「――というわけで、玄はこの町で暫く療養してもらわなきゃならない」
狼が医者から言われたことを火焔隊隊士らに伝えた。


「――そうスか」
「はあ…、療養…」
わかりましたとは言うものの、ふに落ちない顔をしている面々に、狼が苦笑した。
「元気そうだが、左肩から腹にかけてざっくりやられてる。こう見えて、かなり重傷なんだぞ?」
「「いっ!?マジですか!?」」



静香がそれに付け足した。
「そ。ここまで動けるなんて、普通じゃないわよ」
「あのね…、人を化物みたいに…」



「……静香は、人のこと言えませんよ」
さ、いいから座って下さいと桔梗がいさめた。
それに、渋々従いながらしらっと答えた。
「私はべ…」
「静香っ[怒りマーク]」



玄がそれを横目で見つつ、欠伸をした。
「そういうわけだから、君達は先に帰ってね」
「――ん?ここで療養ということは…」
杢太郎が少し考えて、声を上げた。




……



た、隊長を一人ここに!?




狼が顔をしかめて、重々しく頷いた。
「――残念ながら…、そうなる」
「…ちょっと、残念ってどういう意味?」




杢太郎がおずおずと言った。
「療養するってーと…、こちらさんでご厄介になるってことですよね?ご迷惑では…」
「あー…それは…、まあ…」
狼が言いずらそうに口ごもる。
押し退けるようにして、つかつかと神城が火焔隊の前に仁王立ちになった。




「か、神城の旦那?」


「――そりゃあさァ…、」


こめかみがひくり、と動いた。




「迷惑に決まってんだろ!!」





盛大に頬を膨らませた神城に視線が集まる。



「――大体っ、怪我人のくせにウチの大事な預かりモンに手を出すわ、ひ、膝枕させるわ、エロ発言ばっかりするわ…。空気が汚れんだよ!」
火焔隊隊士らの間に、膝枕は別として…、動揺に似たものが走る。



「手ェ出…!?」

「ひ、膝枕…?」

「エロ発げ…!?」



「……前半は、ただの妬みじゃないの?」
玄の呟きが響く中、杢太郎が口をパクパクさせて玄に駆け寄った。




「たたたたた隊長っ!!」
「……何かな?杢ちゃん」
「は、ははは疾風隊の大事な預かりモンって…」
「ん?そこの小娘のことだけど?」
玄が面倒そうに咲を差した。


その左手を辿り一番近くにいた杢太郎を筆頭に、火焔隊がまじまじと咲を見つめる。



「「…」」


「? えーと…、」



鈴鳴がさりげなく、咲の前に出た。火焔隊隊士らは鈴鳴の脇の隙間から見える咲を首を捻ったり、背伸びをしたりして見ている。
そして、一斉に生唾を飲み込んだ。




「「――こ、この方が…」」




「――へ?」
「おい、お前ら…って、いっ!」
鈴鳴を押し退け、杢太郎が咲の前に屈んだ。



「…」
「あ、あのー…?」
見下ろされている咲は、そろそろと杢太郎を見上げた。



おもむろに、杢太郎が後ろに手を回し、一番後ろにいた栄吉に向かって手招きをした。
「――ちょい、栄吉」
「いてて…、ん?」
栄吉がこの状況に首を傾げながら、前に進み出た。ついさっき捻られた首が痛むらしく、手をやっている。



「――このお嬢さんが、なんスか?」
「……お前は、どう思う?」
「は?」
栄吉が目を丸くして、杢太郎の顔をまじまじと見た。いたって真剣、かつ真面目である。


……ふざけているわけでもなさそうだ。



「どうって…、何がスか?」
「………いや、あの…だから…」
いつもの杢太郎らしくなく口ごもり、ちらちらと玄の方を見やっている。
そして、声を低くし潜めた。



「……だから…その…、ふ、ふさわしいかってことだ」
「は?ふさわしい?」
ますます分からなくなってきた栄吉に、他の隊士が助け舟を出した。




「つまり、――俺逹の"義姉さん"にふさわしいかって聞いてんの」





  ね、義姉さん??





栄吉が口をあんぐり開けた。




……


も、もしかして…




「お、俺逹の…?いやいやいやっ」
栄吉はやっと、自分以外の隊士が言いたいことを理解した。



「――栄吉、オメエの言いたいことは分かる。確かに、俺逹と玄隊長は血は繋がってねェ…。でも、家族みたいなもんだろ!?」
杢太郎が栄吉の胸ぐらを掴んだ。



「苦し…!いや、俺が言いたいのはそうじゃなくて…」
「――見たところ、かなり若いが…、手ェ出した責任はとらなきゃならねェだろ。やっぱり、男として」
「……手ェ出…、まあ…そりゃ、そうなんスけど…」
栄吉がなんか違う気が…と首を捻りながら、とりあえず、同意した。
「うん、まあ…責任はとらなきゃ不味いッスよね…」





「――ね、桔梗」
静香が声を潜め、顔をしかめた。
「なんか訳分かんないこと言ってるわよ」
「……僕に言われても。もとあといえば、神城のせいじゃないですか」
神城が頬を膨らませた。
「俺かよ!!だ、だってさ、俺らが来「禁句ですよ、それ」……はーい、分かってます…」
「さてさて、これからが見物だな」狼が楽しそうに言った。






玄が顔をしかめた。
「ちょっと、杢ちゃん達。何の話をしてるの?」
「――隊長」
杢太郎が背筋を伸ばし、向き直った。


玄が目を丸くした。
「……改まっちゃって、一体どうしたの?」
「隊長、つかぬことお聞き致しますが、お年は?」
「年?25だけど?」
何いきなりと面食らったような顔をして、答えた。



杢太郎は静かに言った。
「……、そろそろ身を固めてもよいお年かと」
「なんで、急にそういう話になるかな…。余計なお世話だよ」
玄はため息をついて、背を向けた。




「大体、君達に心配されなくても僕には嫁の候補の一人や二人い…」
「「…」」
背中に殺気じみた視線が複数突き刺さるのを感じた玄がゆっくり振り返る。




「……何さ、その目は」
「「……隊長」」
「しらばっくれても、駄目、です!」
杢太郎が咲の両肩をがっしりと掴んで、玄の方に押しやった。



「――わっ!」

「は?ちょ…」



慌てて玄が起き上がろうとしたが、間に合わない。


バランスを崩して、前のめりになった咲を間一髪で鈴鳴が受け止めた。



「っと、」

「す、すいませんっ」



杢太郎がきっぱり言い放った。
「女遊びも色町通いもここまでにしてもらいます!この子に手を…って、アレ?」
「……杢、どうやら俺逹の勘違いみたいッスよ」




……



火焔隊隊士らの目に入ったのは、


しっかりと彼女を支えている、無口な疾風隊四番隊隊長の照れくさそうな笑顔で。




「……それにしても、よく転ぶよな」
「うっ…、気をつけます…」




「――ちょっと、」
仲が良さそうな二人に、機嫌の悪そうな声が降ってきた。




「重いんだけど」




玄は布団をさして、文句を言ったのだった。






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