>> 殺人的衝動





こうして目を開いた先にオマエがいるならば、オレはそれでいいのだと思う。オマエがここに居さえすれば、オレは何を捨てたとしても構いはしない。




「…カカシ、どこに行ってたんだ」
「ん?…ああ、アカデミーに用事があってね」
「…そうか」




オレはこうしてカカシの行き先を一々確かめるようになった。女々しいことであるとは思うが、どうにも聞かずにはいられない。もしもカカシが他の女の元に行ってしまうのだとしたら、と考えるととても恐ろしいのだ。それをどうやらカカシも分かっているのだろう。必ずオレの問いに答えてくれる。そこがカカシの優しさだった。ヤツからは言葉をくれないが、オレが欲すればどんな言葉も与えてくれる。オレには無いそんな優しさを、オレは好きになったのかもしれない。




「…今日は少し遅くなるかもしれないから、先に寝てていいよ」
「…何で」
「…飲みだよ。年度末だからね」




少しオレは目を細めた。飲み会ということは必然的に酒を飲む。酒の席では女というのは実に大胆だ。そしてこの男を狙う輩は多く、どうにもアプローチが絶えない。酒のせいにしてでも既成事実を作って、丸め込もうとするのだろう。オレは未だ未成年だから、公の酒の席には座れない。だからカカシがそのまま相手と寝ていようがいまいが、オレはその事実を知ることは出来ないのだ。故にオレは酒が嫌いだった。オレの飲むことの許されない酒が。




「勝手に行けば」
「…うん、ごめん」
「別に。オレ、夜は忍務あるし」
「…そう。ごめんね」




嘘だ、忍務なんて無い。きっとカカシもそれを分かっているからこその謝罪。独りの時間は好きだけれど、不安を抱えた夜は嫌いだ。どうにも憂鬱になって仕方ない。それを、カカシは知っている。それがとても悔しくてオレの返答は無愛想になり、顔も合わせぬままに部屋を沈黙が覆った。




行ってくるよ。確かカカシが家を出る前に言ったのが最後だったと思う。オレは何もすることがなかったので、クナイを片手に寝ることにした。これは忍の世界で生きるが故の癖であり、今更物騒だとも思えなかった。これを言うと、カカシは困ったように笑うのだけれど。ソファで体を丸めていれば今までの疲れが襲いかかって、持ってきていたカカシの毛布にくるまって眠った。カカシの匂いに安心したというのも、熟睡した要因の一つであったのだと思う。




「…ナルト?寝てる?」
「…ああ、カカシ。帰ってたのか」
「ごめん、起こしたね」




頬を掻きながらカカシはオレの金髪を撫でた。仄かに香水の香りがしたが酒の匂いも相まって大して気にならなかった。それは忍者としては致命的な欠陥かもしれないが。時折こうしてふと目覚めた時にカカシがいることに安堵する。大丈夫、この男はまだ、オレの隣にいる。それがオレの精神の安定のための必要不可欠な要素で、それだけがオレの身の内に飼う獣を沈黙させている。この男がいなくなればオレは、たちまち妖狐に食い破られてしまうだろう。大丈夫、この男がいる限りオレの愛するこの里は安全だ。




「…で、どうだった」
「…新参の上忍くの一に酒を注がれたよ。この香水はその人の」
「…ふぅん。オマエのタイプ?殺していいかな?」
「…だぁめ。ただでさえ人手が足りないんだから」




第一、オマエが殺さなきゃいけない相手じゃないよ。そうオレを笑って諭すカカシの余裕が、神経を逆撫でる。この男はオレの決意に気付いちゃいない。カカシがオレを捨ててその女を取るというならば、本当にオレはその女を殺すのに。どんな凄惨な方法を用いてでも殺すのに。どうしてそれを分かってくれないのだろう。コイツが優しいから?オレが異常だから?




この男がオレの隣にいるというならばオレは手段をも厭わない。忍としての本分も、良心ですら捨ててもよいのだ。例えそれがこの里中の女を殺して回るようだとしても。オレはこの男が傍にいるためならばこの両の手を同胞(はらから)の血に染めようとも、一向に構わないのだ。






 




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