がる空
36

翌日の午前、室長室にて。

「それで……ラビが相手をした個体とは違うもう一体のアクマは君達が破壊した、と」

組んだ手を口元に当てながら、コムイが重苦しい沈黙を破った。少し俯き加減なその顔からは、眼鏡の反射が邪魔をして感情を窺い知ることができない。コムイの座る机の前には、当事者である獄寺、山本、了平、そして事情を認識していたクロームが並んで立っている。守護者ではない京子とうざ…子供であるランボは、部屋で待機させられていた。室長室の壁際には、ブックマンとラビの姿もあった。

「ああ、そうだ」

獄寺が頷く。端的な答えに再び室内に沈黙が下りる。
山本がラビを追いかけた後。獄寺の嵐の炎による硬質化された装甲の分解、そして了平の強力な一撃により、アクマはあっさりと破壊されたらしい。その様子を目の当たりにしたリーバーは、コムイと科学班の面々によって昨夜の内にこってりと絞られている。コムイの後ろに控える彼の目の下の隈がいつにも増して酷い。
表情を見せないままコムイが大きく息を吐いた。

「君達―――」

再び沈黙を破ったのはコムイ。
死ぬ気の炎の力が露見した今、自分達の身はどうなるのか。

獄寺達は、息を詰める。


「教団内にはペット連れ込み禁止!言ってあったでしょ!」


ビシッ!とコムイが獄寺の肩にぶら下がる瓜を指さした。それを見た瓜がキシャアア!!と毛を逆立てる。

「「「「「「…………」」」」」」「…?」

三度目の沈黙。了平が一人?マークを飛ばす中、それを破ったのは意外にもクロームだった。

「……聞いて、ない」

(((((そこ違う…!!!)))))

了平とコムイ以外の全員の心が一つになった。
違うんだクローム、突っ込むところはそこじゃない。
クロームの返答に一瞬口を閉じたコムイ。しかし何を思ったのか今度は斜め後ろのリーバーに親指をビシッと向ける。

「リーバー班長が!」

「…聞いてない」

「えー、そうなの?言ったと思うん…」
「違うだろうがあああああああ!!!!!」

バアアアアンッ!!とリーバーがバインダーをコムイに向かって投げつけた。言葉を遮られたコムイが、頬に命中したバインダーと共に書類だらけの床に倒れ伏した。

「リーバー班長……ひどい…!」

「文句は空気を読めるようになってから言ってください!!」

腫れた頬を押さえプルプルと震えながら机にしがみつくコムイを見て、獄寺はドン引きした。やっぱりこいつ室長とかいう偉い奴じゃないんじゃないか…?という疑問が確信に変わりかけている。壁際で様子を見守っていたブックマン師弟は、話が全く進まない状況に帰りたくなっていた。近くのドアから自室に直行したい。



「さてと、冗談はさておき―――」

仕切り直しとばかりに、元の席に戻ったコムイが再び組んだ手を口元にやる。が、その頬は盛大に腫れていた。真剣な空気が台無しである。

「君達は、ボクらに話してくれていない…話せない事が多くあるようだね」

―――来た。
思わず、コムイ達の視線から逃れるように俯いてしまう。
しかし予想に反して、コムイの声は穏やかだった。

「そしてボクらも……君達に話すべきではないと、語らなかったことが多くある」

ハッとして山本が顔を上げる。何かしら悟っていたのか、残りの三人もコムイの言葉に顔を上げた。そして、思わず、


「お互いに、きちんと話し合うべき時がきたんじゃないかな」


安堵して、泣いてしまいそうになったのは。

きっと、困ったように笑うその表情が、綱吉に似ていたからだ。



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