どうして恋なんかしたんだ

恋はウイルスと同じだ。
知らぬ間に自分の身体に根を張り知らぬ間に増え続ける。
目に相手が映る度、手が相手に触れる度にわんさか繁殖する。
唇が触れたときには爆発的に。
そして気付いた時にはもう手遅れ、ご愁傷様。



小さな田舎で、蝉がうるさい8月。
しかも夏期講習なんて面倒なものに参加した高校3年の夏だ。
ようやく塾の講義が終わって鞄にテキストを詰め込んでいると目の前に見知った顔が降ってきた。

「まっちゃん、模試結果どうだった?」
「じゃーん。A判定」
「すげー!国立だろ?!まっちゃん頭いいもんな!」
「アサは?」
「聞くなよ」
「見せろよ!俺見せたじゃん!」
「あっばか!」

ピラリと宙を舞う模試結果。
それはそれは悲惨な結果、E判定。

「やっぱり俺は勉強向いてないから農家になる」
「農家の人に失礼だろ。お前より絶対頭いいぞ」
「まっちゃん失礼だな!」
「いや、お前が失礼だから」

鞄を手に教室を出る。
特AクラスとCクラスは終わってるから後はAクラスとBクラスの奴を待って帰るのが日常だ。
ちなみにまっちゃんこと俺が特Aクラス、アサがCクラス。
クラス分けは言わずもがな、成績のいい順だ。
アサは馬鹿だけどすげぇいい奴だ。
野球で甲子園に行くと意気込んだ夏の大会。
あっさり1回戦負けして今は同じ塾の夏期講習に通ってる。
保育園から一緒で大学も一緒だったら神とか言ってたけどこの成績の差はもう埋まらないな。

「ヨネとはーちゃんは終わったって」
「Aクラスは?」
「ジュニアからはまだメールない」
「アイス食って帰ろうよ。31行きたい」
「この間も31行ったじゃん。俺ミスドがいい」

チャリ鍵外してチャリに乗ってぐったり。
鞄を前カゴにぶっ込んで残りの面子を待つ。
携帯を開けばメールが1件来てた。

「あ、ジュニアも終わったって」
「即返信!」
「外で待ってる、と」
「つかジュニアってまっちゃんに懐いてるよな」
「学校同じクラスだからじゃん?」
「初めて会った時にはツンツンしてたよな!マジこんな田舎にハーフとかウケた!」
「俺不良だと思った!」

ジュニアは高校2年の時に転校して来た奴だ。
ハーフで髪の色が茶と金が混じってるんだけど黒髪以外は不良なこの田舎。
それなのに学ランは詰め襟までぴったり閉めてるからなんだコイツって言うのが第一印象。
今はそんな誤解も解けて仲良くしてる。

「あっヨネー!はーちゃーん!」
「いたいた!どこ寄る?マック?」
「31!」
「ミスド!」
「お前等バラバラだな。俺はミスドに1票」
「ヨネアイス好きだろ?!」
「でも腹減ったから甘いものくくりでミスド」

クールなのがヨネ、コイツは中学から一緒。
クールな顔してむっつりだからヨネの家にはAVがいっぱいだ。
大人しい黒フレームのクールな眼鏡をかけてるテキスト通りのむっつりだ。
ンで落ち着きないのがはーちゃん。
アサと同じ野球部に入ってて、アサと違うのははーちゃんは試合に出たことがないということ。
理由はただの運動音痴だ。
でも部活が好きだから負けたらアサよりもスタンドで泣く。
見た目の軽薄さに比べて熱い奴だ。

「ジュニアまだ?」
「さっきメール来た。正面移動しようぜ」
「今日誰がジュニア乗せる?」
「じゃん負けでよくない?はい、じゃんけんぽん!」
「げっ」
「今日はヨネなー」
「俺体力ないのに・・・」
「オナニーしかしてないからだー」
「いや、オナニーもなかなか体力使うよ?」
「やめろ、元野球部。下品」

アサとはーちゃんはそーゆーネタすぐ乗っかるからなぁ。
ヨネがむっつりだからそーゆー話になるんだけど。
正面に回ればちょうどジュニアが外に出てきた。

「ジュニアー!」
「ミスド行くぞー!」
「決定かよ!」
「ミスドー!あっまっちゃん!あのね、まっちゃんっ俺ね」

ジュニアはこちらへ走って来て俺のチャリの後ろにそのまま座る。

「今日の模試結果なんだけどねっ」
「ちょ、ジュニア・・・今日ジュニア当番ヨネなんだけど」
「あっマジで?!ごめん!」
「さ、行くぞー」
「あー!ヨネずるいぞ!」

結局俺はジュニアを乗せてミスドまで行く羽目になった。
地味な坂道はツラいし太ももパンパンになる。

「ジュニアさぁ、チャリ乗る練習しろって」
「高校まで乗らなかったらこの先乗ることないじゃん」
「いや、あるね!買い物とか通勤とか!」
「俺はバイクの免許取る!」

ジュニアを乗せて少し拓けた街っぽいとこへ。
汗だくになってようやく目当てのミスドに到着。
ヨネに注文任せて、他は席取りだ。
この時間帯は塾帰りの奴がたくさんいるからなぁ。

「そういやジュニア何か言いたそうだったけど何?」
「そう、そうだよ!まっちゃん!」
「声でかいよ」
「見てよ、コレ!まっちゃんと同じ大学!B判定でたぁ!」
「ジュニアすげぇ!」

頑張ったジュニアの頭をわしわしとみんなで撫でてやる。
白い肌をピンク色に染めて喜んでた。
注文終わって帰って来たヨネも何がなんだか分からないけどとりあえずジュニアを撫で回した。

「で、何の話?」
「ジュニアがまっちゃんと同じ大学がB判定だったんだよ」
「そらすげぇな」
「まっちゃんは?まっちゃん何判定?」
「A判定」
「嫌味な奴!俺E判定だったのに!」
「いやいや、アサがまっちゃんと同じ大学は夢見過ぎでしょ」

赤点以外を見たことないようなアサが俺と同じ大学は絶対無理だ。
潔く諦めて自分に見合った大学に行ってほしい。
大学に落ちて1人浪人する幼馴染を慰めるなんてイベントは発生しないでほしい。

「俺はまっちゃんと同じ大学に行きたいのに・・・」
「俺はそろそろお前と離れたい」
「えー!まっちゃんは俺嫌いなの?俺まっちゃん好きなのにぃ」
「ホモか」
「わからん。今度まっちゃんでヌいてみる」
「やめろ!マジで!」
「じゃあとりあえずちゅーしてみていい?」
「何がとりあえずだ!」

襲いかかってくるアサを腕でガード。
何コイツキモいんだけど!

「ちょっマジウザいっ!ジュニア、助けて!」
「はっ?!」
「隙ありっ!」

ぶちゅっ

「あ・・・」
「写メ撮ろう」

カシャッ

「つか早くアサ離れろよ」
「まっちゃんとジュニアが窒息するよ」
「あー、悪い悪い」

アサに押されて汚い音を立ててぶつかったのは俺とジュニアの唇。
ジュニアのピンク色の顔は真っ赤に変わってて、俺の顔は逆に真っ青。
半開きのジュニアの口にフレンチ・クルーラーを押し込んでやった。
そして俺は鞄を手に席を立ち上がった。

「うわああああぁぁぁ!!!」
「ちょっまっちゃん!」
「お前どこ行くんだよ!」
「お客様!お静かに!」

俺は逃げるようにミスドから出てチャリでどこまでもどこまでも走る。
あたりが真っ暗になるまで走りに走った。
唇からジュニアの感触が消えなくて、いつもジュニアを乗せていた後ろが気になって。
それから俺は恋に侵されていた事に気付いた。
ガシャンと自転車は音を立てて地面に転がって、俺はアスファルトに頭をぶつけた。
頭を何度もぶつけたのにジュニアの真っ赤な顔が頭から離れなくて俺はおかしくなりそうだった。

「消えろっ消えろっ・・・!」

頭からジュニアが離れない。
ジュニアのことを考えたら心臓が爆発する。
これがいけない事だってことぐらい俺はわかっている。
一般論じゃ男同士がタブーなのも男同士じゃ報われないことも何もかも俺はわかっている。

「ジュニアっ・・・!ジュニアっ・・・!消えろ、消えてくれ!ジュニアっ!」

死んでしまいたい。
こんなに好きだったなんて、こんなに苦しいなんて。
いつからだ?
いつから、いつからだった?
俺は女の子の胸やお尻に興味はないのか?
ヨネの家でAV見て平気でいられたのはなんでだ?
俺はジュニアをどういう目で見てた?
ジュニアには俺と同じものが付いてるのに。
男同士なんてタブーで不毛なのに。

「どうして恋なんかしたんだ・・・!」

俺は思いっ切りアスファルトに頭をぶつけた。
遠くなる意識に安堵して、沢山の星を見上げながら俺は目を閉じた。



翌日早朝、顔面血まみれで発見された俺は救急車で病院へ搬送されることになる。




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