>> ふたつの果実 前






もしもあの時の選択が異なっていたならば。そんな、パラレル世界ってもんがこの世にはある。けれどもそれらは干渉してはならぬものだ。まるで楽園の林檎のように食らってはならぬものなのだ。そうは言ってもパラレルはパラレル、オレ達はその世界で生きることなど出来やしない。平行は平行であり、交わることなど永遠にない。覗き見ることさえも叶わぬのだ。まぁ、本来は、という話だが。




「起きろってばよ!」
「……あ?」




オレが寝たのは夜明け前だった。今日は七班の任務もないから、昼前までは寝られるはずだったのだ。それが聞き覚えのある声に起こされたのだから、オレの機嫌が悪くなるのも当然だった。その声を無視してから気付く。今の声は、オレの声だ。それにこのチャクラも多分オレのものだ。はっきりとしないことに違和感があるが、オレは今度こそ目を開けた。




「…何解印なんか結んでんだってば!」
「…いや、そこは消えるべきだろ。何で消えねぇんだよオレの影のくせに」
「影分身なんかじゃないってばよ!オレはオレ!うずまきナルトっつー忍だってば!つーかオマエこそ何だってば?何かオレとチャクラは似てる気がするけど…?」
「…オレがうずまきナルトだ。チャクラも練ってねーところを見ると、オレも、っつー表現が正確か?」
「はあ?」
「だから、オマエもうずまきナルト、オレもうずまきナルト。いわゆる別世界に生きる同一人物だな」
「?よく意味わかんねーけど、オレとオマエは同じってことか?」
「…ああ、不本意なことに恐らくな」




可能性がないわけではない。四代目の時空間忍術にかなり改良を加えればパラレル世界への移動も理論上は可能だ。しかし術者への負担の大きさと、パラレル世界への影響を考慮して、オレも断念した。けれど、例えばどこかの世界の誰かがそれを完成させて用いたのだとすれば、この現象を一気に説明出来る。術者と入れ替わりで、この世界へと飛んできた。要は、この“うずまきナルト”は元の世界から弾かれたのだ。つくづくオレというのは、輪から弾かれるらしい。




「じゃあこの世界にはサクラちゃんとかサスケのヤローとかも居んのか?」
「一応な。オマエの知っているヤツらとは違う可能性も否定出来ないが」
「…じゃあ、カカシ先生も…?」
「…ああ、一応、な」




そう言うと、ナルト少しだけ傷付いたように肩をピクリと揺らした。あんなにも元気だったコイツを萎びさせたのは何なのだろう。いや、コイツとオレの根本が同一だと仮定するならば解などはとうに決まっているのだ。容易に想像がつく。はたけカカシだ。この場にいないくせに、こんなにもあの男はオレと“ナルト”の心を乱してゆく。罪作りな色男だ。




オレと“ナルト”は結局じっちゃんの所に出向いた。出向いたからといって何が変わるというわけではないが、あの気のよい老人に沈黙しているのはよくないと思ったのだ。するとそこには何でか知らないがカカシがいて、オレと“ナルト”を見て僅かに瞠目した。中々いい反応だ。




「カカシせんせーっ!」
「うわ、え、どーしたのよ。影分身?」
「ちげーよ、どっちも本体だ」
「…分裂とか?」
「…時折オマエは本当に忍なのかと疑念を抱くことがあるよ。…まぁあれだ、あの、オレが途中で止めた時空間忍術をどっかで使ったヤツがいる。その影響がコレだ」




コレって何だってば!とキッとこちらを睨むナルトをやれやれとカカシが宥める。そこにオレは小さな疎外感を感じた。これが正常なんじゃないか。オレは不自然なんじゃないか。別に、異端で構わないと思っていた。生まれ出でた時から既に異端であったのだから。けれども最近、感化されたのだと思う。サクラは年相応の恋する可愛い少女だし、サスケも多少大人びていやするがまだまだ可愛いモンだ。まだ人も殺したことがないのだから。それが日常と成り下がっているオレは多分、変なのだろう。周囲の子供が夢見て飛び立つ姿を地に這い眺めることしか出来ない、血塗れの、オレ。




「…風花(かざはな)、心を乱すな」
「っ…分かってるよ。いかなる時も常に平常心であれ、だろ」
「分かってるなら、気を付けな。オマエは忍だ」
「…まぁカカシ、そう言うな。まだ子供じゃ」
「この子は里を担う子供です。強くなくてはならない。見下げられるようなことがあってはならないんです、火影様」




真剣な目をして、カカシが言う。足元で“ナルト”が怯えていたが、それを口には出来なかった。もしかしたら、オレもあんな表情でこの男を見ているのかもしれなかった。この男の空気は鋭く痛い。これが混沌としていた暗部を一人で束ね上げた男の空気だった。




「…なぁ、思うんだけど、コイツの戻り方って分かんないわけじゃん?だったらさ、オレ、ずっと暗部任務出来んじゃね?」
「いや、しかしな、オマエも同じ年頃の者と関係を築かねばならんだろう」
「んなこと言ってもじっちゃん、オレが夜こなせる量にも限りがあるわけでさ、しかもこの里人手不足だしさ、一石二鳥だろ」




な?と“ナルト”に首を傾げてみせれば、何だかよく分かっていないような顔で頷いた。カカシは、眉を寄せただけで、何も言わなかった。




 




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