>> UNKNOWN 01





「待ちやがれ、バ怪盗…!」



少年が叫んだ。その少年の名は、江戸川コナンといった。突如表の世界へと姿を現した異端の者。経歴を調べようにも、何処のデータベースにも彼の名は見当たらない。UNKNOWN。誰も知らない。何も知らない。名探偵工藤新一と入れ替わる様にして現れた慧眼の持ち主。大人びた口調、大人びた表情。おおよそ小学1年生とは思えないその少年は何なのか。探る思考は止まらない。警鐘が鳴り響く。





「…名探偵、この宝石、返しておいて頂けますか?」





言い終わる前に自分にとっては既に唯の石ころ同然の時価数億とも言われるビッグジュエルを少年に投げて寄越した。慣れた様子で、ポケットからハンカチを取り出し受け取る姿は最早恒例で、出会った頃の俺を捕まえると意気込んでいた少年の姿は形を潜めており、今やこの時間は娯楽でしかない。それだけが俺達を繋ぐ唯一の糸だった。





「…俺はオメーの使いっ走りじゃねーんだがな」





ほら、また。大人びた表情で、笑う。眉を寄せて、目は無表情で、口元だけが笑っている奇妙な顔。視界にちらつく白いマントが酷く気になる。目を逸らせば暗闇に融けてしまいそうな華奢な体躯が纏うのは俺と正反対の黒。この夜の中で保護色となり得る色を纏いながら毅然として立っている。異常なパラドクスは人間を魅了するには十分だ。





「…そういって、貴方は何時も届けてくれるでしょう」





お人よしなのはお前の方だよ。そう言いかけた言葉を音も無く飲み込み、少年を見つめる。距離は5メートル。お得意のサッカーボールを蹴られても、避けられるか分からない距離だ。それでも俺は、この少年がボールを蹴ることが出来ないことを知っている。





「…バーロ。犯行現場に偶然居合わせた人間の義務だよ」





そう言って少年は再度笑った。偶然という割には毎度の如く中継地点に現われるこの少年のことを、俺は何一つ知らない。少年も俺のことを何一つ知らない。フェアという名のアンフェア。俺達が互いに知らなければ同じ舞台には立てない。既に俺は、少年の周囲よりも劣った立場に居るのだから。カシャン、と無機質な金属音がする。少年が檻の様に周囲を囲うフェンスに体躯を預けた。黒い髪が春の風に靡く。





「…けれど、この時間をいかに有意義に過ごすかは俺の自由であり、俺の権利だ」





様々な思惑を孕んだ少年の憎らしい笑みを背後にある月が照らした。警報が鳴り響く。探る思考は未だ続いていたが最早大した意味は成さない。UNKNOWN。君は、何を考えている?




 


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