小説(雷霆/番外編) | ナノ

Peeping Tom


 談話室のソファーから安らかな寝息が聞こえる。誰かと思って見れば――ライだ。

 クッションを枕替わりに。ソファーカバーを軽く握る寝姿が何とも愛くるしい。まるで宛も磁力があるかのように、リョウの目はライへと自然に引き付けられてゆく。

 スカートから覗く真白い脚は、無防備で危ういまでに清らかだ。悪いとは思いつつも、リョウはそれから目を背けられない。

 如何に彼がストイックであっても、やっぱりそこは若い男な訳で。目の前に、それも伸ばせば直ぐ触れる範囲に魅力的な肢体があれば抑えろと言う方が酷な話である。

 一歩、二歩。静かに音を立てぬよう覗き込む。微かな振動を感じて身を捩りながら出した声がとても悩ましく、今の今までなら抑えられた衝動がいとも容易く崩れそうになり、寸前で“いかん”と頭を振った。

 相手の承諾を得ずに触れるとは、許されない事だ。ましてや寝てる相手を……だ。

 だがしかし、普段の様子から察するとライは自分を嫌ってはない。寧ろ好かれてる自信なら十分ある。もしかしたら案外すんなりと受け入れてくれるやもしれないが、結局それは希望的観測に過ぎないだろう。

 第一このままでは自分が最も軽蔑する類の人間と同じになってしまう。女性は守って然るべき。こと愛する女性なら尚更だ。

 ここはやはり紳士的に。

 起きるのを待つか。いや、彼女の自室へ移してやるのが妥当だろう。兎に角、斯様な寝姿を他者の眼になど晒したくはない。

 そう、特にあやつには――。

「あっ!?」

「あっ……」

 リョウが悶々と考えを巡らせていた丁度その時。突如現れた男が、こちらを見て目を剥く。一瞬にして沈黙が辺りを包んだ。

「……」

「……」

 後ろめたいことはしていないが、後ろめたい気持ちを抱いていたのも事実で。どうにかすると、挙動不審に見えたのかもしれない。男は目を瞬かせ、口をあんぐりと開けている。“言い繕わなければ”と思ったと同時、男がけたたましい叫びを上げた。

「いやぁ、すみませーんっ! まさかまさか、お二人が良いことしようとしてたなんて、思っても見なかったんでっ! それにしても駄目ですよぉ、こんな誰に見られるか分からない場所で。あっ……私、邪魔ですよね!? 退散しますんで、どうぞ続けてくださいませ。そうだ。良かったら、どなたも来ないように、見張りますけどっ」

 止める余地もなく、大声で。アンバーは甲板まで筒抜けるくらいの声を響かせる。

「アンバー、君は……」

 普段のリョウなら“まあ、いい”と続ける所だが……。流石に今回ばかりは失言が過ぎたらしい。余りの煩ささに、ライが目を醒ます刹那。アンバーが、凶器の右手で制裁パンチを食らったのは言う迄もない。
 



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