>> UNKNOWN 02





俺は今宵もビッグジュエルを翳しながら待っていた。俺の待ち人は2人。1人目は言わずと知れた緋色の女王、禁忌の箱を開けたパンドラ。そして2人目は、つれない小綺麗な顔をした探偵、江戸川コナン。ビルの屋上は春とはいえ未だ寒い。寒さに身を震わせながら月に翳した大きなサファイアの中に1人目の待ち人は不在だった。どれ程待ちわび、追いかけたところで彼女は鬼ごっこを楽しむかの如くちらりともその姿を見せはしない。落胆の溜め息はこれで幾度目であろうか。





「…辛気臭ェ面だな、オイ」





鉄扉が音を立つてて開いた。視線の先には、2人目の待ち人。存在さえ危うい、裏の人間。工藤の家系にも、藤峰の家系にも、江戸川などという姓は存在しなかった。つまりは工藤新一の親戚という情報は嘘だ、ということになる。居候先が工藤新一と関わりがあるとはいえ、工藤新一、ひいては工藤家との関わりを態々偽装する必要は無い。第一、工藤夫妻に否定されてしまえば一巻の終わりだ。何故そのようなリスクを負ってまで偽の情報を流すのか。工藤新一という探偵のルートから探ろうとしたが、ある一点を叩いた所、PCを一台駄目にした。裏ルート通過のPCは足がつきにくいだろうと踏み、それは念の為解体し、使えるパーツだけ売っ払った。そこで俺は確信した。この少年はイレギュラーだ、と。





「…今晩は、名探偵。これは持ち主に返しておいて下さい」





そう言って放った石ころは少年の持つ純白のハンカチの方へと美しい放物線を描きながら吸い込まれる様に落ちた。少年はそれをポケットへと入れると、こちらを向いた。少年の青い瞳はギラリと妖し気に煌めき、外見と内面の相異という異様な様を更に際立たせた。喉が水分を求め、ヒリヒリと痛む。しかしそれすら意識の外に追いやらんとするその眼差しは、今まで覚えたことがない程の高揚感を齋した。





「…オメー、盗めねェモンはあるか?」





笑みを象る口元とは裏腹にその青い目は殊の他真剣味を帯ていた。表情を見ないままに聞いたその科白は嫌味かと思ったが、そうでもない様だった。益々何を考えているのか分からない。探求心が尽きることなど到底ありそうもなかった。





「…さぁ?…それでも私は、欲しいと思ったモノは必ず手に入れます」





そしてそれを壊れるまで手元に置いておくのだ。誰にも触れさせず、手に入れたモノか、俺が終焉を迎えるその日まで。





何処かに破いて棄ててきたはずのパトスが何時の間にか形を変え、俺を追って来たようだった。





少年に“執着”という新しい名と役割を与えられて。




 


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