北先輩と付き合えた。それは嬉しい。すごく嬉しい。だけど私の頭の中にあるのは北先輩との楽しい学校生活ではなくて、どうしたら倫くんと仲直りできるのかだった。
図々しいのは分かっている。だけど倫くんとこのまま話さなくなりたくはなかった。
もやもやして眠れなかったけれど私の事情で部員に迷惑をかけるわけにはいかない。いつも通りの時間に家をでた。

「あれ?倫くん」

そういえば私に付き合っている倫くんも同じ時間に出てるんだった。目が合うなり駆け出した倫くんを追いかける。

「わ、わわ」

夜に雨が降っていたらしくて水溜りで滑って転んだ。倫くんは一瞬振り向いて焦ったように私を見て、また前をむいた。

「痛い・・・」

卑怯だとは思ったけどこう言えば倫くんは私のところにきてくれると思った。

「・・・大丈夫?」

思っていた通り倫くんは私のところまで来てくれて、擦りむいた足にハンカチを当ててくれた。

「・・・倫くん、私、先輩と付き合えたよ」
「そう」
「倫くんのおかけだよ」
「別に。飽きただけだから」
「倫くんが私のためにそう言ってくれてるの知ってるよ」

倫くんは一瞬固まった。それからどうでもいいことのような口ぶりで勘違いだから、とそっぽを向いた。

「倫くん、私ね、倫くんが私のこと見ているよりは倫くんのことを知らない。だけど倫くんは私にとって大切な人だからちゃんと見てるんだよ」

応急処置として傷の多い膝に絆創膏が貼られた。じわじわと血が滲んで白いガーゼの部分を汚す。

「はぁ」

地面に視線を向けて小さく縮こまる倫君の頭に手をのせる。

「ありがとう倫君」
「・・・背中のって」

自分より大きな背中に体重を預けた。ぐんと視線が高くなって心地の良い香りのする首にしがみついた。

「・・・うるさい小舅にでもなろうかな」
「倫君、北先輩にうるさくできるの?」
「・・・無理」

ポツポツと会話をする。いつもみたいに話せるのが嬉しくて堪らなかった。







「ひゃっ!」
「ナマエっ!」

一段と仲が良くなったかのように見える二人を眺める。角名によれば別れたらしい。しかしいつもにも増してガードが硬い。

「あれ・・・本当にもう付き合うとらんのやろか」
「付き合うてないで」

自分の背後から聞こえてきた返事は北さんのものだった。

「北さん!」
「治も色々気ぃ使うてくれたみたいやな。ありがとぉ」
「い、いえ!」

ピシッと姿勢が正される。あいつが角名と付き合うてないんやったら北さんと付き合うてるんよな?
仲良くならんで会話をする二人を見ても北さんは一切態度を変えなかった。

「あのー北さん。アレ、大丈夫なんですか?」
「まー嫉妬はするけどな。ミョウジが楽しいんならそれでええ」

流石我らが主将だとでも言うべきか。北さんはやっぱり北さんだった。

「北さんは、」

あいつのどこを好きになったんですか?
そう聞こうとしたけれどいつの間にか北さんは彼女の元にいた。練習試合の相手にナンパされているのを助けに行ったらしい。相手は北さんの正論パンチにやられてしょぼんと落ち込んだ様子で自分の高校のチームメイトの元へ帰っていった。

「ほんまに好きなんやな」

より強固となったミョウジナマエのセコム。怪我の一つも許さないとでも言わんばかりにぴたりと張り付いていた。

「・・・あいつはあれでええんやろか」

側からみれば目つきの悪い男二人に囲われたミョウジは幸せそうに笑っていた。
まぁ、気付かんならそれでええか。




[*prev] [next#]
TOP

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -