>> UNKNOWN 04





「・・・何で?」





今日は実に一ヶ月ぶり位の犯行日だったというのにあの名探偵は現れなかった。まぁ、現場に来なかったのはいい。別にそれはいつもの事だ。が、態々最近は毛利探偵事務所に届けると面倒なことになるから、と亜笠邸へと別に予告状を届けているというのに来ない、というのは些か非礼ではないだろうか。一般常識的に。





「・・・てか俺、いつまで待つつもりなんだろ」





かれこれ一時間近く待っている。いい加減寒い。春だとは言え、夜は未だ肌寒いのだから。帰ろうと思うのだが、あともう少し、あともう少しと思いながら指折り数えてみれば既に十以上数えていた。宛ても無いのに待ち惚け。何と滑稽な響きだろうか。目下数十メートルから響く下卑た笑い声が、自分を嗤っているかのようで、不快だった。





「・・・このまま朝まで待ってそうだよな・・・」





この時間が無駄だという自覚はある。明日は学校で、その次の日も学校だ。こうやって夜風に当たり凍えているよりも睡眠を摂る方が有意義であると言えるだろう。だがそれでも、フェンスの上から動く気にはなれなかった。





トントンと小気味いい音が背にした扉の方から聞こえた。少しばかり軽いこの足音は子供のものだ。そしてこんな真夜中にビルの屋上に上がってくる子供などそういない。淡い期待と軽い諦めとが入り混じった自分でもよく表現の出来ない感情のまま全神経を背中に向けた。勢い良く開くであろう扉、自分を呼ぶだろう少年の通る声、鋭く青い瞳。全てが頭を巡り、融かしてゆく。





「キッド!まだいるかっ!?」





予想通りの扉、声、瞳。何故だか安堵さえ覚えた。声の必死さに少しばかり愉快になった。待っていてよかったとも思った。口元が笑みを象る。何故。何故だ。この感情は、何だ。





「・・・そんなに慌ててどうかなさったんですか?」





殊更、不思議だ、という声を少年に向けた。言葉の割に笑みを浮かべているのを、俺の背だけが見える位置にいる少年は知る由もない。少しばかり強い風にマントが揺らされたのを機に、俺は少年の方へと振り返った。今では俺の背に有る月に目を細めた少年の激しい肩の動きが数メートル離れたこの位置からでも視認出来た。笑めば子供の瞳は大きく見開かれる事を知っている。少年の反応はいつでも俺を楽しませる。




「・・・まだ、居るとは思わなかったぜ。・・・律義なヤローだな、オメーも」





息継ぎによって途切れる言葉、挑発的な視線、笑みの形をした唇。全ては自分が求めたもので、ビルの屋上という狭い空間内では俺だけのものだ。アイロニーを叫ぶのはもうやめよう。独り叫ぶよりも変える努力をしようではないか。現実世界に背を向けるのは終わりにしよう。そそり立つ壁を乗り越えてやろうではないか。その向こうに、君が居るというのならば。いつでも俺は壊しに行くよ。君の所為だ。君と出会わなければ、取るに足らぬ壁など放っておいたのに。君の所為でアイロニーを叫んでいた俺の唇は、皮肉屋を廃業して笑っているだけだ。




 


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