北信介と付き合い始めてから一ヶ月。

「ナマエ、今日はうち来れるか?」
「はい!おばあちゃんにお料理を教えてもらうって約束しました!」

ナマエは順調に外堀を埋められていた。

「き、北さんの家にご挨拶に行くんですか!?」
「ご挨拶ってなんや。遊びに来るだけや」

侑は手にもっていたバレーボールを落として叫ぶ。それに白々しく応える北信介だが、肝心のナマエは何にも気づかずにおばあちゃんのお料理美味しいんだよね!とご機嫌だった。

「・・・ナマエ、いつの間に北さんの家に行ってたの?」
「部活なくて倫くんが整体行った日」

北とナマエが付き合い始めてからというもの誰かに用事がない限りは3人で帰っていた。角名は自分の知らないうちに身内に紹介なんてことが起きていたことに驚き鋭い目つきをさらに尖らせる。よく考えてみれば北さんがナマエのこと名前呼びするようになったのもその日だった気がする。しかしあの北信介に文句など言えるはずもなく頭を垂れた。

「角名も来れるか?」
「え」
「あ、ええなぁ!角名、北さん家行くんか!?」
「侑も来るか?前もナマエが来た時飯作りすぎて大変やったしなぁ」
「飯・・・」
「治も来るか?銀島は?」
「お、俺はええです」

結局、ナマエが心配な角名、面白がっている侑、飯にひかれた治がお邪魔することになり、ナマエはこれでおばあちゃんとたくさん料理を作れると喜んだ。





「あ、ナマエちゃん!いらっしゃい!」
「おかあさん!お邪魔します!」
「おかあさん!??」

侑は出迎えた北母との会話に驚きの声を上げた。角名に至ってはポカンと口を開いて呆然としている。

「こんなにいい子が信介のとこ来てくれてよかったわぁ」
「まだ貰ってないで。貰うつもりではあるけど」
「いいこ・・・。嬉しいです!」
「いや、なんでお前は貰うのところに反応せぇへんのや!」

侑は思わずツッコんでんでしまう。

「まだあげません」

ようやく復活した角名が少し遅れて結婚挨拶をされている父親のようなことを言う。治は出された茶菓子を食べ続けている。カオスだった。

「じゃあ私はおばあちゃんのところに行ってくる!」

ナマエは早々に入ってきたドアとは別の扉をあげて台所であろう場所に向かった。北
母は私もこれから用事があるからと出かけてしまった。小舅、角名と婿、北信介が向き合う。少し睨み合った(北さんは多分そんなつもりはないんやろな)かと思えば角名が目を逸らす。

「いや、角名負けるのはやっ!」

というか今このメンツでここに残さんでくれ!気まずいやん!

「侑」
「はい!」
「お前、宿題終わらんやろ」

ぎくりと肩を揺らす。毎日人のものを写している侑が宿題なんてものをやる気があるわけもなく、先生が必死に作ったであろうプリントはカバンの中にぐしゃぐしゃに入っていた。
見てやるから出せと言われれば反抗するわけにもいかずにできる限りプリントを伸ばして机の上に出した。
治も角名も言われる前にプリントを出して問題を解き始める。台所からはキャッキャと楽しそうな声が聞こえてきた。

「あいつは大丈夫なんやろか」
「侑、学年一位を心配してる暇なんてあったら早く自分の解きな」
「あいつ一位なんか!?」
「だいたい一位だよ」

頭がいいとは思っていたけれど一位だったのかと初めて知る事実に興奮する。

「バレー部の平均偏差値上がるなあ!」
「平均が上がったところでお前が上がるわけではないんやけど」

ひんやりとした北の冷たい声に3人はガチンと固まる。

「はは。冗談やん」

全く笑えない冗談にハハハハハ、と乾いた笑い声を漏らした。

「あいつはすごいからな」

柔らかな顔で笑う北に角名は頷く。2人は恋敵であったとは思えないほどに分かり合っていた。

「ナマエを、よろしくお願いします」

真剣な空気になって双子は動きを止めた。

「大事にします」

敬語になった北に3人は北の覚悟を見た気がした。



しかし侑には一つ言いたいことがあった。

今、俺たちがいるこの場ですんな!!!!!!




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