>> 始まりは終焉の幕開け





幼馴染みに淡い恋心を抱いたのは何時だっただろう。そして失恋した日も。待っていた同い年の恋人は少女から魅惑的な女性へと変化した。毒々しい紅い唇、刺激的な僅かに覗く胸の谷間。媚びる様な上目遣いは何処で覚えたのだろう。俺の知っていた清楚で可憐な少女は何処かへ逃げてしまった。紅茶を啜るストローの先を仄かに紅く色付かせている目の前の女を、俺は知らない。目眩がした。冷たいコーヒーを飲む手が汗ばんでゆくのが分かる。燃える恒星の所為だけではない。




俺は全く、この女に対し性欲が湧かなかった。




開けた胸元に寧ろ不快感さえ募った。紅い唇が重なれば自分があの色に染まりそうで怖かった。俺は一方的に失恋したのだ。




俺が再び恋をしたのは何時だっただろう。黒い影が俺を覆った。ビルの屋上に居る俺の上に影を作る物は、一切無い筈だった。馬鹿にした様な、後ろから聞こえる声には、酷く聞き憶えがある。




「…名探偵、自殺する気?もしかして」




俺と似た、しかし少しばかり低いその声にゆっくりと振り向けば、口だけ器用に笑みの形をしている男が居た。“キッド”。そう呼べば、男は軽快に笑った。心臓が、少しだけ跳ねる。




「…“世紀の名探偵が自殺!”ってのは冷める見出しだと思わねェ?」




そう言ってまた男は笑った。覆う純白が目に痛い。月光を背にする白い男が幻夢の様に見えた。近寄って来る硬い足音に後退ろうとすれば、カシャンと背にあったフェンスが無機質な音を立てた。尚も近寄る男の意図が読めない。1mの距離で男が不意に立ち止まる。月光は男の顔を隠し、対称的に醜い俺を煌々と照らす。太陽が無ければこの様に気を許せば歪みそうな俺の顔を男に晒さずともよかったのに。俺の立つ地面の真逆にあるであろう太陽が恨めしかった。男は、静かに言った。




「…俺を追っかけ回しといて先に死ぬのは、許さねェよ、」




俺を鋭い瞳で射抜いた男の顔は酷く真剣だった。その表情に今度こそ俺の心臓の鼓動は速まった。目眩がした。この男が欲しかった。この男の胸に飛び込みたかった。同時にその日俺は世を上手く生きる術を失った。




 


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