好きな子が恋に落ちる瞬間を見た。
「落とし物だよ。靴を落としてしまうなんてまるでシンデレラみたいだね」
童話に例えるその言葉は他の誰かが言えばキザだと思うのだろう。
「足を出してごらんプリンセス」
階段の踊り場に跪いて彼女に靴を履かせる彼の姿は王子様そのものだった。
六頴館高等学校は今日でテスト期間が終わった。いくら進学校とはいえ、午前中で学校が終わる貴重な日だ。六頴館の生徒はこぞって街に出かけた。俺だって、ボーダーで招集をかけられているわけでもないから、ちょうど今上映中の恐竜映画を観に行こうと思っていたところだった。
「新ちゃんお願い!ついてきて!」
「・・・ひゃみさんについていってもらいなよ」
「今日ひゃみちゃんオペのみんなで遊びに行くって言ってた!新ちゃんしか頼れないの!お願い!!!!」
キュッと制服の裾を握って上目遣いで頼みこむその姿はとても可愛らしい。この“お願い”に弱いことを彼女は知っているのかもしれない。
「・・・凪に渡したらすぐ帰るから」
「ありがとう新ちゃん!」
いや、彼女の喜ぶ姿が見られるなら本当は頼まれなくたってついていく。だけど今のこの関係が心地よくて、一番近いこの距離を手放したくないから、俺は仕方がないとでもいうように肩をすくめる。