Oh!MyLord-2

Oh!MyLord



目を開けたら目の前は真っ白だった。
やった、死ねた。
これで鷹は俺のだ。
寂しくなんかないし辛くもない。
だって鷹が手に入った。
たった1億、俺の命1つで鷹が売春しないんだから俺は幸せだ。
鷹は知らないんだ。
鷹が初めて身体を売った時に俺が見てたのも、いつもいつも売春してたホテルの前で待ってたのも。
鷹はお金が欲しかったんだ。
俺は高校生だったから鷹が売春して稼ぐお金よりうんと低いバイト代しかもらえない。
それでもようやくもらえた3万を鷹にあげた。
鷹がヤろうよって言ってくれて、いつも2万で売春してたの知ってたから3万。
俺の精一杯。
喜ぶと思った。
3万あげれば鷹は俺といてくれるって思った。
だから他の男じゃなくて俺のとこに来ないかなって。
でも3万なんて社会人には何てことなかった。
俺が稼いだ3万なんて安すぎたんだ。
鷹は少しも喜ばなかった。
鷹は今でも売春やめない。
だから鷹を買おうと思ったけどフリーターの俺には鷹は高いから買えない。
せめて側にいたくて売春してるとこについていく。
俺の名前はもう呼んでくれない。
俺貧乏だから価値がないんだ。
俺には大金の5万、鷹が買えるまで貯めてもらおうと思ったけど駄目だった。
でも俺死んだから鷹はお金持ちになれた。
だからもう売春しないよね。
好きなものたくさん買えるよ。
鷹がほしがってた車買ってもまだ余るし、マンションも買える。
だからもう知らない人について行ったらいけないよ。
優しい人ばっかりじゃないんだよ。
あぁ、でも未練がないわけじゃないなぁ。
最後に名前呼んでほしかったなぁ。
鷹は綺麗な声で俺の名前呼ぶんだ。
鷹が俺の名前呼ぶだけで世界が明るくなるんだ。
俺は鷹があまりに幸せそうに笑うからそれだけでよかったのに。
なのに俺は鷹を笑わせるだけのユーモアセンスもないし鷹がほしいものも買ってあげられないし鷹が望むセックスだってしてあげられなかった。
俺は駄目だなぁ。
だから名前も呼んでくれなくなったし笑ってもくれなくなった。
だからせめて鷹のために死ねてよかった。
たった俺の命1つ、それで1億。
それで鷹がほしいものも買えるなら笑ってくれるなら幸せでいれるなら、俺は死んでよかった。
目の前が黒に染まってきた。
もしまた目が開いたなら笑ってる鷹が見れたらいいなぁ。
鷹は俺のだよ。
俺の鷹にはいつだって笑っててほしい。

また目の前が白だった。
雲の上かと思って、これをかきわけたら下の世界に行けるんじゃないかって思って手を伸ばしてみた。
でも手が思うように動かないから諦めた。
鷹に会えるかもって思ったのにうまくいかない。
真っ白い世界に黒が滲んだ。
それから黄色。
それを目で追って、なんだかそれが遊んでるみたいだったから笑ってしまった。
おいでおいで、お願いがあるんだ。
俺の鷹を見てきて。
笑ってる鷹を見たいけど俺にはできないんだ。
だから俺の代わりに鷹を見てきて。
ゆっくり笑えば世界が真っ黒と黄色に染まってそれからいきなり明るくなってなんだか幸せだった。
幸せだったんだけどなんか変。

「このっ大馬鹿野郎!」

ぐるんと視界が回転、白い世界に色が入る。
あれ?
ンでまた白い世界になって黒と黄色が混ざる。

「お前何してんの?何で俺に迷惑かけてくれてんの?何様のつもり?」

あぁ声が鷹に似てる。
世界がぐらぐら揺れるけど鷹の声がしてるみたいで俺幸せ。

「笑ってんなよくそったれええぇ!」
「ちょっちょっとあなた何してんですか!」

また世界が白くなるけど声がする。
なんとなくわかったのは死にかけてるけど生きてるってことと鷹が怒ってるってこと。
目の前が白いのはただぼやけて色がわからないからだ。
身体がぐらぐらなのは麻酔で身体が痛くないんだ。
あー最悪だ。
ちゃんと迷惑かけないように相手には悪いけどトラックの前に飛び込んだのに。
絶対保険金もらえるようにしたのに。
俺は駄目な男だなぁ。
鷹にお金あげることも上手く死ぬこともできない。
情けない。
俺はそのまま暗い世界に飛び込んだ。
もう目は覚めなくていい。

覚めなくてよかったのに何度も目が覚めた。
意識がはっきりしてくるとトラック運転してたおっちゃんとか病院先生とか話をしにきた。
でも鷹は来てくれなかった。
何も鷹にあげられなかった俺に用はないんだ。

「ねぇ、先生。俺殺して」
「・・・できませんよ」
「俺死んだら幸せになる人がいるんだ。だから殺して。俺死にたい」
「馬鹿なこと言ってないで視力測りますよ」
「冗談じゃないのに」

足がうまく動けるようになったらまた車道に飛び出そう。
死ぬまで何度でも。

「両目とも相当視力なくなりましたね」
「いいんです、視力ぐらいなくなっても」

鷹がいない世界なんか見えなくていい。
鷹は絶対まだ売春してる。
俺死ねなかったから。
まだ知らない人について行ってる。
危ないよ。
痛いことされたらどうするの?
殴られたらどうするの?
殺されたらどうするの?
ほしいものは後少し我慢して。
俺死ぬから、早く歩けるようになって死ぬから。
だからせめて俺がいないとこで、見てないとこで売春しないで。
鷹が心配なんだ。

目が覚めた時には視界がクリアになっていた。
久々に見るクリアな世界に目が痛い。
目に触れば何かに当たって、それを取れば眼鏡だった。
あぁ、この為の視力検査だったんだ。
眼鏡なんて初めてかけた。
黒縁のオーソドックスな眼鏡。
俺にはいらないって思ってサイドテーブルに眼鏡を置いた。
後少ししたら歩けるよ。
そしたら鷹に1億あげれるよ。
だからそれまで我慢して。
部屋の扉が開いて、看護師さんが来たのかと思ったから袖を捲る。
いつも血圧計測するから。
なのにその看護師さんは俺の頬を叩いた。

「え、痛いんですけど」
「麻酔はとれたらしいな」

その声にびっくりして目を見開く。
目を見開いても何も見えてないんだけど。

「鷹?」
「お前馬鹿だろ」
「ごめんね、次はちゃんと死ぬから、俺死ぬから」

鷹が怒ってる。
俺がちゃんと死ねなかったから。

「俺ちゃんと死ぬよ。そしたら鷹にお金あげる。だから後少し我慢してね、鷹は俺のだよ」
「ふざけんな」
「じゃぁ今死ぬから。駄目だよ、鷹は俺が買うの。1億じゃ足りないの?だったらもっとあげるから、いくらならいい?」

また叩かれた。
あぁ、俺には何の価値もない。

「お前何がしたいわけ?金で俺買って何させるつもりなわけ?お前死ぬんだろ?俺買って何になんの?」
「鷹がお金持ちになる」
「ハァ?」
「俺フリーターだし馬鹿だし貧乏だから、鷹がほしいもの買ってあげられないし何もしてあげられない。だけど鷹は頭いいね、そんな俺でも死ねばお金になる」
「あぁ、そうだな」
「だからそのお金鷹にあげるから鷹は俺のだよ。俺の鷹は笑ってるんだ。寂しそうな顔しないの。ほしいもの買えるよ?もう売春しなくてもほしいものいっぱい買えるよ?だから知らない人について行ったら駄目だよ?鷹が怪我したら俺悲しいもん」
「お前馬鹿にしてんの?」

また頬を叩かれた。

「俺がほしいもののために男とヤってると思ってたわけ?馬鹿なんじゃないの?」
「違うの?」
「ちげーよ。セックスしたいからしてんの。金もらえればラッキーぐらいの気持ちで」
「俺じゃいけないの?」
「お前は嫌」
「は、はは・・・そっか、そうかぁ・・・」

あぁ、俺はホント価値がないなぁ。
もう鷹にできることが思い付かない。

「鷹、俺を殺して」
「ムショぶち込まれんのは嫌だ」
「じゃあ自分で死ぬから俺の名前呼んで、笑って」
「嫌」
「俺ね、もう鷹にしてあげられることがないの。俺面白くないしお金ないしセックス下手だしもう何も思い付かない」

悔しくて悔しくて涙が出た。
もっと頭が良くて面白い人間だったら鷹は笑ってくれたのに。
もっとお金持ちでセックス上手ければ鷹は俺の側にいてくれたのに。

「でも俺鷹にしてもらいたいことはいっぱいあるよ」
「・・・例えば?」
「鷹海行きたいって毎年言うでしょ?鷹海好きだもんね。海は南九州の離島のが綺麗なんだって。綺麗なとこ見つけたからそこで遊んでほしい。あと浴衣で地元のお祭り行ってほしい。浴衣着たいって前言ってたし、地元のお祭りが好きだって言ってたじゃん。あと鷹が好きな犬いるでしょ?あの犬種、予約したんだ。だからその子犬生まれたら一緒に遊んであげて。鷹犬好きでしょ?後はね」
「もういい」
「じゃあ死ぬ前にノートに書いておくから全部して。そしたら俺もう何もいらない」
「お前は俺1人でそれをしろって?」
「それが一番かなぁ。でもでも、鷹が他の誰かとしたいなら、一番好きな人として」

俺が知らない鷹の好きな人。
ホントは自分が隣にいればよかったけど俺には何もできないから。

「ねぇ、お願い。名前呼んで。俺が死んだら笑って、好きな人と幸せになって。セックスだって好きな人としたほうがいいよ。鷹は俺とは違うからきっと好きになってもらえるよ」
「お前馬鹿なんじゃないの?」
「馬鹿だよ。馬鹿だけど鷹のために何かしてあげたかったんだ。でも鷹の好きな人の代わりどころかパトロンにもなれなかったね」

また鷹に頬を叩かれて外した眼鏡をはめられる。
クリアな世界には久々に見る鷹がクリアに映ってる。
でも鷹は笑ってなくて泣いてた。

「鷹、どうしたの?どこか痛い?駄目だよ、無理したらいけないよ」

コールをしようとしたらその手も叩かれてお腹に鷹が落ちてくる。
近くに積まれたタオルを取って鷹の顔を拭いてあげる。

「鷹、鷹、どうしたの?泣かないで、泣いてる鷹は見たくないよ」
「お前なんで覚えてんの?海も浴衣も祭りも犬も好きな人ってのも全部高校の時の話だろ」
「全部覚えてるよ、鷹の話は全部覚えてる。今だから言うけど、鷹が売春始めた日も全部知ってる」
「・・・なんで知ってんの?」
「見てたから、全部。知らない人についてくから心配で、でも馬鹿だからどうしたらいいかわからなかったんだ」

鷹はしばらくシーツを握り締めて泣いた。
触っていいのかわからなくて、ただただ泣きやむのを待っていた。
俺は馬鹿だから鷹に聞かないとしていいこととしちゃいけないことがわからないから。
ようやく泣き止んだ鷹は俺のお腹に頭を乗せたまま俺を見てる。

「やっぱ名前は呼んでやらん」
「そっか」
「でも俺にしてほしいことはノートに書いてろ。好きな奴とやるから」
「うん、たくさん書いておくね」
「それから早く退院しろ」
「うん、退院したら死ぬね」
「そーゆーことじゃない」

また頬を叩かれた。
叩かれすぎてじんじんする。
明日腫れるかも。
でも鷹にのせいで腫れるんだから、別にいい。
鷹の手形に腫れないかな。
そしたら鷹が側にいるみたいで鷹がいなくても寂しくない。

「俺の好きな奴とやるいっただろ。だからお前が死んだらできないんだ」
「俺は別に見たいわけじゃないよ。鷹が幸せならいい」
「お前ホント馬鹿な」
「ごめん」
「俺お前が好きだったの。で、今お前がまだ好きだって思ったの」

俺死んだんだって思った。
でも鷹に叩かれた頬はまだじんじんしてる。

「お前は違うわけ?」
「ううん、違わない。俺鷹好きだもん」

あぁ、夢なら醒めないで。
死んだならそのままで。
生きているなら、生きているなら、時間よ止まれ。
鷹が俺を見て笑ってるんだ。




※無断転載、二次配布厳禁
この小説の著作権は高橋にあり、著作権放棄をしておりません。
キリリク作品のみ、キリリク獲得者様の持ち帰りを許可しております。
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -