どうして恋なんかしたんだ

うちに置いてあるヤスの荷物がだんだん増えてきた。

「ヤス・・・ココ、一応俺の家なんだけど・・・」
「いいじゃーん。居心地いいんだもーん」
「だもーんじゃねぇよ」

キャリーバックでうちに来たヤスに突っ込む。
元々あまり実家に帰らないで恋人の家か俺の家にいたが恋人まで俺になった今最早遠慮はない。
まぁ掃除をしてくれるのは助かっている。
しかし問題は飯だ。
俺もヤスも飯が作れない。
今までは食べたり食べなかったり、食べてもコンビニだったけどヤスがいるとそうもいかない。

「夕飯何にしよう・・・」
「作ってよ」
「できないの知っているだろうが」

2人とも化学は得意なのに化学反応を利用しているはずの料理は何もできない。
PC起動して簡単な料理のページを開く。
ヤスも荷物をベッド脇に置いて俺の横へ座った。

「何食いたい?」
「たこやき」
「機械がない」
「お好み焼きは?ふわふわしたのが食いたい」
「ふわふわって・・・何入れるんだ?重曹?」
「さぁ?お好み焼きの粉買えば書いてあるんじゃない?」

お好み焼きで検索してみたが小麦粉だの山芋だのいろいろ書いてありすぎてよくわからなかった。
とりあえず重曹は入れないんだな。
しかしシーフードだの野菜だの広島風だのいろいろありすぎだ。
とりあえずヤスの言うとおりお好み焼きの粉を買いに行くかな。

「スーパー行こうぜ。お好み焼きの粉を買おう」
「うん。財布だけ持っていけばいいかー」
「携帯も。お前迷子になりそう」
「ならねぇよ!」

ヤスと2人で携帯と財布を手に外へ出た。
ヤスが鍵を締めている間にチャリを出す。
スーパーまでは少し遠いのだ。
鍵を締めて道へ出てきたヤスを後ろに乗せてチャリをこぐ。

「お好み焼きって何入ってたー?」
「キャベツと卵」
「もやしって入ってたっけ?」
「わからん。あ、麺って混ぜてたっけ?」
「わからん」

お好み焼きの中身をあげながらスーパーへ向かう。
とりあえず粉もののコーナーで見つけたお好み焼きの粉を手に必要なものを買っていく。
キャベツ、たまご、豚肉。
ヤスが携帯で検索した結果、後は何入れてもよさそうだったからシーフードミックスを買った。

「あ、まっちゃん麺買う?」
「買う。忘れてた」
「俺取ってくるからレジ並んでて」
「はーい」

明日の朝食べるようにいくつかパンをカゴに入れてからレジへ並ぶ。
滑り込みでヤスが中華めんを持ってきて、それも一緒に支払い。

「料理とかいつ以来だろうな」
「俺昨日味噌汁作った」
「まっちゃんの味噌汁はインスタントじゃん」
「立派な料理だ」
「インスタントとコンビニだからそんなに痩せたんだろー?」
「そうか?」
「大1の時より結構痩せたぜー?」

そんなに痩せた気はしないが。
まぁ家には体重計もないしなぁ。
服はどうだっただろう。
余り気にしたことはない。
チャリカゴに荷物を入れて家に向かってこぎ始める。

「たまご割るなよー」
「ヤスが暴れなきゃ割れないだろー」
「ガキじゃねぇから暴れねぇっての」

背中で涼しい涼しい言ってるヤスに俺は暑いなんて言いながら家に戻った。
窓を開けて換気をしながら早目の夕食の準備。
買った材料をリビングのテーブルに並べていく。
狭いキッチンじゃ作業がしにくいのだ。

「まずー、粉入れてー」
「入れた」
「んでたまごと出汁を入れまーす」
「出汁?」

ここでまたPCを起動させて調べて見た。
出汁の取り方とかいろいろ書いてあったが顆粒タイプの出汁のもとを水に溶かせばいいらしい。
いつから使ってないのかわからない和風出汁をとりあえず水に溶かして加える。
ヤスが混ぜてる間にキャベツを切ってもやしを切ってボールの中へ入れた。

「コレさ、シーフードミックスも入れていいのか?」
「いいんじゃね?」
「じゃぁいれるぞー」
「あ、豚肉は?」
「豚肉は焼くんじゃね?」

ホットプレートなんてものはないのでフライパンに油を入れて豚肉を焼く。

「ヤス早く早く!肉焦げる!」
「いきなりかよ!あれっ麺はどうすんの?」
「混ぜてねぇの?」
「まだ混ぜてない!」

急いで麺を混ぜて、それから焦げたであろう肉の上に流し込む。
なんか・・・汚いな・・・。
お好み焼きってこんなんだったかな・・・。

「お好み焼きってこんなんだった?」
「今俺も思っていたところだ」
「どうやってひっくり返す?」
「フライ返し?」
「ひっくり返る?」

大きめのフライパンになみなみのお好み焼き。
ひっくり返るのか・・・?

「とりあえずやってみようぜ。ヤスがひっくり返す?」
「やだよ!まっちゃんやってよ!俺フライパン持っとくから!」
「崩れたら文句言うだろ!」
「言わねぇって!」
「絶対だからな!」

ヤスがフライパンを持って、俺がフライ返しと箸でお好み焼きをひっくり返す。
あ、半分に折れ曲がった。
どうしようもないので半分に切ってずるずるずらしていく。
ヤスがフライパンをガタガタ言わせて、俺がそれに合わせてお好み焼きをずらすとなんとかひっくり返った。
・・・真黒だけど。

「表面真黒で中ぐずぐず・・・」
「ソース掛けたら見えないって」
「あとどれぐらい焼くんだ?」
「箸ぶっ刺して何もつかなかったらいいんじゃね?」

しばらくそのまま放置して両面真黒になった頃にようやく中まで焼けた。
ヤスがソースをかけて俺がマヨネーズをかけてなんとなく見た目はお好み焼きだ。
箸と飲み物を用意してお好み焼きに箸を運ぶ。
口に運ぶまでの勇気はイマイチでない。

「食べて見ろって」
「まっちゃん先に食べてよ」
「じゃぁあーんってしてやるから」
「ずるいだろ!」

お互いの口に無理矢理お好み焼きをねじ込む。
口の周りはソースまみれだ。

「ジャリジャリしない?」
「そもそもソースの味しかしない」
「ソース退けてみようぜ」

ソースを落としてお好み焼きを再度口に運ぶ。
試すんじゃなかった。

「うわぁ・・・不味い・・・」
「飲み込めない・・・」
「麺がねちゃってするんだけど・・・」
「シーフード焼けてなくねぇ?」

何が悪かったんだろうか。
料理経験がない俺らじゃそのフィードバックすらできない。
2人とも箸は完全に置いてしまって、目の前の見た目だけはお好み焼きの何かは全く減らない。

「ねぇ・・・何か買いに行かない?」
「そうだな・・・」

財布と携帯を手にまた外へ出る。
無駄な出費だったな・・・。

「今度はもっと簡単なのに挑戦しようぜ」
「カレーとか焼きそばあたり?」
「そうだな。あと混ぜるだけでできるレトルト系を探そうぜ」

コンビニは近いから今度は歩いていけばいいかな。

「あっ!まっちゃん!」

家を出て少し、そこでヤスではない誰かの声がかけられた。
ヤスと2人で振り返るとタクシーとそれから誰か。
キャリーバックを取り出して運転手に頭を下げている。

「誰?」
「さぁ?大学の奴だと思うんだけど」

薄暗い中、電灯の下に見えた髪は金色と茶色が混ざってた。
誰だろ。
早川あたりが髪染めたのか?
あ、本郷も髪金髪だったかな?

「まっちゃーん!久しぶりー!」

手を振りながら俺の方へ走ってくる人。
俺はそいつを知っている、気がする。
って言うか知っている。
もうずっと前に忘れていたはずの顔の面影がある。

「会社が休みくれたからね、それでおばちゃんに聞いて来ちゃったー!」

ジュニアだ。
ガチでジュニアだ。

「うわあああああぁぁぁ!!!」
「ま、まっちゃん?!」
「あれっまっちゃんじゃない?まっちゃんですかー?待ってー!」

俺はヤスもジュニアもその場に放置して走って逃げた。




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