長編 | ナノ


5.はじめての味




お館様のご提案により、我が忍隊に加わることが決まったなまえ。
正直、女子(おなご)であるということに最初は驚いた。女子とどう接すればよいのかが未だによくわからぬ俺は一瞬不安を感じたのだが、佐助に対する物怖じしない態度や,
堂々とした姿勢にたくましさを感じ、多少不安が和らいだことを覚えている。



俺は、忍と金だけの関係になってしまうことを嫌い、互いに心から信頼し合えるような主従関係を築きたいと昔から思い続けている。実際に、今の忍隊では良い関係が築けていると自負しているし、その関係性の良さは日ノ本において一番であるとも感じている。



ただやはり、それまでずっと忍として生きてきた者たちには、初めのうちは相当な違和感を与えることになるであろう。よって、入隊してからこの関係に慣れるまでは、それなりの時間が必要だ。佐助でさえも最初は俺のことを「幸村様」などと呼び、口数は少なく、口を利く際は必ず跪いていたのだ。今思えば懐かしいことだな。



だが、なまえはすぐにこの、忍隊特有の関係性に馴染んでくれた。
物怖じしない性格ということもあるのだろうが、俺にも気楽に接してくれるのは大変ありがたい。



なまえは忍として、日ごろから城やその近辺の警備にあたってくれることはもちろん、その合間に俺の鍛錬にも付き合ってくれる。実際に手合わせをする前は、やはり心のどこかで女子であるという意識が邪魔をし、全力で戦うことができないのではという心配が多少はあったのだが、先日の、『ドンガラガッシャーン!!』…との手合わせからもわかるように、彼女相手にそんな心配は無用であった。



……今、むこうで女中が鍋をひっくり返したみたいだが大丈夫だろうか。



また、政務で行き詰まったときにはともに甘味をつまみながら、世間話に付き合ってくれる。なまえは俺にいろいろな話をしてくれるのだ。今までに訪れたことのある、日ノ本各地の甘味処のこと、忍ならではの慣習(なまえいわく”忍あるある”)、それに里にいたころの佐助の話。

彼女と二人で話しているととても楽しく、政務で凝り固まっていた身体のいたるところが楽になっていくのを感じた。




ただ、なまえは自らの話は殆どしてこない。なまえ自身のことをもっと知りたいと思っていても、どことなくそこに触れてはいけないような空気が出ているような気がしてしまう。勿論俺の思い違いかもしれぬし、思い違いであって欲しいとも思っている。




女子に対して「もっと知りたい」だなんて、破廉恥であろうか。しかし、彼女は俺が今まで見てきた(は、は…破廉恥な感じで見てきたのではない)女子とは違う。




なまえと過ごす時間は、驚きと喜びが一杯で。まるで、新しい甘味処を見つけたときのような……。









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