ないかだって」
「ジュニアくん?」
「そう」
「まっちゃん行きたい?」
「・・・どっちでもいいよ」

ヤスが行きたくなさそうだ。
毎回突き合わせて悪いとは思っているが俺はヤスがいないとジュニアと2人じゃ気まずい。
気絶こそしないが緊張しておかしくなる。

「行く」
「そうか。じゃぁ返信する」
「うんー。あ、焼きナス食べたいって言っといて」

焼きナスいいな。
俺はしょうゆ派だ。



ジュニアの家は俺の家からチャリで30分ぐらいだ。
電車の方が早いかと思っていたがそうでもない。
駅からしばらく歩くことを考えるとチャリで行く方が早かった。
後ろにヤスを乗せて俺だけゼェハァ言いながらジュニアの家へ。

「あっ!まっちゃん!ヤスくん!」
「あれ?今帰り?」
「うん!買いものいってた!」
「荷物ヤスに持たせれば?」
「えー!!!」
「お前より俺の方が疲れている」
「俺はまっちゃんに突かれて腰とかケツが」
「黙れ!」

焦ってジュニアを見れば気付いていないのかただ笑ってた。
実のところヤスと付き合っているとはまだいえていない。
ヤスは別に言えばいいっていうけどそれは俺の心の問題なのだ。
たぶん耐えられない。
ジュニアの歩くスピードに合わせてチャリをこいでようやくジュニアの家まで来た。
俺もヤスも手伝うと邪魔になるのでジュニアの家では大人しくしている。
まだ荷物は少なくて、テレビ台もないらしくテレビは床置きだ。
しばらくして食卓に並んだのはナス料理。
焼きナスももちろんある。

「はい、まっちゃん」
「ありがと」
「げ、まっちゃんしょうゆ?!ポン酢じゃないの?!」
「うん。しょうゆのが好き」
「でもいつもポン酢で食ってるじゃん」
「お前と一緒だからだろ?」

ヤスと居酒屋に行く時はヤスに合わせてポン酢だ。
焼きナス、2つも頼まないし。
ヤスは何が気に入らないのか俺の焼きナスにポン酢をかけた。

「ああああああ!!!お前、もうしょうゆかけてただろ!」
「絶対ポン酢のがおいしい」
「最悪だ・・・絶対しょっぱい」
「もっとしょうゆかけたらしょうゆ味になるかもよ?」
「いい!いいってあああああ!!!」

ジュニアまでヤスの真似をしてしょうゆをかけた。
もう俺の焼きナスはしょうゆとポン酢でひたひただ。

「ハァ・・・最早ナスの味しないだろうが・・・」
「じゃぁ俺のと半分こしよう。ポン酢だけど」
「俺のもあげるよ」
「じゃぁお前等もこのひたひたの焼きナス食えよ」

ひたひたの焼きナス、ポン酢味の焼きナス、しょうゆ味の焼きナスを順番に食べる。
それからナスを炒めたのもみそ汁も美味しくいただいた。
飯が作れない俺とヤスにして見ればチャリ30分の時間をかけてもありがたい飯だった。

「ヤス、口に飯ついてる」
「え、マジ?」
「マジ」
「とってー」
「はいはい」

口の端に米粒なんてがっつきすぎだ。
俺が飯を食わせていないみたいじゃないか。
あながち間違いではないけど。

「まっちゃんさ、ティッシュ使えばよかったんじゃないの?」

ジュニアのその言葉にドキリとする。
そう、そうだ、ティッシュを使うべきだった。
いつもの癖でヤスの口端についた米粒をそのまま口に入れてしまった。
上手い言い訳が思いつかずヤスを見れば知らん顔して味噌汁を飲んでいる。

「ジュ、ジュニアの飯うまいから、も、もったいないなぁって・・・な?」

苦しい!
苦しいぞ、俺!
でも他に思い浮かばなかった・・・!
だって実際うまいんだから、そう、うまいんだ!
そう、もう何もおかしくはない!
嘘は言っていない!

「そ、そう?」
「ホントホント!俺もヤスも料理は全然駄目だから、毎晩困ってて、それで」
「え、ヤスくんってまっちゃんと住んでるの?」

墓穴。
一緒には住んでいないんだけど、どうしよう。
普通はこんなに人の家に入り浸らないよな。
今度こそ助けろとばかりにヤスを睨む。
ヤスはため息をついて口を開いた。

「そ。同棲してんのー」

とんでもないこと言いやがった。

「同棲はしていない!同棲じゃなくて、こいつが帰らないだけで」
「ど、同居じゃないの?」
「だから、同せ・・・」

そうだ。
そもそも同棲って言い方がおかしい。
俺も大分毒されている。

「俺家に帰りたくなくてさー、それでまっちゃんの家にいるの」
「そうなんだー」
「そうなんだ・・・、そう、そうだよ」
「まっちゃん慌てすぎ」
「誰のせいだ」

どっと疲れを感じながら飯を食べた。
食べ終わると片付けだけは俺とヤスでする。
器具の洗浄に手慣れているからこれは慣れたものだ。
明日も仕事のジュニアの為に俺とヤスは帰る準備をする。

「もう帰るの?」
「ジュニア明日仕事だろ?俺等も明日は学校行かなきゃ」
「そうなんだ・・・」
「そんな顔するなよ。家そんな遠くないんだし晩飯はいつでも食いに来る」
「絶対だよ!」
「はいはい。じゃーなー」

ジュニアはマンションの下まで降りて来て俺等を見送る。
別にいいって言うのにいつもだ。

「ヤス、後ろ」
「俺寝ちゃいそう」
「だったらお前が前だ」
「嘘、寝ない」

ヤスを後ろに乗せてジュニアに手を振って帰る。
しばらくすると俺の腹にヤスの腕が巻きついてきた。
巻きつくだけならまだしもギリギリと締め付けてくる。

「なんだよ」
「俺まっちゃんが焼きナスしょうゆで食べるの知らなかった」
「言ってないからな」
「なんかジュニアくんに負けた気分」
「ジュニアの家で飯食ったことあるから覚えてたんだろ」
「俺にも教えればいいのに」
「お前はポン酢のが好きだろ?だったら俺はポン酢でいいよ」

背中を噛まれた。

「痛い痛い痛い」
「他に好きな食べ方は?って言うか俺の知らないこと」
「あー?何も思い付かねぇよ」
「じゃぁ思い付いたら教えて」

ヤスが知らない俺のことってなんだろうな。
もう何もかもバレている気がするんだけど。
好きな酒も好きなテレビもなんでも。
これだけ一緒にいて嫌だと感じないことがそもそも珍しいと俺は思っている。

「あ、実はスイカバーの方が好きだ」
「俺も」
「じゃぁもうバラエティパック買うのはやめような」
「そうだねー」
「ヤスは隠してることないのか?」
「んー・・・実はこの間少しは家に帰って来い言われた」
「ちゃんと帰れ!」




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