ニッチで大きな

ハローハロー、Mt.レディの妹です。


・ニッチで大きな

 ヒーローデビューした筈の姉が、人様を踏んづけてお金を取るという商売に精を出しているところを目撃した私は、果たしてどのようなリアクションを取るべきなのだろうか。

「キタコレ」
「キタコレ」
「キタコレ」
「キタコレ」
「……」

 ギュッ。

「ぐあああ――」
「くっそぉ、前方の奴らが羨ましいぜ!」
「早く俺も踏まれたい……ハァハァ」

 そんな目がイっちゃっている男達が並ぶ列の先には、「一踏五千」と書かれたシンプルな看板が。……風俗かよ。
 引き攣った顔を自覚しつつ顔を上げると、げんなりした表情の姉とばっちり目が合った。

「…………え゛? ちょ、かすが、何でここに」
「……」
「あの、違うのよ? これはそう、その、ね! 会社の為、上司命令、みたいな〜」
「……まあ、その、ほら、父さんと母さんには言わないから、安心してよ」
「待って待ってかすが! ご、誤解が――」
「でも、今後の姉妹付き合いの在り方は考えさせて」
「かすが――――――――!!!」


・変なこだわり

「緑谷君のこのノート、前々から見て見たいと思ってたんだ。ちょっとだけ覗いてもいい?」
「うん、いいよ! ハイ、これ」
「……何だ、このペンで書き殴った大量の……サイン? 緑谷君の字じゃないよな。大事に書き溜めたノートにこんな落書きするなんて! どこのどいつだ!」
「……それ、オールマイト本人が書いた奴なんだ……見ての通り、めっちゃ書き直しされたけど」
「え゛」


・告白

「各会場に1体……! 破壊不能の、圧倒的脅威!! それを目の前にした人間の行動は正直さ……」

 そこらのオフィスビルよりも巨大な仮想敵が、生徒達を慈悲もなく追い回す。冷や汗をかきながら全速力で走りだす受験者の群れが、一斉に悲鳴をあげた。

『無課金の帝王とか自称してたけど隠れて課金してました!!』
『みつるくんのこと蹴ったりつねったりしてたのはホントは好きだからです!!』
『父さんのスマホでよくエロサイト見てます!!』
『佐助の遊び相手の女中をいびって職場から追い出したのは私です!!』
『隣の娘の椅子の匂い嗅ぎました』

「いや正直だけど」
「地獄絵図だな…………あと学生にしてはおかしなことを言ってた奴がいたような」

※一応、例の女中に間者疑惑があったという正当な理由はあります。


・将来の夢

「トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう。『生徒の如何は先生の自由』。ようこそ、これが雄英高校ヒーロー科だ」

 迫力たっぷりの相澤先生の宣言を聞き、生徒達の空気が一気に引き締まる。浮足立った雰囲気から一転、緊張感がその場を支配する――かと思いきや、1人だけ背景に花でも飛ばしそうなほど、やけににこやかな男子生徒がいた。頬は紅潮し、緩み切った口元からは涎まで……いやほんと何で?とにかく涎を垂らして笑っている。
 その生徒はこのクラスの中でもぶっちぎりの低身長で、子供のように小柄な体躯の持ち主だ。この体力測定では寧ろ誰よりも苦労しそうなものだが、もしかしてああ見えて運動が物凄く得意なのか。それとも、身長を補って余りあるほどの何かとんでもない個性の持ち主なのか。一見あほづ……いや、その、愛嬌のある表情を晒しているその子を要チェックリストに加えながら、私も改めて気を引き締めた。

 峰田実という少年の為人を知り、この時の峰田少年の脳内を察して思わず頭を叩くのはもう少し後の話だ。


・私の中の消しゴム&使われる女…

 トイレから教室に帰ってくると、ヤオモモちゃんの周りに数名クラスメート達達が集まっていた。彼らが何故か消しゴムを片手に興奮気味に話しているのを横目に、ヤオモモちゃんのすぐ後ろである自分の席に座り、ごそごそと筆箱を隅から隅まで漁る。
……あれ、無い。

「……あー」
「? どうかなさいましたの、岳山さん?」

 私の落胆の声を耳聡く聞き取ったヤオモモちゃんが、くるりとこちらを振り向いて首を傾げた。

「いや、赤ペンのインクが切れてて……新しいのを持ってくるのを忘れてたんだ」
「あら」

 そう言って上品に口元を押さえたヤオモモちゃんの後ろから、にょきっと瀬呂君の醤油顔がせり出した。

「あれ、岳山も忘れ物したんか? じゃあ八百万に作って貰えよ!」
「峰田に便乗して俺らも消しゴム『創造』して貰ったんだけどさ、すっげぇ消えるんだぜ! コレ!!」

 更にその隣から消しゴムを掲げながらテンション高く話す上鳴君と、ヤオモモちゃんの前の席でやたら息荒く消しゴムを触りまくる峰田君のお陰で、漸く事情が呑み込める。キングオブ消しゴムだの訳分からんことを言い出す彼らを尻目に、露出した手の甲から本当に赤ペンを出そうとしたヤオモモちゃんを慌てて制止した。

「あら……必要ありませんの?」
「んんんー、他の色ペンでも代替できるしね。それに1度こういうことでヤオモモちゃんの凄い個性に頼っちゃうと、また何かあった時に甘えちゃいそうな気がしてさ。気持ちだけ受け取っとくよ。でも、親切にしてくれてありがとう」

 そう言ってにこっと笑うと、ヤオモモちゃんは少し目を丸くしてから、同じようにふわりと微笑み返してくれた。


「なっ、何だあの空間……眩しい……!」
「目が、目がァ〜!!」
「くっ……何だろう、俺達途轍もなく汚れた生き物になった気分だぜ……」
「こんな時、どうすればいいのか分からないの……」

 席に着けばいいと思うよ。
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