★笑顔を見せて【7】 (終)





ルーシィは嬉しそうに笑い合っているナツとハッピーを眺めていたが、
ナツの首に両腕を回してその温もりを感じながらゆっくりと目を伏せてしまった。
そんなルーシィの様子に気がつき、顔を覗き込むナツ。


「どうした、ルーシィ?」
「ナツ、…あたしのこと…嫌いに…ならなかったの?…こんな試すような事をしたのに…、本当に…あたしで、…良いの?」

唇にグッと力を入れた。
ナツの瞳を――真剣な眼差しで見続ける彼女の大きな瞳が絡む。

ナツの動きが止まり抱えていたルーシィの両足をそっと降ろした。
背中に回している腕は、そのまま彼女の肩へと移動して離さないままで――。

「ためす?…ためすって何だ?…それにルーシィをキライになるわけねえじゃん!
…キライになるより、好きだぞ」


「…えっ、今何て言った?」

おまえ耳悪ぃなあと呟き、

「好きだぞ、ルーシィの笑った顔が一番、大好きだ!」

頬を染めて今まで見たことのない表情をしたナツ。ルーシィは、へへっと照れ笑いのような彼の笑顔を目に映して、

(ドキドキする…)

心臓がうるさい。苦しい位に鳴り響いている。
ナツに気づかれないようにそっと、目を擦って身体の向きを変えた。



不意に何かを思い出したようにあっと、口を開く。

「そういえば、ナツ達あの手紙読んだのよね?……あたしの――…手紙は今、どこにあるのかしら?」

恐る恐る尋ねるルーシィを余所に、予想通りというのかその答えが返ってくる。

「ああ、手紙…そういやわかんねえな、…消えちまったんじゃねえか?」
「そう…、って消えるわけないでしょ!?…アンタが燃やしたのよね?」

突っ込みを入れつつ、ナツのことだから理解出来てしまう。

(まぁ…恥ずかしいし、丁度良かったかも)

ふぅ〜っと軽く息を吐き、顔を上げたルーシィだったが――

目の前でやたらと不自然な笑みを見せるナツが目に留まる。
明らかに、ニヤついている笑い方であった。

「何よぉ〜ナツ!…変な、顔」

何か企んでいるような様子に戸惑う。

「そういや…思い出したことがあってよお、…ルーシィはオレのこと…かんしゃ、してんだろ?
…ん、かんしゃって何だっけ?……お!あれだ、好きってことだろ?…なあ、ルーシィ?」
「…へっ?…な、何で覚えてるのよ!…ってか全然意味が違うし!もう、やだぁ〜忘れなさいよぉ…ナツ!」
「無理!」

アハハと大笑いしながら逃げていく。
ナツに反論しながらも真っ赤な顔をして、否定になっていない素直な反応を見せるルーシィ。
さっきまで身動き一つしなかったことが嘘のようだ。
ナツとルーシィを近いようで遠い距離から見守る一匹の青い猫の姿が見える。
逃げ回るナツを目で追いながら、ルーシィに近寄っていく。

「ルーシィ…オイラ、頑張ったんだよぉ…もう絶対無茶しないでね?」

今回、一番働いてくれた、いや大活躍なハッピーはルーシィに寄り添う。甘えるようにして――。

「…ありがとハッピー…そうねぇ、今後もあの相棒さん、次第かしら?」
「ルーシィ〜」

彼女の言葉に目を潤ませて、翼で上下に動く。

「ううん…冗談よ。もう心配かけないから大丈夫よ」

クスッと笑い、安心させるように頭を撫でた。

「あいっ!…じゃオイラはナツと違って空気が読める猫ですから…、シャルルん家に行ってくるぅ」

言い終わる前に窓からビューンと飛んでいったハッピーの翼から受ける風に、金髪が揺れ動いた。

「えっ、ちょっと待ちなさいよ、ハッピー!」

部屋中にルーシィの叫び声が響く。
ふと静かすぎる部屋の異変に、思考が切り替わったことにより周りを見渡してみた。

「…やっぱり」

視線の先に見えるものは案の定、アイツの姿。
疲れたのだろう、ルーシィのベッドでうつ伏せに寝転んでいる。
気持ち良さそうな寝顔を眺めながら、口元がつい緩んでしまう自分に笑えてくる。
そっと、ナツの身体に毛布をかけていつの間にかルーシィも夢の中へと入り込んでしまった。







「……んっ?(あれ、あたし…寝ちゃったんだ)」

パサッと足元に落ちた毛布に視線を移し、目の前にいるはずの人がいないことから、自分に毛布をかけてくれたのがその人だと悟った。


(ナツ、どこに行ったのかしら…)


床に手を付き立ち上がろうとして、見えた光景に目を引く。
外は真っ暗で、すでに夜になっていたが、今夜は満月だからか…月明かりが、とてもきれいだった。
その月でも見ているのであろうか。
ナツが窓の外を眺めながら床に座っている姿が、何故か切なく心が揺れた。
若干、猫背で丸くなっている背中が目に映る。




(今夜の月はキレーだな…、なんか吸い込まれそうだ。
未来のオレ達ってどうなったんだろうな、聞きたくても聞けねえしルーシィは笑えたんかな、未来のオレはあの時、間に合わなくて――。
ずっとあのまま笑わない人形のようなルーシィの傍にいたんだな。
オレ、そんなの考えらんねえぞ!…だから未来のオレも、ルーシィもちゃんと笑ってるって信じてるぞ)





「…ナツ」

マフラーが垂れ下がるその背中に目を向けて、そっと近づいていたルーシィは両腕を伸ばしゆっくりと背後からナツを包み込んだ。
小さな声で名前を呼び、静かに目を閉じる。

「おっ!?…何だルーシィ?」
「…ううん、何でもないよ。…そのまま、じっとしていて」
「はあ〜?…相変わらず変な奴、だな」


(…でもルーシィ温けえ、…火竜の自分とは違う、これがルーシィの温もりなんだな…すっげえ心地いい…)


温かくて目を閉じそうになりかけた途端、耳元でルーシィが囁いた。

「…ねぇ、ナツ。…あたし、これからもっと強くなるから…だから、…ナツの傍にいたい」

ルーシィの腕が少し震えているのがよくわかる。
その震えを止めたかった。
それができるのは、求められているのは――ナツ、だけである。

「ルーシィは強いじゃねえか。オレの方がもっともっと、強くなるから
…いつも傍にいて、笑っててくれよ」

ルーシィの両手を軽く握り、身体を反転させて見上げるナツ。

「…ありがと、ナツ。…嬉しいよ」

頬を染めて、満面の笑顔をナツに見せてくる。


「おっ!?…笑った」
「ん?…何?」
「おう、やっぱり…笑った顔が似合うと思ってよ」

ナツの台詞にすでに赤かった顔が熱を帯びる以上に火を噴く。

「…あ、あたしだけじゃないわよ、…アンタも、ね!」


オレも、か…と笑い合う二人。


見たかったルーシィの笑顔――、やっと見せてくれた。




☆★☆★☆

≪あとがき≫

ゆーくさん宅のTry?で投稿させて頂きました作品です。
初の切甘…連載に挑戦して途中から凹むほど悩みましたね。
ゆーくさんにアドバイスを受け、孤翼さんからも素敵なイラストまで頂きまして、皆様から嬉しい感想等ももらい励まされたことを覚えております^^

ナツとルーシィの笑顔がテーマ?かなぁ…私の中では非常に大切なものになりました。

ラストの「ルーシィがナツを包み込む」シーンですが
ヴェラーノのアルさんが描いていらしたナツルーをイメージさせて頂き、書かせていただいたものです^^
後ろハグ良いですよね〜(ニヤニヤ)

おぉ、あとがきなのに長くなっている(>_<)
では、目を通して下さった方ありがとうございました。



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