★笑顔を見せて【1】






(笑顔が見てえ…ルーシィが笑ってる、あの笑顔が…)


「オレはルーシィじゃねえと駄目なんだ…おまえの代わりなんていねえんだよ………」







☆★☆★☆★


荒々しく降り続ける雨の中、傘も差さずにルーシィの部屋へと向かっている一人と一匹。

途中でどこからか視線を感じて、足を止めた。

「どうしたの…ナツ?」

不思議そうにナツを見下ろす相棒。
ナツの目線の先には、何者かがこちらを見ながら薄笑いを浮かべて立っている姿が目に入った。

そして、自分たちとは逆方向へ走り去って行く。

黒いフードを被り顔が見えなかった為、はっきり認識が出来なかったが、
不意にハッピーが翼(エーラ)を下ろし、ナツの肩にしがみついてきた。

「誰だ、アイツ…?」
「オイラ達の方を見てたよ、…ナツ」

ハッピーは気味が悪いと、早くルーシィの所へ行こうとナツを急かしていた。






ナツは窓枠に手を掛けて、慣れた手つきで部屋へと入っていく。
ハッピーが翼を広げ、ナツより先にルーシィの胸へと向かい飛んで行った。

すると、部屋の奥から突然、涙声でナツを呼ぶ相棒の声が聞こえてくる。

「ナツぅ…、ルーシィが…ルーシィが、変だよぉ…」
「へんって、…何言ってんだ?いつもの事だろ?」

ハッピーの慌てている様子に気にも留めず、笑いながら彼女の元へと近づいていく。

壁に寄り掛かって座っているルーシィの姿に何故か違和感を感じながら、グスグスとハッピーが泣き出した所為か、…嫌な予感がしたのだった。

「…ルーシィ?」

緊張の面持ちでそっと顔を覗き込んでみるが、いつもの至近距離にも関わらずルーシィからの面白い反応がない。
どこを見ているのかわからないような瞳で、意識がないというのか…心が、感情が…全くないように感じた。
恐る恐る両手でルーシィの頬を包み込んでみると、


ーー温かい。


「…ハッピー、ルーシィどうしたんだ?」

相棒にも理解しがたい状況を知りながらも、震える声で問い掛ける。

「オイラにもわからないよぉ!!ルーシィ…お人形みたい……。何もしゃべらないし…、オイラを見てくれない……」

うわ〜んと、泣き叫ぶハッピーの横でゆっくりと俯くナツ。
さり気なく言ったであろう相棒の一言が引っ掛かった。

「…人、形…?」

目の前に座っている人はルーシィであって、ルーシィではないように映って見える。

大人しく身動き一つしないルーシィの腕を掴んで、ギュッと身体を引き寄せた。


「ルーシィ温けえぞ…、ちゃんと生きてんだよ。…人形なんかじゃ、ねえ……」


泣いているハッピーの頭を撫でて落ち着かせるようにーー。

「ルーシィ、…うっ…グスッ、…元に戻るよね?…ナツぅ?」
「おう!当たり前だろ、ルーシィだぞ!」
「…ナツ、何を根拠に言ってるの?」
「ん〜?…ルーシィだから、大丈夫だろ?」

ニカッと相棒を安心させようと、笑って見せた。
そうだよねルーシィだもん、と涙を拭い目を擦りながら彼女に甘えるようにして傍へ寄る。

ナツはハッピーに気づかれない程度に、軽く息を吐き出した。
動揺している自分を隠すようにーー

ハッピーに掛けた言葉は、自分に対して励ます言葉でもあっただろう。


今、腕の中にいるルーシィは抵抗せずにナツに身を任せている。
その姿がルーシィではないと、言っているようで胸が痛かった。


(どうしちゃったんだ?不法侵入ー!って怒れよ。……笑ってくれよ、…ルーシィ)


グッと腕に力が籠もった。



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