「いやあ、まさか一番気合入ってたナマエちゃんがビリだなんて」
ニヤニヤと笑う犬飼にナマエは唇を尖らせる。
「だって!ボーリングしたの初めてなんです!」
「初めてなのにボーリングで二宮さんに勝つって言い切ってた頃が面白いよね」
「う・・・。私の初めてがこんな風に二宮さんに奪われてしまうなんて・・・」
「ちょっ。ナマエちゃん!その言い方は語弊があるから」
「ミョウジさんの、初めて・・・」
チラリと後ろを見れば氷見の横に並びながらもこちらに耳を傾けていたらしい辻の射殺さんばかりの鋭い目つきが視界に入る。もちろんその全ては堂々と先頭を歩く二宮に向けられているが振り向かない二宮は気づかない。
「ここだ。入れ」
「わぁ!ここ私が行きたかったところ!」
ボーリングを終え、解散かと思いきや着いてこいと二宮は歩き出した。たどり着いたのはいかにも女の子が好きそうなカフェでナマエと氷見はキラキラと瞳を輝かせていた。犬飼はそれとなくナマエを辻の横に移動させ、自分は二宮の横に座る。
「私はマンゴーパフェにします!」
「私はこのヨーグルトで」
メニューを見ることもなく決めたナマエと氷見は、男三人にメニューを渡す。
「コーヒー」
こちらもメニューに目を通すことなく決め、どこからか取り出した本を読み出した。豊富なメニューに心躍らせている様子の辻に少しほっとしながら犬飼も自分が頼むものを決める。
「雑誌で見た時も思ったけどやっぱりどれも美味しそうですね!」
辻の横からメニューを覗き見ながらナマエは機嫌良さそうに笑う。
「今日は食べたいもの決めちゃってたけどまた来てみようかなー」
「俺と一緒に行こう」
辻は間髪を容れずに誘う。自分もナマエと一緒に行きたいと思う氷見だったが、ここはグッと堪えた。
「それにしても二宮さんここのカフェ知ってたんですね」
「お前らが行きたいと言っていたからな。・・・お前の誕生日祝いだ」
「え!二宮さん知ってたんですか!?」
「ボーダーサイトのプロフィールに書いてあるだろ」
三人はピシリと固まる。ボーダーのプロフィールなんて隊員自身そうそう見るものではない。
「ナマエちゃんの誕生日って・・・」
「昨日だ」
本から視線を外さずに言ってのける二宮が自体の隊員の誕生日を忘れたことはない。つまりナマエも二宮隊のメンバーのようなものだということだ。
「ごめんねナマエちゃん!誕生日プレゼント用意してなくて・・・」
「いいえ!こうして一緒に遊んでくださるだけで誕生日プレゼントみたいなものなので!嬉しいです!」
「なんていい子なの・・・!」
氷見はナマエの誕生日を祝えなかったことを悔やんでいるが犬飼は違った。誕生日当日である昨日、ナマエはボーダーにこなかった。何故か。答えは明白だ。誰かに誕生日をお祝いしてもらっていたからだ。辻も彼女の誕生日を知らなかったみたいだから、彼ではない。では誰が誕生日の彼女を独占していたのか。考えるだけでも震えが止まらない。
「ミョウジさん。昨日誰と一緒にいたの?」
そしてついに辻は聞いてしまう。
「ゆうくんです!」
誰?と頭の上に疑問符を浮かべる四人。しかし男であることは間違いなさそうだった。
「毎年誕生日にお祝いしに来てくれるんです。昨日は大きなケーキを買ってきてくれて・・・」
両手を頬に添え、赤くなるその姿は恋する乙女そのものだった。